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2010年11月5日

人類未到の光をつくり出す研究者

理研基幹研究所に、人類未到の光の実現に挑む研究者がいる。高強度軟X線アト秒パルス研究チームの髙橋栄治 専任研究員だ。人類未到の光の一つがX線レーザーである。レーザーとは時間的・空間的コヒーレンスの高い光、つまり同じ波長の光の集まりで、光の波の山と山、谷と谷がそろっているものをいう。レーザーは指向性や干渉性に優れ高輝度であることから、基礎科学や医療、情報処理、工業などで広く利用されている。赤外線や可視光、紫外線のレーザーは存在するが、波長がさらに短いX線レーザーが実現すれば、今まで見ることができなかった微細な構造や短時間で起きる現象を観察することも可能になる。平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(若手科学賞)を受賞した髙橋研究員の夢は、「新しい光をつくり人類の生活を豊かにすること」。髙橋研究員の素顔をのぞいてみよう。

髙橋栄治専任研究員

髙橋栄治 専任研究員

基幹研究所 高強度軟X線アト秒パルス研究チーム

1973年、大分県生まれ。博士(工学)。私立大分東明高等学校卒業。宇都宮大学工学部電気電子工学科卒業。同大学大学院工学系研究科博士課程修了。2001年より理研基礎科学特別研究員、2004年より分子科学研究所 助手、2006年より現職。専門はレーザー工学。

レーザー装置

写真:レーザー装置

「畑で野球をしたり、人様の山のタケノコを勝手に掘り出したり、かなりやんちゃな子どもでしたね」。自然豊かな大分県で育った髙橋研究員は、小学生のときは剣道と野球を、中学生のときはテニス部、陸上部、水泳部を掛け持ちしていた。子どものころの夢は?「映画『007』を見ればスパイ、『トップガン』を見ればパイロット、ゲームがはやればゲームクリエーター。影響を受けやすく、夢はたくさんありました」

1992年、宇都宮大学工学部へ進学。「工学部を選んだ理由は、ものをつくることが好きという程度でした。バイトばかりしていて、卒業後は企業に就職しようと考えていました」
転機は大学3年で訪れた。「半導体関連の研究室を希望したものの定員が超過。その場合、学生同士で話し合い、それでも決まらなければ最後はじゃんけんで決めるという慣習がありました。私はじゃんけんに負け、厳しいと敬遠されていたプラズマ関連の研究室へ行くことになったのです。ところが入ってみると性に合っていたようで、そのまま大学院へ進みました。私の研究人生は、じゃんけんで決まったようなものです(笑)」。博士課程では、プラズマにレーザーを打ち込んで電子を加速させる研究に取り組んだ。初めてレーザー装置を見たとき、「かっこいい!」と一目ぼれした。

2001年、基礎科学特別研究員として理研へ。最初に取り組んだ課題は、高次高調波の高強度化を行うこと。高次高調波とは、可視域のレーザーをガスに集光したときに発生する波長の短い光であり、レーザー光と同様の品質を持つ。理研では軟X線領域の高次高調波(軟X線レーザー)の発生に成功していたが、光源としては弱かった。「高次高調波の強度を上げるには、ガスの濃度を濃くし、短い距離で入射レーザーを強く集光する方法が一般的でした。私は、ガスの濃度を薄くし、従来の10倍の長さをかけて緩やかにレーザーを集光するという逆の発想で高強度化に成功しました(写真)」。しかも、わずか3ヶ月で完成させ、周囲を驚かせた。今では、その発生手法が世界中で使われている。「優れていても、誰もまねできないような複雑な技術だとなかなか普及しません。シンプルだが本質を突いている。そういうアイデアが好きです」
「長く同じことをやっていると、新しいことにチャレンジしたくなる」という髙橋研究員はその後、分子科学研究所へ移り、2006年、再び理研に戻ってきた。「“世界で一番強く、一番短い光”の開発を競うレーザー研究は、スポーツ競技で世界新記録を狙うようで、苦労もありますが自分に合っています」
最近、理研播磨研究所のX線自由電子レーザー(XFEL)のグループと共同研究を始めた。「XFELは、空間的コヒーレンスが高く、強い硬X線領域のレーザーが出ますが、時間的コヒーレンスはあまり良くありません。一方、私たちが開発している光源は、軟X線領域までですが、空間的・時間的コヒーレンスが高いレーザーを発生できます。そこで、私たちのレーザーをXFEL光源と組み合わせることで、まだ誰も実現していない“真のX線レーザー”をつくり出そうとしているのです」。夢の光が誕生する日を楽しみにしよう。

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2010年11月号より転載