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2008年11月5日

希土類ヒドリドクラスターでオンリーワンを目指す研究者

理研基幹研究所に、希土類ヒドリドクラスターの研究でオンリーワンを目指す研究者がいる。侯(コウ)有機金属化学研究室(侯召民(ショウミン)主任研究員)の島隆則協力研究員だ。希土類金属※1化合物は、空気中で不安定なものが多いため、扱いが難しく研究対象になりにくかった。しかしその特別な性質に注目し、希土類金属同士をヒドリド(水素)で結合した集合体(クラスター)を開発し、それを新しい触媒や材料開発へつなげようとしているのだ。幼いころから音楽に親しみ、今は研究の合間にコンサートホールに通い、オペラも観るという島研究員の素顔に迫る。

島隆則協力研究員

島隆則 協力研究員

基幹研究所 侯有機金属化学研究室

1972年6月、大阪府生まれ。東京都立戸山高校から1992年、東京工業大学工学部へ進学。2001年3月、同大学大学院理工学研究科化学工学専攻博士課程修了。ドイツ・フンボルト財団博士研究員などを経て、2004年5月、理化学研究所入所。

混合型多金属ヒドリドクラスターによる水素の付加・脱離

図:混合型他金属ヒドリドクラスターによる水素の付加・脱離

4歳からピアノを習い始めた島研究員。小学生のころは「ピアノ教室と警察署の剣道教室に通っていました。剣道の先生は厳しい人で、青あざが絶えないくらいでした(笑)。でも、精神面も鍛えられたし、とても楽しかったです」。中学生になると「音楽で生きていきたい! と思って、親や先生に相談したこともありました。やめておいてよかったと、今では思っています(笑)。弟も小さいころから音楽が好きで、彼はプロのジャズトランペッターとして活動しているんですよ」。高校では吹奏楽部と物理部に入部。「将来、数学者か科学者になりたいと考え始めました。数学の図形問題が好きで、パズルを解くような感覚がとても面白かったですね」
「化学に出会ったのは大学の時です。化学はいろいろと経験した努力が報われる学問、そこに魅力を感じます」。その後、ドイツへ。「ベートーベン、ブラームスが大好きで、ドイツ文化に魅力を感じていました。ドイツへはフンボルト財団から研究費の援助を受けて渡ったんです。滞在中はよくコンサートに行っていましたね」。ドイツでの研究に一区切りがついた2004年、理研へ。
 
「学生のころから遷移金属※2を含むヒドリドクラスターの研究をしていました。希土類金属を扱うようになったのは、理研に来てからです」。なぜ希土類なのか?「重要なのは“電気的にプラスになりやすい”こと。水素原子と結合すると、相対的に水素がマイナスの電荷を帯びます。このマイナス電荷を帯びた水素が、有機物との反応に高い活性を示すんです」。どんなクラスターを開発したのか?「四つのイットリウム原子が複数の水素原子と結合したクラスターです。このクラスターは混合物をほとんど生じずに、短時間で一酸化炭素をエチレンに変えます」。エチレンは、ポリエチレンやポリ塩化ビニルのような化学製品になる物質として広い用途を持つため、この波及効果は大きい。さらに最近、希土類金属だけでなく遷移金属をも含む混合型多金属ヒドリドクラスターも開発。「イットリウム原子四つとタングステン原子一つが水素原子を介して結合したクラスターです。このクラスターは温和な条件下で水素を付加したり、脱離したりできます(図)」。エネルギー問題の解決につながる水素吸蔵合金などの材料開発は、世界が注目しているテーマだ。

「これまでの触媒開発の主流は、一つの金属だけでした。多金属のクラスター触媒の研究は独創性が強いので、成功すればオンリーワンになれます。この研究ができるのも研究設備の整った理研だからこそです。まだ基礎研究ですが、これをベースにして新しい研究フィールドをつくり、大きく発展させていきたいですね」。最後に、「社会に貢献したい」と語った島研究員。この研究が、エネルギーや環境問題の解決につながる日を期待しよう。

※1:希土類金属
元素番号21のスカンジウム(Sc)、39のイットリウム(Y)と57~71のランタノイド元素の総称。

※2:遷移金属
周期表で第3族から第11族までに属する元素の総称。鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)など。

『理研ニュース』2008年11月号より転載