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2010年6月7日

タンパク質から生命の仕組みに迫る研究者

電子顕微鏡を駆使してタンパク質の立体構造を調べ、生命の仕組みに迫る研究者がいる。理研放射光科学総合研究センター 生体マルチソーム研究チームの西野有里 研究員だ。ターゲットのタンパク質は、筋肉細胞の細胞膜に埋め込まれているニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)。神経細胞から放出されたアセチルコリンを受け取ったnAChRがチャネル(通路)を開くと、細胞外からイオンが流入する。こうして神経細胞から筋肉細胞へ情報が伝わり、筋肉が収縮する。西野研究員はnAChRの立体構造を原子レベルで解析することで、この情報伝達の仕組みを解明しようとしている。nAChRの研究は、筋無力症などの病因解明や、脳における神経細胞の情報伝達メカニズムの解明にも役立つ。「研究は楽しい」と明るく語る西野研究員の素顔に迫る。

西野有里研究員

西野有里 研究員

放射光科学総合研究センター 生体マルチソーム研究チーム

1976年、兵庫県生まれ。薬学修士。神戸海星女子学院高等学校から神戸薬科大学薬学部へ進学。大阪大学大学院薬学研究科博士前期課程修了。2001年より現職。兵庫県立大学大学院生命理学研究科博士後期課程在学中。

ニコチン性アセチルコリン受容体の2次元結晶

写真:ニコチン性アセチルコリン受容体の2次元結晶

「子どものころから植物や動物が好きで、給食で出たビワの種を持ち帰り庭に植えて育てたことがあります。数年後、実がなりましたが、毛虫がたくさん付き、“見苦しい”と父に切り倒されてしまいました(笑)。小学校高学年のときには、両親がプレゼントしてくれた顕微鏡で、よく身近にあるものを薄く切って観察していました。学研の『科学』の付録で実験することも好きでした。実は、妹も研究者です。両親は私たちに科学に親しむ環境をつくってくれたのでしょう。中・高校でも理科が好きで、大学は迷わず理系を選びました」

薬剤師を目指し薬学部へ進学。「薬の作用だけでなく、生命の仕組みにも興味が芽生え、自分で生命の仕組みを探ってみたいと思うようになりました」
2001年に理研に入所した西野研究員は、電子顕微鏡を使ってnAChRの構造解析に取り組み始めた。「nAChRがアセチルコリンを受け取っていない休止状態の立体構造については、研究チームを率いる宮澤淳夫チームリーダーたちが約20年の歳月をかけて解析に成功しました。それほどnAChRの立体構造解析は難しいのです」。アセチルコリンが結合してチャネルが開いた活性化状態の立体構造も解明されつつある。「しかし、アセチルコリンが結合していながらチャネルが閉じた“脱感作(だつかんさ)”状態の立体構造についてはまったく分かっていません。脱感作は過剰な反応を抑える仕組みだと考えられています。立体構造を解析してその仕組みに迫りたいのです」
その解析には、nAChRがきれいに並んだ2次元結晶が必要となる。「ところが、どのような条件下で結晶化するのか、まったく分かっていませんでした。試行錯誤して1年が過ぎたころ、やっとnAChRがきれいに並んだシート状の結晶をつくることができました(写真)。とても感激して実家に写真を飾ってあります。“すごいでしょう!”と両親に説明しても分かってもらえませんが……(笑)。しかし、立体構造を解析するためには結晶をもっと大きなシートにする必要があります。あきらめないでこれからも挑戦し続けます。nAChRは周囲のタンパク質と一体となって機能するので、その全体像を解明する研究にも取り組んでいます」

今後の目標は?「nAChRの立体構造解析のように難しくても重要なテーマに、時間をかけてじっくり取り組みたいです。そして“この謎は私が解きました!”と言える成果を出したいと思います。研究を続けることを認めてくれる素敵な人が現れれば、いつか結婚もしたいですね。生命はタンパク質などの生体分子が集まってできています。タンパク質の研究が進めば、人工的に生きた細胞をつくることも可能になるかもしれません。でも、それはずっと先のことでしょう。研究を進めれば進めるほど、生命の仕組みの奥深さを実感しています」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2010年6月号より転載