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2013年9月5日

筋肉が動く仕組みから生き物らしさの原理を探る研究者

筋肉はなぜ動くのか。百年以上続くその研究で昨年、教科書を書き換える発見があった。筋肉にはアクチン線維とミオシン線維が交互に並び、重なる部分に入れ子のようにアクチン線維が滑り込むことで筋収縮が起きる(図上)。そのとき、ミオシン線維につながれたミオシンというモーターの役割をするタンパク質が首振り運動をすることで移動するという説が、教科書には紹介されている。一方、水分子などの衝突によるブラウン運動によって移動する、という説も提唱されていた。どちらが正しいのか。生命システム研究センター(QBiC)の岩城光宏 上級研究員(以下、研究員)たちは、両方の仕組みが働いていることを発見、それぞれの仕事量を明らかにした。「生き物らしさを生み出す筋肉の柔軟で効率的な動きには、両方の仕組みのバランスが重要だと考えています」。岩城研究員は、ミオシンやDNAを材料に人工的にデザインした筋肉をつくることで、生き物らしさが生み出される原理を探求し、それをものづくりに応用しようとしている。

岩城光宏

岩城光宏 上級研究員

生命システム研究センター 細胞動態計測研究グループ

1977年、宮崎県生まれ。博士(理学)。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。大阪大学大学院医学系研究科助教を経て、2012年より現職。ハーバード大学医学部客員研究員および大阪大学大学院生命機能研究科招聘准教授を併任。
筋肉が動く仕組みのイメージ図

図 筋肉が動く仕組み

「子どものころから生き物は好きでしたが、高校では生物を履修しませんでした。たくさん覚えることがあって嫌だったのです。公式さえ覚えれば問題を解ける物理の方が好きでした」

大阪大学理学部の物理学科に進んだが、大学院では生物物理へ転じた。「物理学の最先端である素粒子は、日常生活から遠い世界。身近な生き物を、物理の視点から理解する生物物理が面白そうだと思いました」

こうして柳田敏雄 教授(現・QBiCセンター長)の研究室へ。「そこでは、1分子を計測する世界最先端の技術を駆使して、筋肉が動く仕組みを研究していました。柳田さんは、ミオシンはブラウン運動で移動する、という説を提唱していました。ただし、ミオシンはアクチン線維という“レール”の上を、一方向へ移動します(図下)。水分子などの衝突によるブラウン運動の方向はランダムです。ミオシンはなぜ進行方向が分かるのか。2009年、私たちはその仕組みを解明しました。ブラウン運動により偶然、進行方向に着地したときにだけミオシンに張力が加わり、レールと強く結合して力を出すのです」

そして2012年、岩城研究員たちは筋肉などの収縮に必要な仕事量のうち、ブラウン運動によるものが8割以上、首振り運動によるものは2割未満であることを明らかにした。「首振り運動は機械的で効率が良いのですが、レール上には障害物がたくさんあるので、それをうまく避けて進むことは難しい。一方、ブラウン運動はランダムで効率は悪いのですが、障害物を避けて進む柔軟性がありそうです。筋肉は状況に応じて柔軟に効率良く力を発揮します。そのような生物らしさを生み出すには、両方の仕組みのバランスが重要だ、と私は考えています」

ミオシンは、ミオシン線維という“綱”につながれている。「1本の綱には300個ほどのミオシンがあります。綱引きをするとき、みんなが協調して引っ張る必要がありますよね。しかしミオシンに掛け声を掛けるリーダーはいません。どうやって協調しているのか、大きな謎です」

岩城研究員は、ハーバード大学で“DNA折り紙”という技術を学んだ。「DNAを利用してナノ構造体をデザインする技術です。私は、その技術を用いてミオシンの配置や数を変えた人工筋肉をつくったり、首振り運動とブラウン運動のバランスを変えた人工筋肉をつくってみたりして計測することで、生き物らしさが生み出される原理を解明することを目指しています」

東日本大震災で意識が変わった、と岩城研究員は語る。「生き物らしさが生み出される原理を応用して、DNAやタンパク質を材料にした優れた機能を持つシステムを構築することを“ナノバイオロボティクス”と名づけ、研究の最終ゴールに定めました。原理の探求にとどまらず、それを社会に役立てたい、と強く思うようになったのです」

研究者は面白いですか?「結構つらいですよ(笑)。ほとんどの実験は失敗なので。でも、誰も見たことのないものを見たい人、まったく新しい原理のものづくりに挑戦したい人には、お勧めです」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』 2013年9月号より転載