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2012年1月6日

光を自由自在に操ることができるメタマテリアル、その画期的な製作技術の確立を目指す研究者

理研基幹研究所に、自然界に存在しない負の屈折率を持つ人工材料“メタマテリアル”をつくり出そうとしている研究者がいる。田中メタマテリアル研究室の青木画奈(かんな) 協力研究員(以下、研究員)だ。メタマテリアルは光の進行方向を自由に操ることができるため、極高分解能顕微鏡や高効率光通信を実現する材料として有望視されている。メタマテリアルデバイスをつくるには、物質の中にナノスケール(1nm=10億分の1m)の金属の微小コイルを3次元的に埋め込まなければならないが、現在提案されている方法は高価な装置や複雑な工程が必要で、生産性がとても低い。「それでは基礎研究はできても産業応用は期待できません。高価な装置は使わずに一括してぱっと、しかも精度よくつくる方法はないかと考えました」。そして青木研究員は2011年、磁場を利用する画期的な技術を開発した。

青木画奈協力研究員

青木画奈 協力研究員

基幹研究所 田中メタマテリアル研究室

1973年、長崎県生まれ。博士(工学)。九州大学大学院工学研究科博士課程修了。理研半導体工学研究室、東京大学生産技術研究所などを経て、2009年より現職。

磁場による微小リングの製作

図:磁場による微小リングの製作

反磁性のポリスチレン粒子(直径10μm)の周りに金でコーティングした常磁性の粒子(直径2μm)が等間隔で並んでリング状のコイルを形成。常磁性粒子の周りに反磁性粒子を並べることも可能。

「小学生のころから、研究者になりたいと思っていました。親戚に研究者がいて、とてもかっこよかったから」と語る青木研究員は、長崎県の島原で生まれ育った。高校3年生のとき雲仙普賢岳が噴火し、高校が1ヶ月間休校になってしまった。「勉強が手に付きませんでしたが、とにかく前へ進もうと、九州大学工学部に進学しました」
大学入学直後、「実験の手伝いをしませんか」と理学部化学科の教授に声をかけられた。「サークルより面白そうだったので手伝うことにしました。授業では使えない高価な装置を使い、論文につながる実験ができる。“本当の研究をやっているんだ”と、責任感と充実感でいっぱいでした」。その後、飛び級制度で1年早く大学院に進み、小さな孔(あな)を持つゼオライトという物質を利用して分子を大きさでふるい分ける技術について研究した。

「理研は、基礎科学研究も応用研究も奨励してくれる、自由で懐の深い研究所です。理研で研究してみたかった」と青木研究員。その願いがかない、2000年から半導体工学研究室で、次世代光通信に不可欠なフォトニック結晶作製技術の開発をスタートさせた。そして、半導体微細加工技術でつくった1辺25μm(1μm=100万分の1m)の2次元の部品を、電子顕微鏡下でマニピュレータを使って3次元に組み立てる技術を開発。その成果は、『Nature Materials』(2003年2月号)の表紙を飾った。「部品を1層重ねるのに1時間かかりました。最後の部品を重ね終えた瞬間、うれしくて物質・材料研究機構の共同研究者と固い握手を交わしました」
東京大学生産技術研究所などを経て、2009年、理研に戻ってきた。現在のテーマは、微小コイルを一括作製する技術の開発だ。「フォトニック結晶のときの方法でナノスケールのコイルをつくるのは大変なので、もっと簡単な方法を探していました。そのとき『Nature』で、タンパク質回収に使われる磁性ビーズの周りに蛍光ビーズがリングを形成している写真を見つけたのです。蛍光ビーズを金属に換えればリング状の微小コイルになる、と直感しました」。それが2009年。2010年度の理研研究奨励ファンドで研究に着手。そして昨年、常磁性体と反磁性体の粒子を分散液中に入れて磁場をかける方法で、金属粒子がリング状に並んだ微小コイルの作製に成功した(図)。微小コイルを3次元で規則的に配列させることもできる。「磁場をかけるだけなのでとても簡単です。磁場を切れば、微小コイルはばらばらになります。従来のメタマテリアルでは構造をつくったらそのままでしたが、この方法なら必要なときだけ微小コイルを作製できるので、能動素子の実現も可能になります。この技術を使ってメタマテリアルをつくり、フィルムのように薄く、光の波長より小さなものまで観察できる“スーパーレンズ”を実現したいですね」

最後に、手元の紙に触れながらこう語った。「紙は誰が発明したのか分からないくらい昔からありますが、私たちの生活に欠かせません。私も、長い時が過ぎても生活になくてはならない物をつくり出したいと思っています」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2012年1月号より転載