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2013年10月7日

元素誕生の謎に迫るRIBFにブレークスルーをもたらす研究者

元素誕生の謎に迫るRIBFにブレークスルーをもたらす研究者理研のRIビームファクトリー(RIBF)は、世界最高性能の重イオン加速器施設だ。ウランなどの重イオンビームを標的に当てて壊すことで、未知の1,000種類を含む4,000種類の不安定な原子核(不安定核)をつくり出す計画である。それらの性質を詳しく調べることで、鉄からウランまでの重い元素がどのようにつくられたのか、元素誕生の謎に迫ることができる。ただし、それら重い元素の誕生過程でできたと考えられる未知の不安定核の多くは、生成するのに大強度のウランビームを必要とするが、その強度が目標値の1,000分の1程度しか達成できていないという大問題があった。今尾浩士 研究員たちは、ヘリウムガスストリッパーという装置を開発して、ウランビームの強度を高めることに成功した。プロゴルファーを目指していた中学生は、なぜビームを扱う専門家になったのか。

今尾浩士

今尾浩士 研究員

仁科加速器研究センター 加速器基盤研究部 加速器高度化チーム

1976年、三重県生まれ。博士(理学)。鈴鹿中学校・高等学校卒業。京都大学理学部卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(物理学)。理研山崎原子物理研究室訪問研究員などを経て、2010年より現職。
ヘリウムガスストリッパーにウランビームを通したときの発光の画像

図 ヘリウムガスストリッパーにウランビームを通したときの発光

「父が電気関係の自営業をしていて、はんだごてやオシロスコープ、電子部品などが転がっている、実験室に似た環境に育ちました」。小学校高学年のとき、夏休みの自由研究で世界一の竹とんぼづくりに挑んだ。「家にあった赤外線センサーなどを使い、試行錯誤しながら最適な形状を設計しました。その竹とんぼは驚くほどよく飛びましたが、先生や友達は、“子どもらしくない。やり過ぎだ”と引いていました(笑)」
中高一貫の鈴鹿中学校・高等学校へ。「中学生のとき、マンガの影響でプロゴルファーを目指し、レッスンプロに週2回習っていました。教科では数学が好きでした。若い数学の先生が中学や高校のレベルを超えた難問を時々出してくれて、それに挑戦するのが楽しかったのです」

京都大学理学部へ進み、3年までは数学を専攻したが、4年生で物理の研究室へ。「アルバイト先にその研究室の院生がいて仲良くなり、エレキギターや物理を教えてもらいました。その先輩に憧れて素粒子の実験や理論研究を行う研究室に入ったのです。研究室ではミュオンという素粒子のビームを用いた実験の装置を、みんなで工夫しながらつくりました」
RIBFでは、元素誕生の謎を解くために必要な未知の不安定核の多くを、ウランビームを標的に当ててつくる。その生成確率はとても低いため、粒子の数の多い大強度のウランビームが必要となる。しかし世界最高性能のRIBFをもってしても、その強度は目標値の1,000分の1程度しか実現できていなかった。「いくつもの加速器を用いてウランビームの多段加速を行うRIBFでは、加速の途中でビームを構成するウランからマイナス電荷の電子を剝ぎ取り、プラス電荷の強い、価数の大きいイオンにする“荷電変換”により加速効率を高めることが、必須プロセスとなります。従来、ビームを炭素膜のストリッパーに通して荷電変換を行っていました。しかし価数の大きいウランビームを大強度で通すと、すぐに炭素膜が劣化して使えなくなってしまいます。それがビーム強度の上限を決めるボトルネックとなっていました」

そこで今尾研究員たちは、ヘリウムガスのストリッパーを開発することにした。「ビームの通り道は真空ですが、その途中で50cmにわたりヘリウムガスを仕切りを設けずにためて、そこにウランビームを通して荷電変換を行います。効率的な荷電変換のためにはヘリウムガスがよいのですが、とても漏れやすく、真空側へ流れ出てしまいます。ヘリウムガスを従来の装置より50倍効率よく蓄積できる差動排気方式のガス蓄積システムを設計し、さらに吸い出したヘリウムを高い純度で戻して99.5%の効率で循環させるストリッパーを完成させ、昨年秋から稼働させています。電子を効率よく剝ぎ取るとともに劣化もなく、強度限界の壁を取り払い、ウランビームの実効的な強度を約10倍高めることに成功しました」

今後の目標は?「米国やドイツでは、RIBFより高いデザイン性能を持つ重イオン加速器計画を進めていて、2020年前後に本格稼働させる予定です。それら強力なライバルが登場しても世界トップを競えるように、RIBFの加速器を増強したりストリッパーをさらに改良したりして、目標とするウランビーム強度に近づけていきたいと思います。そのような将来計画について若手で集まり検討しています。自分のアイデアを試せる機会が多く、とてもやりがいを感じています」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2013年10月号より転載