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2012年3月5日

エキゾチックな表面現象のメカニズムに理論で迫る研究者

理研基幹研究所に、“近藤効果”という量子力学的な現象に魅せられた研究者がいる。Kim表面界面科学研究室の南谷英美(みなみたに えみ) 基礎科学特別研究員(以下、研究員)だ。通常、金属の温度を下げていくと電気抵抗も下がるが、磁性を持つ鉄などの原子が微量に混ざった金属では、ある温度以下で電気抵抗が上昇に転じる。これが近藤効果だ。「近藤効果は、とてもエキゾチックな現象です」と南谷研究員。「近藤効果は表面上の磁性原子でも生じますが、それを磁性分子に変えると、もっと面白い現象が起きることが分かってきました。そのメカニズムを、実験のグループと連携し、理論から研究しています」。理研に来て1年もたたない南谷研究員だが、国際会議The 6th International Symposium on Surface Science (ISSS-6)でポスター賞を受賞するなど、大きな成果を挙げている。

南谷英美基礎科学特別研究員

南谷英美 基礎科学特別研究員

基幹研究所 Kim表面界面科学研究室

1982年、大阪府生まれ。博士(工学)。大阪大学工学部応用自然科学科卒業。同大学大学院工学研究科精密科学・応用物理学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員を経て、2011年4月より現職。

金(Au(111))表面上の鉄フタロシアニン(FePc)分子のモデル図

図:金(Au(111))表面上の鉄フタロシアニン(FePc)分子のモデル図

金の表面上に鉄フタロシアニンが安定して吸着するには2種類の構造があり、それぞれ異なる近藤効果が生じる。

「小学生のときは本を読んだり、レゴブロックで遊んだりと、インドア派でした。低学年のときには洋ラン栽培、高学年では化石収集にはまっていました。今思うとマニアックな子どもでしたね」と南谷研究員。

高校では数学と物理が苦手だったが、大阪大学工学部応用自然科学科に進学した。「この学科では1年のときに生物、物理、化学、精密科学を学び、2年のときにどの専攻に進むかを決めます。生物は記憶力が要るから向いていない。化学は薬品が怖い。精密科学は旋盤が怖い。消去法で物理を選びました」
応用物理学専攻に進むと実験が増えた。「回路をつくると配線を焦がしたり、基板が焼けたりと、失敗ばかりでした。大ざっぱな性格で細かい作業が苦手なので、実験は向いていないと悟りました。なので、理論研究に進むことにしました」
そして大学院へ。「修士課程が修了するとき、最初は就職を考えていたのですが博士課程へ進むことにしました。理論研究の内容は説明するのが難しく、就活のエントリーシートを書くのが面倒になったからです(笑)」。そこで現在の研究テーマ“近藤効果”と出会った。「とてもエキゾチックな現象だったので、そのメカニズムを詳しく知りたいと思ったんです。物理は相変わらず苦手でしたが、量子力学だけは性に合いました。あまりにも“変”なので、諦めがついたから(笑)」。そして2008年、電子の磁性が電気伝導に及ぼす影響についての理論研究が認められ、“ロレアル・ユネスコ女性科学者 日本奨励賞”を受賞した。
 
2011年4月、理研に入所した南谷研究員は東京大学の実験グループと組んで、金の表面上の鉄フタロシアニン分子における近藤効果のメカニズムの解明に挑んでいる(図)。「関連しそうな文献を片っ端から読み、とことん考え、実験結果を説明できる理論をつくっていきます。悩んでいる時間が長く、とても苦しい。でも、お風呂に入っているときなど、アイデアがひらめく瞬間があります。理論と実験がぴったり合ったときは、“やった”と叫んでしまいます。理研和光研究所のスーパーコンピュータ“RICC”を使用できる上に、実験の研究者との議論も頻繁にできるので、どんどん研究が進みます」。2011年12月に開催された国際会議ISSS-6では、ポスター賞を受賞(写真)。南谷研究員は、プレゼンテーションには少し自信がある。「大学で奇術研究会に入っていました。手品とプレゼンテーションは似ています。見せたいところと、さらっと流すところ、めりはりを利かせることがポイントです」
好きな言葉は、“Many is different”。「物性物理の有名な研究者が、“多体になると、1個や2個のときとはまったく違う現象が出て面白い”という意味で使った言葉です。いろいろな要素が集まって新しいことが生まれる。日本語で似た意味を持つ“創発”という言葉も好きです」。南谷研究員の研究から、どんな新しいことが生まれるか、楽しみにしよう。

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2012年3月号より転載