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2011年4月5日

金属ナノ構造体をつくり新しいアプリケーション開発を目指す研究者

理研基幹研究所に、金の円柱を2重にしたナノ構造体(金二重ナノピラー)を従来の加工技術に比べて簡単かつ低コストで、基板上に数億個も同時につくる技術を開発した研究者がいる。田中メタマテリアル研究室の久保若奈 基礎科学特別研究員だ。10億分の1mというナノスケールのギャップ(すき間)を持つ金属構造体に光を照射すると、金属中の電子集団が振動し、電場が発生する現象"プラズモン"がより顕著に現れることを発見。この効果を利用し、液体中のタンパク質などを検出する高感度センサーや、エネルギー変換効率の高い太陽電池などへの応用が期待されている。2007年に理研に入所した久保 基礎科学特別研究員だが、最初の約3年間は成果が出ず、研究者としての自信が大きく揺らいだという。ブレイクスルーの契機となったのは、物理の研究者との新たな出会いだった。

久保若奈基礎科学特別研究員

久保若奈 基礎科学特別研究員

基幹研究所 田中メタマテリアル研究室

静岡県生まれ。博士(工学)。静岡県立伊東高等学校卒業。東京理科大学理学部応用化学科卒業。東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員を経て2007年、理研入所。特別研究員などを経て2011年4月より現職。

円柱を2重にしたナノ構造体(電子顕微鏡による拡大図)

図:円柱を2重にしたナノ構造体(電子顕微鏡による拡大図)

直径約400nm の円筒を等間隔に並べて鋳型とし、金とポリマーの薄膜を交互に積層した後、鋳型とポリマーを除去すると、最大約300nm の高さを持つ2重構造の円柱(金二重ナノピラー )ができる。右写真は金二重ナノピラーが約1億個配置された透明なポリマーフィルム。金以外にも、鋳型表面に塗布できる材料ならばナノ構造体を作製できる。

子どもの頃は科学全般に対し、あまり興味を持っていなかったという久保 基礎科学特別研究員。高校生のとき、わかりやすい実験で化学のおもしろさを教えてくれる先生に出会った。それがきっかけで大学は応用化学科へ、大学院にも進学した。「光触媒研究の第一人者、藤嶋昭先生(現・東京理科大学長)のもとで修士号を、立間徹先生のもとで博士号を取得。素晴らしい環境の中で研究の楽しさに目覚めました」。2006年には、化学分野で優れた業績を上げた若手研究者に贈られる"本多・藤嶋賞"を受賞、順風満帆な研究生活を送っていた。

その後、理研の次世代ナノパターニング研究チーム(当時)で、ナノ構造体をつくる研究を開始。「その基本的技術は藤川茂紀チームリーダー(TL)がすでに開発していました。でも、その構造体を何に活かしていいか分からない……。一緒にやろう!というのが、藤川TLとの研究の始まりです」。ところが、「論文の不採択が続き、落ち込んだ時期がしばらく続きました」。その状況を変えたのが、金二重ナノピラーだった(図)。「それまでは、酸化チタンなどの金属酸化物でナノ構造体をつくっていました。その形は板状で、構造体間のギャップはナノスケールです。しかし、新しい特性を持たせることが難しかったので材料を金属に、形を円柱(ピラー)に変えました。一重のナノピラーの報告は、すでに他のグループから出ていたので、二重にすることにしたのです」。作製は試行錯誤の末に、見事成功。次のテーマはどんなアプリケーションに活用するかだった。

その突破口は、物理の世界に見つかった。「円柱間のギャップを数~数十ナノメートルにした金二重ナノピラー構造が、プラズモンの効果を高めることが分かりました。ただ、私も藤川TLも専門が化学なので、プラズモンに関しては全くの素人。このまま進めていいものか踏み切れないでいました」。そのとき出会ったのが現在所属する研究室のリーダー、田中拓男 准主任研究員だ。「何度かディスカッションする機会を得たことで道が拓けました。化学者同士では得にくい視点や厳しい指摘を頂けたことで理解が深まり、この構造体を利用したアプリケーションの方向性が見えてきました。まずは、高効率の太陽電池への応用を目指しています」

昨年、15歳のときに止めてしまったピアノを再開し、アマチュアコンクールでの入賞を目指して研究の合間に練習を重ねている久保 基礎科学特別研究員。理研の器楽同好会に所属し、そこで出会った仲間との交流もよい刺激となっている。「理研に来られたのも、今回の成果を発表できたのも、恩師や周囲の方々との出会いのおかげだったと、改めて思います。次は私が研究を通じて世の中に恩返しをする番。いつの日か、高校や大学で化学を教える立場になるかもしれません。それが、私なりの社会貢献です」

(取材・構成/柏崎吉一)

『理研ニュース』2011年4月号より転載