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2010年12月6日

暗黒星雲で進む化学合成の再現に挑む研究者

無数の星々が光り輝く天の川の中に、異様に暗い部分が存在する。その正体は暗黒星雲だ(図上)。暗黒星雲のような極低温のガスが集まった星間雲(せいかんうん)では、原子や分子がゆっくり衝突して化学合成が進んでいる。宇宙におけるこの化学合成を、地上で再現しようとする研究者がいる。理研基幹研究所 東(あづま)原子分子物理研究室の中野祐司 研究員だ。2011年度に新しいイオン蓄積リングを完成させ、極低温での化学合成などの実験を行う計画を進めている。光を使わずに原子の状態を操作するユニークな実験で博士号を取得し、原子衝突研究協会 第11回若手奨励賞を受賞。「子どものころから、人と同じことをするのが大嫌いでした」と語る中野研究員の素顔に迫る。

中野祐司研究員

中野祐司 研究員

基幹研究所 東原子分子物理研究室

1981年、東京都生まれ。博士(理学)。成蹊高等学校卒業。2004年、立教大学理学部物理学科卒業。2009年、首都大学東京 大学院理工学研究科物理専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員PD、ドイツMax-Planck原子核研究所訪問研究員を経て、2010年より現職。

オリオン座の暗黒星雲「馬頭星雲」とアミノ酸の一種「グリシン」の分子模型

図:オリオン座の暗黒星雲「馬頭星雲」とアミノ酸の一種「グリシン」の分子模型

写真提供: NASA, NOAO, ESA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)

「高校生のときは金髪にしたり、ここでは言えないような悪さも……。問題児でしたね(笑)。とにかく、みんなと同じことをするのが大嫌いでした。この性格は今でも変わっていません」。理系に進んだきっかけは?「大学受験に向けた高校のクラス分けで、授業数が一番少ないというだけの理由で、物理コースを選びました」

そして、立教大学理学部物理学科に進学。「4年生のとき、周りのみんなと同じように就職するのが嫌になって、大学院を目指すことにしました。就職への未練を断ち切るため、頭を丸めて受験勉強を始めましたが、それまで勉強していなかったので軒並み落ちてしまいました。その中で唯一拾ってくださったのが、都立大学(現・首都大学東京)の東 俊行 教授、今所属している研究室の主任研究員です」

大学院では、高速の原子を非常に薄い結晶に入射して、原子の状態を自在に操作する実験を進めた。「通常、原子の性質を調べるには、レーザー光を原子に当てて励起(れいき)するなど、光を使って原子の状態を操作して分析する手法が用いられています。私たちが取り組んだのは、光を使わずに原子の状態を操作する、ほとんど誰もやっていない、とても変わった手法を発展させた実験です」
 2010年4月、理研へ。「理研でも、誰もやったことのない実験に挑戦しています。普通、分子は振動したり回転したりしていますが、極低温に冷やすことで動きを止めることができます。私は極低温に冷やすことのできるイオン蓄積リングを開発し、その中で止まった状態の分子に、別の原子・分子を合流させて、ゆっくり衝突させることを目指しています。原子・分子をゆっくり衝突させる実験は今までもありましたが、極低温での実験例はほとんどありません。極低温での化学合成が、まさに宇宙の星間雲の中で起きています。私たちは、宇宙で起きている化学合成を地上で再現したいのです。星間雲では生命の材料となるアミノ酸(図下)が合成されている可能性もあるので、生命の起源の解明にもつながるかもしれません」

将来の目標は?「一つのテーマを究めていくタイプではありません。常に面白いことを探し、新しいことに挑戦し続けていきたいですね。世界で誰もやっていないこと、答えがどこにも書かれていない謎に挑む科学の世界は、人と同じことをするのが大嫌いな私の性格に、ぴったりです。大学院のころ、科学ジャーナリストになろうと思っていた時期もあります。いつか一般向けの本も書いてみたいですね。金髪の高校生にも分かるように、科学の面白さを伝えたいのです」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2010年12月号より転載