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2010年9月6日

光合成の可視化に挑む研究者

理研基幹研究所に光合成の可視化に挑む研究者がいる。ライブセル分子イメージング研究チームの岩井優和(まさかず) 基礎科学特別研究員だ。「光合成とは、植物が光と水を使って二酸化炭素から有機物を合成し、酸素を放出する反応。このことはよく知られています。しかし、植物は吸収した光エネルギーをどのように制御して、安全にかつ効率よく光合成に利用しているのか、その仕組みはまだほとんど分かっていません」。2009年に理研に入所した岩井研究員は現在、生きた植物細胞の中で光エネルギーを制御している光合成タンパク質の働きをリアルタイムで可視化し、その仕組みを探る研究を進めている。「一般の人たちに、光合成のことをもっと知ってもらいたい」と語る岩井研究員の素顔をのぞいてみよう。

岩井優和基礎科学特別研究員

岩井優和 基礎科学特別研究員

基幹研究所 ライブセル分子イメージング研究チーム

1978年、奈良県生まれ。博士(生命科学)。奈良育英高等学校からNIC International College in Japanを経て、1999年に米国ShastaCollegeへ進学。2003年12月、米国Humboldt State University理学部植物学科卒業。2009年3月、北海道大学大学院生命科学院博士課程修了後、同年4月より現職。

単細胞緑藻クラミドモナスのクロロフィル蛍光の寿命変化を可視化

図:単細胞緑藻クラミドモナスのクロロフィル蛍光の寿命変化を可視化

光環境の変化に応じて光化学系タンパク質複合体の再編成が起きている。出典:Iwai et al.(2010)PNAS

「なぜ、大学進学を目指しているんだろう」。高校3年の夏休み、文系クラスに在籍していた岩井研究員は予備校の講義を受けながら自問した。答えは「みんな行くから」だった。「たったそれだけの理由では、時間とお金が無駄になる。大学進学はやめて、自然に触れ合える花屋になろう」。そう決心した数日後、街で偶然知り合った中国人に頼まれ、奈良公園を案内することになった。「そこは陸上部の練習で走り尽くした場所です。むちゃくちゃな文法と発音でしたが、自分なりの英語で公園を案内しました。すると見慣れた風景がまったく違って感じられたのです。そのとき、もっと英語で話せるようになりたいと思いました」。高校を卒業した岩井研究員は上京し、新聞配達をしながら国際大学へ通い、米国への留学資金を蓄えた。

岩井研究員は1999年に渡米し、カリフォルニア州にあるShasta(シャスタ) Collegeという2年制大学で一般教養を学んだ後、同州のHumboldt(ハンボルト) State University専門課程へ編入学して地質学や植物学を学んだ。「植物学の先生がとても情熱的で、授業が毎回感動するくらい面白かった。クラスメートには、おばあちゃんやヒッピーの人たちもいました。米国では学びたい人しか大学に来ません。そして意欲さえあれば、いつでも学ぶことができます。課題が多くて死ぬほど勉強しましたが、まったく苦になりませんでした。学ぶことが楽しかったのです」

米国で光合成を研究テーマに選んだ岩井研究員は、2004年に帰国、北海道大学大学院へ進学した。「夏の強烈な日差しは、実は植物にとって厳しい環境です。光合成の反応に使い切れない余った光エネルギーが、細胞内で酸素と反応して有害な活性酸素をつくってしまうからです。でも、夏だって植物は生き生きとしていますよね。それは、使い切れない光エネルギーをうまく制御する仕組みがあるからです。北海道大学では、植物細胞からタンパク質を抽出して、試験管の中でその仕組みの一部を明らかにしました。理研では、試験管で明らかにした現象が生きた植物細胞の中で本当に起きているかどうかを調べるため、光エネルギーを制御している光合成タンパク質の働きをリアルタイムで可視化することを目指しています」

「生命に満ちあふれた今の地球環境は当たり前のものではありません。約30億年前に出現した光合成生物のおかげなんです。約46億年前に地球ができたとき、大気中に酸素はありませんでした。私たちが呼吸している酸素は、光合成によって生み出されたものです。そして光合成が生み出す有機物によって、海と陸の豊かな生態系が支えられています。光合成の大切さを一般の人たちにも、もっと知ってもらいたい。そうすれば、道端の雑草も違って見え、自然に対する意識も変わると思います」。自然児の情熱と興味は尽きない。

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2010年9月号より転載