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2010年10月5日

神経突起が正しい相手にたどり着く仕組みに迫る研究者

数百億個もの神経細胞がつくる脳・神経系の複雑な神経回路。この神経回路は、それぞれの神経細胞が神経突起(軸索)を伸ばし、特定の神経細胞にたどり着き、つながることで築かれる。神経突起はなぜ、数百億個もある神経細胞の中で正しい相手にたどり着くことができるのか──その仕組みを探り、画期的な研究成果を次々と挙げている研究者がいる。理研脳科学総合研究センター(BSI)神経成長機構研究チームの戸島拓郎 研究員だ。神経突起が伸びるとき、円錐(えんすい)状の先端部“成長円錐”がアメーバのように運動しながら進む。2010年、戸島研究員たちは、成長円錐を引き寄せたり退けたりするガイダンス因子により、成長円錐が進路を変更する仕組みの解明に成功。「実験が大好きです」と語る戸島研究員の素顔に迫る。

戸島拓郎研究員

戸島拓郎 研究員

脳科学総合研究センター 神経成長機構研究チーム

1974年、山口県生まれ。理学博士。山口県立宇部高等学校卒業。1997年、北海道大学理学部生物科学科卒業。2002年、北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻修了。日本学術振興会特別研究員(東京大学医科学研究所)を経て、2003年より現職(2005~2007年、基礎科学特別研究員)。

ガイダンス因子により神経突起の成長円錐が進路を変える仕組み

図:ガイダンス因子により神経突起の成長円錐が進路を変える仕組み

「小学校のころは、学校から帰るとランドセルを放り出し、毎日のように友達と公園に集まって草野球をしていました」と戸島研究員。「中学・高校では軟式テニス部に入っていました。大学では自転車で北海道中を旅したこともあります。体力には自信がありますね」。理系に進んだきっかけは?「子どものころから生き物が好きで、顕微鏡を買ってもらって、ミジンコなどの小さな生き物をよく観察していました。目に映るものの中で生き物が一番不思議でした。どうやって動いているのか、なぜ複雑な行動ができるのか、生き物の仕組みに興味を持ち始めたのがそのころです」
やがて北海道大学へ進み、4年生のときに神経科学の研究室に入った。「神経科学に特に興味があったわけではなく、研究者になりたかったので厳しく指導してもらえそうな研究室を選びました」。その後、大学院へ進学し、神経細胞を特殊な顕微鏡で観察する実験を進めた。「仮説を立てて実験を行う。そして実験結果を見て、なぜだろうと考え、次に進む。そういう実験のサイクルが好きです。博士号を取得した後、自分がこれからやりたい研究テーマを真剣に考え、それが実現できる理研BSIに来ました」

2003年、上口裕之チームリーダーのもと、戸島研究員は神経突起が正しい相手にたどり着く仕組みを探る研究を始めた。「神経突起の先端にある成長円錐は、その道のりの中継地から分泌されるガイダンス因子を受け取り、進路を変更します。成長円錐が右側から誘引性ガイダンス因子を受け取ると、タイヤに相当する分子を運ぶ小胞が成長円錐の右側で頻繁に細胞膜と融合することを、2007年に発見しました。つまり、小胞が右側の細胞膜にタイヤを供給することで成長円錐は右に曲がるのです(図左)。そして2010年、右側から反発性ガイダンス因子を受け取ると、小胞が右側で頻繁に細胞膜を取り込むことを突き止めました。右側のタイヤが少なくなるので成長円錐は左に曲がります(図右)」。戸島研究員は最初から小胞に注目していたわけではない。「小胞にたどり着くまでに3年もかかりました。でも、苦しいとは思いませんでしたね。もし注目していた分子が成長円錐の進路変更に関係ないことが分かっても、それはそれで一つの知見です。別の分子に焦点を当てて実験すればよいのです」

今後の目標は?「これまで、神経細胞を体から取り出して実験をしてきました。そこで調べた仕組みが本当に体の中で起きているのかどうか確かめる必要があります。私たちの研究は、交通事故などで脊髄(せきずい)を損傷した方の神経回路の修復や脳・神経系の発達障害の原因解明に貢献できるはずです。サイエンスにおいて、最終的に誰が発見するかは重要でないと思います。研究者全体として結果を出すことが大事です。そして、人類が自然の本質に迫れるように、サイエンスの進展に貢献していきたいと思います」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2010年10月号より転載