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研究最前線 2024年4月18日

新たな物理現象の発見に期待!光渦の研究

渦を巻きながら進む特殊な光、「光渦(ひかりうず)」。レーザー加工や物質の性質の研究など、さまざまな分野で注目を集めています。リン・ユーチー 研究員らは「極超短パルス」と呼ばれる特殊なレーザー光を光渦に変換することに成功しました。「私たちだからこそできたチャレンジ」と語る研究チームを取材しました。

リン・ユーチーと鍋川 康夫の写真

光量子工学研究センター アト秒科学研究チーム
(左)リン・ユーチー(Lin Yu-Chieh)研究員
(右)鍋川 康夫(ナベカワ・ヤスオ)専任研究員

近年注目される渦巻き状の光

通常のレーザー光(図1A)は、スクリーンに当てると、ビームの中心が最大強度であるため中心が最も明るく見える。ところが、1本の軸を中心にねじれながら進む特殊な光の場合は、スクリーンに当てると中心が暗いドーナツ状に見える。ビームを断面にして模式的に示すと図1Bのような渦巻き状になる。これを「光渦」という。光渦は1974年にその特性についての論文が発表されて以来、世界中で研究が進められてきた。従来の光では実現できないような物質の性質の研究や「渦巻き状の微細な構造物をつくる」といった新たなレーザー加工技術が生み出されるとして、注目度が高まっている。

通常のレーザー光の位相Aと光渦のレーザー光の位相Bの図

図1 通常のレーザー光の位相Aと光渦のレーザー光の位相B

光渦でカイラル分子の謎を解明したい

リン 研究員はこれまで「サブサイクル光」と呼ばれる、光電場の振動周期よりも速い、極めて短い時間で発生するレーザーパルスの研究に携わってきたが、ある時、このサブサイクル光を光渦に変換して物質の変化を観測すれば、新たな発見につながるのではと考えついた。例えば、鏡像関係にあるカイラル分子(図2)のそれぞれの電子の振る舞いだ。構成する元素の種類も数も同じ分子なのに特性が大きく異なる場合があり、謎とされている。一方、光渦には互いに鏡像関係にある右回りと左回りの2種類の渦構造がある。「この2種類の光をカイラル分子に当てると、従来の偏光ベースの分析では得られなかった自由度と感度が得られるかもしれない」と心を躍らせたのだ。

カイラル分子の図

図2 カイラル分子

われわれが右手と左手を重ね合わせることができないように、互いに鏡像関係にあるカイラル分子は重ね合わせることができない。われわれの体を構成する生体分子の大部分はカイラル分子だが、生体への作用がまったく異なる場合がある。

カイラル分子中の電子の振る舞いを観測するには、高強度のサブサイクル光の極超短パルスが必要だ。しかし、いきなり実験で高強度を使うことは難しかったため、まずは強度の低い光を使ってサブサイクル光が光渦へ変換可能なことを実証することから始めた。

1年越しの実験で光渦を実証

そもそも、サブサイクル光の極超短パルスレーザーを発生させること自体が非常に難しい技術なのだが、リン 研究員ら理研のグループは世界に先駆け2020年に、簡便に発生させられる手法を開発していた。そのため、通常の光を光渦に変換する既存の手法を使い、サブサイクル光の極超短パルスレーザーを光渦に変換するところまではいたって順調に進んだ。

「ところが、この変換した光が通常の光渦とは異なる独自の性質を持つことを確認する手法がないことに気付いたのです。そこで、鍋川さんをはじめ、高い専門知識を持つ理研の研究者の方々にアドバイスをいただきながら、約1年に及ぶ試行錯誤を繰り返しました」とリン 研究員。その結果、ようやく光渦に変換されていることを確認できたのである(図3)。

サブサイクル光の極超短パルスレーザーが光渦に変換した様子の図

図3 サブサイクル光の極超短パルスレーザーが光渦に変換した様子

渦巻きの形状の光が反時計回りに回転している。

「今回の成果は、サブサイクル光の極超短パルスレーザーを発生させる独自技術を持っていた私たちだからこそできたチャレンジといえるでしょう」と語る鍋川 康夫 専任研究員。リン 研究員は「さらに高強度のサブサイクル光の極超短パルスレーザーの光渦への変換に挑戦し、カイラル分子の謎に迫りたい」と目を輝かせた。

(取材・構成:山田 久美/撮影:相澤 正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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