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2012年8月6日

太陽の磁場の謎を追う研究者

理研和光研究所 基幹研究所に、太陽の磁場の謎を追っている研究者がいる。戎崎計算宇宙物理研究室の塩田大幸(だいこう) 基礎科学特別研究員(以下、研究員)だ。太陽の両極は、棒磁石の両端のように正極と負極に分かれ、大規模な磁場を形成している。これまでの観測から、両極の磁性は約11年ごとに、太陽活動が最も活発な極大期にほぼ同時に反転すると考えられてきた。次の極大期は2013年5月ごろと予想されている。塩田研究員は、太陽観測衛星「ひので」によって、世界で初めて反転に伴う磁性の変化を捉えることに成功。その成果を今年4月に発表した。「反転はこうやって進むのか、と驚きました」と塩田研究員。「北極ではすでに負極から正極に変わり始めていますが、南極は正極のまま(図)。しかも北極で変動しているのは強い磁場だけでした。この後、両極の磁性がどう変化するのか観測を継続していきます」

塩田大幸基礎科学特別研究員

塩田大幸 基礎科学特別研究員

基幹研究所 戎崎計算宇宙物理研究室

1978年、福井県生まれ。博士(理学)。敦賀高校卒業。京都大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。国立天文台、海洋研究開発機構、名古屋大学太陽地球環境研究所研究員を経て、2010年より現職。

「ひので」が捉えた太陽の北極と南極の磁場

図:「ひので」が捉えた太陽の北極と南極の磁場

「子どものころ、学研の『ひみつシリーズ』をよく読んでいました。中でも『宇宙のひみつ』が好きで、宇宙の研究者になりたいと漠然と思っていました」と塩田研究員。「工場で働く父親譲りの手先の器用さで、プラモデルやレゴブロック、紙工作も大好きでした。厚紙でつくったロボットは変形や合体もでき、友達が絶賛してくれました」

ものづくりの道に進もうと思ったこともあったが、宇宙について学ぶため京都大学理学部に進学した。「広大な宇宙の謎に迫りたいと銀河の研究室を希望したのですが、人気が高く、あみだくじで決めることになりました。私はハズレ。定員があいていた太陽物理学の研究室に入りましたが、太陽にはほとんど興味がありませんでした」
しぶしぶセミナーに参加すると、柴田一成教授が人工衛星で撮影した太陽の動画を見せてくれた。「激しく爆発を繰り返すダイナミックな太陽の姿に、一瞬で魅せられてしまいました。太陽で起きている爆発やジェット現象は宇宙の至る所で起きている現象と共通点も多く、太陽の研究から宇宙の謎に迫ることができるという点も魅力でした」
大学院の博士課程在学中のある日、セミナーで柴田教授が言った。「太陽を丸ごと再現できるような大規模シミュレーションに取り組もうと思うんだ。塩田君に海洋研究開発機構(JAMSTEC)の草野完也(かんや)先生のところで勉強してきてもらいたいんだけど、どう?」と。「寝耳に水で驚きましたが、行ってよかった」と塩田研究員。「シミュレーションコードの書き方をあらためて一から教わり、それが今につながっています。コード書きもものづくりなので、性に合っていたのでしょう」

大学院修了後は、国立天文台やJAMSTEC、名古屋大学で、太陽の爆発現象、そしてその源となる磁場の研究を、観測とシミュレーションの両面から進めてきた。2010年、理研へ。そして、「ひので」の可視光・磁場望遠鏡を使い、極磁場の反転に伴う変動を世界で初めて明らかにした(図)。「太陽極域の磁場の観測は難しく、高い分解能を有する『ひので』によって初めて全容が明らかになりました。そして、『ひので』の膨大なデータを解析できるのは、世界でも私たちの研究チームだけです。誰も見たことがないものを発見することほど、興奮し、ワクワクすることはありません」
戎崎計算宇宙物理研究室には、国際宇宙ステーションの大きな模型が置いてある。「私が組み立てました。研究の合間にパーツを1日1個ずつ組み立てて、1年くらいかかったかな。つくっている過程が好きなんです」。プラモデル好きは、今も変わらないようだ。
塩田研究員は、宇宙天気予報の研究も進めている。「太陽で爆発が起きると、高速の太陽風が地球に吹き付け、人工衛星の通信障害などを引き起こします。爆発現象のメカニズムを理解し予測することで宇宙天気予報を実現し、社会に貢献できればと思っています」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2012年8月号より転載