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2014年2月5日

化石研究と発生学を駆使して生物進化をひもとく古生物学者

理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)に、化石の研究と発生学の実験を駆使して生物進化の謎を解き明かそうとしている研究者がいる。形態進化研究グループの平沢達矢 研究員だ。2013年には、横隔膜が、これまで提唱されていた舌や体壁の筋肉ではなく、肩の筋肉から進化したという新しいシナリオを発表(図)。化石種も含めた動物の骨格や神経に関する比較解剖学と、胚発生における細胞の移動に関する研究によって得られた成果だ。もともとの専門は古脊椎動物学。発生学の実験手法は2010年にCDBに来てから学んだ。「理研で化石の研究をしているのは、私だけではないでしょうか」と笑う。休日は街に出て服を見て回る。「古着が好き。化石好きの延長かな。古着は、ボタンやジッパーで年代を同定できるんですよ」。そんな平沢研究員の素顔に迫る。
平沢達矢

平沢達矢 研究員

発生・再生科学総合研究センター 形態進化研究グループ

1981年、東京都生まれ。博士(理学)。江戸川学園取手高等学校卒業。東京大学理学部地学科卒業。同大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。理研発生・再生科学総合研究センター基礎科学特別研究員を経て、2013年より現職。

図 横隔膜進化の新シナリオ

哺乳類の祖先を含む基盤的単弓類(左、ディメトロドン)では、肩は哺乳類と比べて頭 側に位置していた。このような動物の進化において、肩甲骨の内側にある肩甲下筋は内 側に張り出し、原始横隔膜として内臓の保持機能を獲得した。哺乳類(右、ヒト)に至 る進化の中で頚が長くなり、横隔膜と肩甲下筋は2つに分かれた。横隔膜は頚部体節由 来の細胞から発生してくる。それは、祖先動物での肩甲下筋の名残だと推定される。

「私の原点はこれです」と言って平沢研究員は1冊の本を取り出した。「1985年、4歳のときに国立科学博物館で開催された『特別展 イグアノドン』で買ってもらった図録です。動物や植物、昆虫の図鑑も好きでしたが、この本が一番好き。大昔にこんな変な形の生物がいたのかとワクワクしながら、繰り返し見ていました」。もう一つ“古生物学研究所”と書かれた札を取り出した。「小学6年生のときに勉強机に貼っていたものです。そのときにはもう、古生物学者になると決めていました」 東京大学に進学。3年で学科を選択するとき、古生物学者になるにはどの学科にしたらよいのか悩んだ。「現役の古生物学者に相談したら地学を学んだ方がいいと言われ、地学科に決めました。正しい決断だったと思います」。大学院では、呼吸機能の進化について地球環境変動との関連に注目して研究した。「世界各地の博物館を訪れ、化石標本を調べて回りました。それは今でも変わらない私の研究スタイルです」

平沢研究員は2010年にCDB形態進化研究グループへ。「培ってきた化石の知識に発生学的なアプローチを加えたら、生物の進化を研究する上で大きな強みになると考えました。横隔膜進化の新シナリオを提唱できたのも、化石と発生学を結び付けた独創的な視点が勝因です」。現在は、そのシナリオを確実なものにするために、肩の筋肉と横隔膜で共通して発現している遺伝子を探索するなど、証拠集めを進めている。

博物館で1日の研究を終え、人けのなくなった展示室でふと骨格標本を見上げたとき、「なんて美しいんだ」と思うことがあるという。「死骸がばらばらにならずに地中に埋まって化石となり、何千万年という歳月を経て地殻変動で地表に現れ、発掘される。とても確率の低いことです。化石を目の前にすると、生きていたときの姿や、そこに秘められた進化の謎を解き明かしてあげたいと思うのです」

平沢研究員には、いつも持ち歩いているノートがある。「研究のアイデアや論文で気になったことをメモしています」。大学時代からの習慣だが、研究で訪れていたスペインで盗難に遭い大切なノートをなくしたことがある。「バックアップの大切さを痛感し、今はメモ用と清書用のノートをつくっています。でも実は見直すことは少なく、学生時代のテスト勉強のように、書くことで頭にインプットしているのかもしれません」

今どんな研究アイデアが詰まっているのだろうか。「呼吸機能だけでなくいろいろな側面から生物進化と地球環境変動の関連を探っていきたいですね。最も興味を持っているのは、頚(くび)です。頚は今生きている爬虫類や鳥類、哺乳類にはありますが、祖先動物の化石は頚が短く、頭と肩は隣り合っています。いつ、どのように空間ができたのかを明らかにしたいのです。もう一つはクビナガリュウ。カメの甲羅は肋骨(ろっこつ)が変形して進化したものであることを明らかにして2013年に発表しましたが、クビナガリュウの肋骨でもカメの甲羅と同様の変化が起きているかもしれないのです。また博物館巡りをしないといけないですね」。満面の笑みをたたえる平沢研究員。イグアノドンの骨格標本を前に、はしゃぐ4歳の男の子の笑顔が重なって見えた気がする。

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2014年2月号より転載