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2014年3月5日

放射光を使い、物質の機能を生み出す電子を見る研究者

大型放射光施設SPring-8の放射光を使って物質の構造を可視化し、電子分布と機能との関連を明らかにしようとしている研究者がいる。放射光科学総合研究センター 高田構造科学研究室の加藤健一 専任研究員(以下、研究員)だ。加藤研究員が見たいのは、無数にある電子の中で、機能の発現に深く関わっている電子の分布だ。SPring-8の高輝度X線と、独自に開発した装置、特殊な解析手法を組み合わせることで、それを実現しようとしている(図)。最近の研究対象の一つは、固体電解質である。固体電解質は、小型で安全な燃料電池の実現に不可欠な材料として研究が進められている。加藤研究員は、放射光を当てながらその場で試料に化学処理を施し、イオン伝導状態になった固体電解質の電子分布を観察できる装置を開発。外から物質の中にイオンが入り、それが伝わっていく様子が見えてきた。

加藤健一

加藤健一 専任研究員

放射光科学総合研究センター 高田構造科学研究室

1975年、愛知県生まれ。博士(工学)。愛知県立明和高等学校卒業。名古屋大学工学部応用物理学科卒業。同大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士課程中途退学。2001年、(財)高輝度光科学研究センター研究員、2006年、理研放射光科学総合研究センター高田構造科学研究室研究員。2011年より現職。

SPring-8の理研物質科学ビームラインBL44B2に取り付けられた化学反応装置や光検出器

図 SPring-8の理研物質科学ビームラインBL44B2に取り付けられた化学反応装置や光検出器

放射光は左から右に向かって入射してくる。

愛知県で生まれ育った加藤研究員。「小学生のころはプラモデルやラジコンをつくるのが好きでした。ラジコンは部品から選び、ボディーも塗装し、友達と公園で競走しました。足回りを調整し、走らせてみて、また調整する。今やっている実験のようですね。手を動かすことが好きで、将来はエンジニアになりたいと思っていました」。勉強はあまり好きではなかったという。「あるとき、“法則”を使えば習ったことを応用して新しい問題を解くことができると気付き、それから勉強が楽しくなりました。法則というと大げさですが、頭の中で体系化して整理をするのです。それは、全教科で使えます」

高校時代に好きだった教科は物理。「昔の物理学者が発見した法則を理解していれば、日常の出来事を含めていろいろな問題が解けます。物理って面白いな、と思いました」。そこで、名古屋大学工学部応用物理学科に進学した。

4年生になると坂田 誠 教授の研究室に所属。「X線構造解析をやっているということしか知らずに入りました。実験室にある小型のX線発生装置を使った実験やデータ解析が中心で、正直、面白いとは思えませんでした。卒業後は就職することも考えましたが、先輩たちは放射光というものを使って実験しているらしいと知り、一度くらい放射光を使ってみたい

と、大学院に進むことにしました」。修士1年のとき、初めて放射光施設である高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリーへ行った。「巨大さに驚きました。しかも、巨大な装置で小さな電子を見るというギャップが面白く、研究に夢中になりました」。あるとき坂田教授から声を掛けられた。

「君は研究者に向いているね」と。「どこが向いているのか聞きそびれてしまい、自分で確かめようと博士課程に進みました」 高輝度光科学研究センターの研究員を経て、理研放射光科学総合研究センター 高田構造科学研究室へ。加藤研究員が中心となって、SPring-8に物質科学のためのビームラインを立ち上げた。研究室には機能性材料を開発している研究者からの共同研究の申し込みが多く、さまざまな物質を解析してきた。「最終的に成果に結び付くのは半分にも満たない。でも、結果を体系化して整理すると“法則”が見つかって次の解析に活かせることもあるので、失敗も無駄ではありません」

最近、固体電解質の中をイオンが伝わる様子を見ることに成功した。固体電解質の改良に役立つ大きな成果だ。しかし加藤研究員は満足していない。「今見ているのは、空間的、時間的に平均された姿です。平均されていない実際の構造をナノメートルスケールで明らかにしたいのです」。そのために、X線光子を1個1個捉えることができる光検出器を複数並べた装置を構築し、触媒材料などへの応用を始めている。「その次のミッションは、時間分解能を上げてピコ秒(1兆分の1秒)の変化を捉え、化学反応が進む様子を調べること。放射光が持つパルスの性質を使って実現しようと考えています」

趣味は自動車。「大学時代は大型バイクで日本各地に出掛けていました。今は自動車で我慢していますが、マニュアル車であることだけは譲れません」

どういう点が研究者に向いているのか、答えは分かったのだろうか。「一つの事に集中して突き進む。一度決めたら、ぶれないところですかね」。加藤研究員は笑って言う。「バイクや車が好きなのも、ラジコン好きからぶれていないでしょう」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2014年3月号より転載