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2009年7月6日

超精密加工の革新に挑むテクニカルスタッフ

理研基幹研究所 大森素形材工学研究室(大森 整 主任研究員)に、超精密加工の革新に挑むテクニカルスタッフがいる。八須洋輔 協力技術員だ。八須技術員は大阪大学などとの共同研究により、ELID研削(エリッドけんさく)法を用いて、X線自由電子レーザー(XFEL)※ の強度を1億倍にできる集光鏡の開発に成功。「大森 主任研究員が発明したELID研削法は、砥石(といし)の切れ味が鈍くならないようにする“目立て”を電気分解で行いながら、ナノメートル(1nmは10億分の1m)レベル以下の加工精度で研削を行うことができます。材料を削っただけで表面がピカピカになるんです」。理研の創設にも尽力した郷土(埼玉県深谷市)の偉人、渋沢栄一を尊敬し、世の中に役立つ技術を開発したいと語る八須技術員の素顔に迫る。

八須洋輔協力技術員

八須洋輔 協力技術員

基幹研究所 大森素形材工学研究室

1979年、埼玉県生まれ。埼玉県立熊谷工業高等学校から1998年、日本工業大学工学部機械工学科へ進学。㈱サン精密化工研究所を経て、2008年、理化学研究所入所。

XFEL施設の模式図と今回開発したXFELの強度を1億倍にできる集光鏡

図:XFEL施設の模式図と今回開発したXFELの強度を1億倍にできる集光鏡

「小中学校のころはサッカーに熱中していました」と八須技術員。「しかし中学生のとき、ひざを痛めていたのに無理に試合に出たため手術する羽目になってしまいました。高校では現役をあきらめ、1年生のときから現在までずっと母校の小・中学校でコーチをしています」。ものづくりに興味を持ち始めたのも高校生のころ。「父が自営で金型の設計業をしています。工場の人が打ち合わせに来たり、プレスした試作品が置いてある仕事場の横で学校の宿題などをしているうちに、機械加工に興味を持つようになりました」
その後、日本工業大学工学部機械工学科へ進学。ELIDに出合ったのは、4年生のときだった。「私が入ったゼミでは毎年、大森素形材工学研究室に学生を卒業研究生として送り込んでいました。私もELIDを見学した際に“これはすごい”と興味を持ち、ELIDによる鏡面加工を卒業研究のテーマに選びました」。ELID加工機がある理研板橋分所で泊まり込みの日々が始まった。「ベッドなんてありません。並べたいすの上で寝るのです。家に帰るのは2週間に1回くらい。徹夜続きでつらかったのですが、ものをつくり上げたときの感動を体験できました。このときの1年間で学んだことが、とても大きな財産になっています」

2002年、(株)サン精密化工研究所に入社。「大森素形材工学研究室と長年にわたり共同研究している精密部品メーカーです。希望通り、その共同研究を担当している部署に配属されました。そして早速、携帯電話の精密部品用の金型6種類を加工するように命じられました。期限は1ヶ月。再び理研板橋分所で徹夜の日々が始まりました(笑)」。それから6年、転職を考え始めていた八須技術員に大森主任研究員が声を掛けた。「一緒にELIDを世界中に広めていきましょう」
そして2008年、大森素形材工学研究室へ。理研播磨研究所で建設中のXFELの強度を1億倍にできる集光鏡の開発を担当。大阪大学と共同で、特殊な形状が要求された長さ400mmの大型集光鏡を原子レベルの加工精度で作製することに成功した(図)。「シリコンを加工したその鏡は、稼働中のXFELのプロトタイプ機(SCSS試験加速器)に導入されています。2010年度に完成予定のXFEL本機には、石英を材料にした鏡を2枚導入します。材料が違えば加工条件も異なります。今年中に仕上げなければなりません。また徹夜の日々が続くかもしれませんね(笑)」

「コツコツとやれば、いつかは報われる」が信条の八須技術員。「昨年、私がコーチになって初めて母校の中学のサッカー部が県大会に進出し、ベスト16まで勝ち上がってくれました」。今日一番の笑顔がはじけた。

※X線自由電子レーザー:X線の波長を持つレーザーで、タンパク質の構造や働き、物質内部の瞬時の動きなどを観察できる強力なツールとして期待されている。

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2009年7月号より転載