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2010年8月5日

PETで心を観る研究者

「PET(ペット)(陽電子放射断層撮影法)で心を観ることができる日が必ず来ます」と熱く語る研究者がいる。理研分子イメージング科学研究センター(CMIS)分子プローブ機能評価研究チームの水間広 研究員だ。「PETを使うと生きたままのヒトや動物で、目印を付けた生体分子や薬剤分子の動態を画像化して観ることができます。私は今、マウスを用いて脳の活動や機能を探っています」。動物を測定する場合、動かないように麻酔をするが、それでは本来の脳の活動は分からない。そこで水間研究員は、麻酔を使わずにマウスを測定できる方法を開発。その成果は今年7月、核医学のトップジャーナルの表紙を飾った。「みんなが無理だということにチャレンジしていきたい」と語る水間研究員の素顔に迫る。

水間広研究員

水間広 研究員

分子イメージング科学研究センター 分子プローブ機能評価研究チーム

1976年、東京都生まれ。博士(保健学)。東京都立田無高校卒業。1998年、杏林大学保健学部卒業。2003年、杏林大学大学院保健学研究科博士課程修了。大阪市立大学大学院医学研究科システム神経科学研究員を経て、2006年より現職。専門は神経科学。

マウスの脳活動を測定したPET画像

図:マウスの脳活動を測定したPET画像

赤いほど神経細胞が活動していることを示す。麻酔を使うと、全体的に活動が低下し、自然な状態を知ることができない。

「小学生のころなりたかった職業は、料理人。今でも趣味は料理です。パスタやピザをたくさんつくって、みんなに振る舞うのが好き」と語る水間研究員。研究者になりたいと思ったのは、祖父の影響だ。「化学者で、企業で研究をしたり、高校で教えたりしていました。分からないことを聞くと何でも答えてくれる祖父に、あこがれていました」
高校時代はハンドボールに明け暮れた。「ハンドボールの魅力はスピード感。人気のあるテニス部にしようか迷いましたが、テニスは大人になってから始めても一生楽しめます。やるなら、今しかできないことをやりたかったんです」

生徒会の活動にも参加していた水間研究員は、「これから食糧問題が深刻になる。大学では農学や生物科学を学び、将来イネの品種改良をやりたい」と考えていた。だが、「自閉症など発達障害がある子どもたちを支援するボランティアもしていました。活動の中で、その子たちとコミュニケーションを取りたい、そのために発達障害について学びたいと考えるようになりました」。そして、自閉症の早期診断法の研究をしている小橋隆一郎教授がいる杏林大学保健学部に進学した。
「入学すると、周りは臨床検査技師を目指す人ばかり。大学選びを間違えたかと思ったこともありました」。大学では初志を貫いて、神経伝達物質セロトニンが生後発達に与える影響を調べる研究を行った。そして小橋教授が共同研究をしていた縁で、渡辺恭良CMISセンター長(当時:大阪バイオサイエンス研究所)、そしてPETと出会った。「渡辺先生の講演でPETを初めて知ったとき、衝撃を受けました。これを使って脳内の生体分子の動態を詳細に調べれば発達障害の子どもたちの心を観ることができるはずだ、そう思いました」

その後、大阪市立大学を経て2006年、理研へ。そして、水間研究員の研究成果が『The Journal of Nuclear Medicine』2010年7月1日号の表紙を飾った。「麻酔を使わずにマウスの脳活動をPETで測定することに成功したという論文です(図)。表紙を飾ったのは初めてなので、とてもうれしいですね」。無麻酔を可能にしたポイントは、独自に開発したマウスの頭を固定する小さなキャップだ。「マウスにとってキャップの大きさは、私たちにとって350mlのペットボトルくらいです。ペットボトルを頭に載せたりして、キャップの材質から形、大きさまで、ストレスにならないものをマウスの気持ちになって考え抜きました」。マウスは遺伝子改変の技術が確立され、さまざまな疾患のモデルマウスもつくられている。そのマウスを麻酔を使わずにPETで測定することで、病態を知り、原因を探り、治療薬の開発にもつながると期待されている。
好きな言葉は“柳緑花紅真面目(やなぎはみどりはなはくれないしんめんぼく)”。自然そのままの姿を意味する。「研究では、実験データ(事実)を見て真実を見抜くことが必要です。その能力を養うためにも、風景や芸術など美しいものを見て何かを感じる瞬間を大切にしています」
水間研究員は最近、さまざまな疾患モデルマウスの無麻酔PET測定法から得られたデータについて、ヒトでよく用いられている脳機能画像解析を試みている。「こうした研究の積み重ねによって、PETを使って発達障害の子どもたちの心を知り、コミュニケーションできる日が必ず来ると信じています」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2010年8月号より転載