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2008年9月5日

星空をあなたの部屋に―プラネタリウムを作った研究者

2006年と2007年の和光研究所一般公開で行われた「プラネタリウムを作ってみよう」は、整理券がすぐになくなるほど人気が高かった。その仕掛け人が、仁科加速器研究センター延與(えんよ)放射線研究室の小貫良行 協力研究員だ。

小貫良行協力研究員

小貫良行 協力研究員

仁科加速器研究センター 延與放射線研究室

1977年、群馬県生まれ。理学博士。群馬県立館林高等学校卒業。2000年、新潟大学理学部物理学科卒業。2005年、新潟大学大学院自然科学研究科博士課程修了。同年より理化学研究所 延與放射線研究室 協力研究員。

手作りプラネタリウムの投影風景

図:手作りプラネタリウムの投影風景

小学生のころの夢は、宇宙飛行士。「向井千秋さんが宇宙飛行士に選ばれたり、ボイジャー2号が天王星に到着したというニュースを見て、宇宙って面白そうだなあと。向井さんは、私と同じ群馬県館林市出身なんです」。しかし、どうすれば宇宙飛行士になれるのか分からない。「一生懸命考えたんです。天文学者になればいいのかも……。早速宇宙の図鑑を買ってもらいました」。図鑑を読んでいるうちに、星座や星に興味を持つように。小学3年生のとき、望遠鏡を自作した。「星は見えませんでしたが……」
中学・高校ではサッカーに没頭し、サッカーでご飯を食べていきたいと夢見たが……。そしてサッカーの次に好きだった天文・宇宙の道を選び新潟大学へ進んだ。
 趣味は星空散策、特技は星座探し。そんな小貫研究員は、大学の天文部で活動する傍ら、新潟県立自然科学館で天文指導員をしていた。「手作りプラネタリウム」の原型は、そこで生まれた。2005年、理研に入所し、一般公開の人気イベントが誕生した。現在は「プラネタリウム製作キット エトワール」として(株)テクノシステムズから販売されている。価格は950円。「科学の入り口として星は最適、ものづくりの楽しさを知ってもらうことも大切です。子どもたちに作ってほしいので、どうしても1000円は切りたかった」
小貫研究員は「サイエンスチャット」にも参加している。組織や分野の枠を超えて集まった若手研究者が、一般の人に科学の楽しさを知ってもらおうと、定期的にサイエンスカフェを開催しているのだ。「研究者と一般の人が肩ひじ張らずに気楽に交流する、ご近所付き合いのような関係を目指しています」

専門は素粒子・原子核物理実験。「大学院に入ったころも天文へのあこがれはありましたが、素粒子・原子核物理実験から解き明かすことができる大きな宇宙の謎もあり、補い合う関係だと分かりました。この分野に入って良かった」。現在は、米国のブルックヘブン研究所(BNL)にあるRHIC(リック)加速器のPHENIX(フェニックス)検出器に組み込むシリコン半導体ピクセル放射線検出器の開発中だ。「陽子はスピンを持ち、回転しています。しかし、そのスピンの大きさは、陽子を構成する3個のクォークのスピンだけでは説明できません。この検出器で、陽子スピンの謎を解き明かそうとしているのです」
小貫研究員は、検出器の組み立てを担当。15×56×0.35mmのセンサーを4枚ずつ並べたものを40個作る。「陽子と陽子が衝突して生じた素粒子を精密測定するため、10μm以下、つまり赤血球1個分より高い精度で並べなければなりません」。気合いと根気で乗り切り、生産のメドが立ったところだ。PHENIX検出器への設置は2009年。2010年ころには、陽子スピンの謎が解き明かされることだろう。
最後に「目に見えない素粒子や原子核を分かりやすく紹介する楽しいサプライズを仲間と準備中なんです」と教えてくれた。何が出てくるか楽しみだ。

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2008年9月号より転載