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研究内容

液-液相分離と生化学反応

 生体内では試験管内には再現できないレベルで様々な生化学反応が非常に効率よく進んでいる.このことは長らくの謎であったが,近年,液-液相分離という現象によって形成されるドロプレットによってその謎が解かれつつある.ドロプレットは膜のないオルガネラともよばれ,生体内で様々な反応を促進する場となっている.そして,タンパク質,RNA,DNAなどの細胞内の成分で構成され,細胞質に混ざるよりも分離して存在した方が安定な時に液-液相分離によって形成される.また,これまでその存在意義が不明確であった天然変性タンパク質がドロプレットを形成しやすい性質を持つことが明らかになり,生体内での多くの反応場の形成に寄与していることが明らかになってきた.本研究では特にドロプレットとその酵素反応との関係に注目し,生体内レベルの反応効率がどのように実現されているのかを明らかにすることを目的としている.そして,生体内レベルの反応効率を試験管内に実現し,下記のバイオ燃料電池などの産業に応用することを目指している. 

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生命の代謝経路を模倣して発電するバイオ燃料電池

 生命は摂取した食物を生体内代謝過程において分解し,生命活動に必要なエネルギーを生産している.この生産効率は高く,例えば10gの糖から取り出せるエネルギーは単三乾電池15本分にも相当する.バイオ燃料電池は,生命の代謝過程を模倣した燃料電池であり,酸化酵素と還元酵素を電極触媒に利用することにより,糖などを代謝する過程において発生するエネルギーを電気エネルギーとして電極に取り出す.そして特に近年,安全かつクリーンな電源として注目され,その実用化が待たれている.本研究では新たな酸化還元酵素の獲得や改変,また,その電極への効率的な固定化法など,様々な改良を施し,これまでにない高出力・高容量のバイオ燃料電池の実用化を行っている.分子生物学的手法,生化学的手法,構造生物学的手法を組合わせて研究を行っている. 

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DNA相同組換えに関与する蛋白質群の分子機構の解析

 DNA相同組換えとは互いに配列が類似したDNA鎖が交換される現象である.有性生物では,卵や精子などの配偶子を形成する際に必ずこの反応が行われ,生命は遺伝的多様性を獲得する.また,DNA相同組換えは癌や細胞死の原因になるDNA傷害を健常なもう一対のDNAと組換えることにより完全に修復する.このように,DNA相同組換えは遺伝だけではなく生命の維持にも必要な重要な機構である.DNA相同組換えに関与する蛋白質は数多く存在し,それらの機能不全が原因の遺伝病も多い.また癌化や老化,細胞死などに関係する蛋白質も多く,その機構解明が待たれている.これらのDNA相同組換えに関与する蛋白質群に注目し,その機能と構造の関係について,遺伝学的手法,生化学的手法,構造生物学的手法を組合わせて研究を行っている. 

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DNA相同組換えを行う蛋白質を用いた産業的応用

 DNA相同組換え全体の機構は未だ不明な点が多く存在するが,実際に相同領域を検索してDNAを組換える過程の研究は進んでいる.実際に,これらの過程で働く蛋白質を用いれば,簡単に試験管の中でDNAを組換えることができる.この性質をうまく利用して,病気の診断に用いることのできる試薬をはじめ,遺伝子工学に利用できる試薬の開発を行い,既に多数の特許申請を行っている.また,DNA相同組換えの完全な理解は将来的には相同組換えを人為制御することにつながる.安全な遺伝子治療や育種,交配技術なども視野にいれた応用研究も基礎研究と同時に行っている.

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