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2014年4月7日

植物の生きざまの理解を目指す研究者

環境資源科学研究センター(CSRS)に、植物の生きざまの理解を目指している研究者がいる。生産機能研究グループの木羽隆敏 研究員だ。植物は自分で移動できないため、環境の変化にうまく適応していかなければ生きていけない。植物は環境の変化をどのように捉え、情報を伝え、制御しているのか。そのメカニズムを分子レベルで解明しようとしているのだ。木羽研究員はこれまでに、窒素の濃度が非常に低い環境で硝酸イオンを効率よく吸収して窒素栄養として利用する仕組みや、働きに違いはないとされていた2種類のサイトカイニンの一方だけに地上部の生長を促進する働きがあること(図)などを、次々と明らかにしてきた。「反主流な考え方を好み、性格は意地っ張り。好きな植物は雑草です」そんな木羽研究員の素顔に迫る。
木羽隆敏

木羽隆敏 研究員

環境資源科学研究センター 生産機能研究グループ

1975年、山梨県生まれ。博士(農学)。駿台甲府高校卒業。名古屋大学農学部応用生物学科卒業。同大学大学院生命農学研究科生物機構・機能科学専攻博士課程修了。同研究科COE研究員、米国ロックフェラー大学ポスドク研究員を経て、2008年、理研植物科学研究センター生産機能研究グループ研究員。2013年より現職。
 tZ型サイトカイニン欠損変異体の図

図 tZ型サイトカイニン欠損変異体 

サイトカイニンは植物の生長や実りの促進、老化抑制の制御などを担う植物ホルモンで、iP型と、iP型の側鎖が修飾されたtZ型がある。tZ型を欠損させた変異体では葉や茎の生長が著しく悪化することから、tZ型には地上部の生長を促進する働きがあることが分かる。iP型にはその働きはない。

自然豊かな山梨県で生まれ育った木羽研究員。「動物が大好きで、昆虫やトカゲ、カエルなどを捕まえてきては家で飼っていました。将来の夢はペットショップの店員でした」。学校の図書室にあった『ファーブル昆虫記』と『シートン動物記』を端から読んでいった。小学4年生のときに1年間、米国インディアナ州で暮らした。「相変わらず、アルマジロを追い掛けたり、弱っていた小鳥やウサギを保護して家で飼ったりしていました。そのころは動物園の飼育員になりたかったですね」

高校生のときのことだ。「母の実家がブドウ農家で、その年は人手が足らず、手伝いに駆り出されました。枝を剪定(せんてい)したり、種なしにするために房を植物ホルモンのジベレリンに浸したりしているうちに、植物に興味を持つようになりました。それまでは獣医になるのもいいなと思っていたのですが」

そして名古屋大学農学部に進学。「大学院に行って研究者になると決めていました。父も祖父も大学で化学の研究をしていた影響でしょう」。植物栄養肥料学の研究室に所属し、窒素が乏しい環境に植物がどのように適応しているのか、窒素応答を研究した。博士課程修了後、COE研究員として念願の研究者としての一歩を踏み出した木羽研究員だが、気持ちは暗かった。「農学部では、指導教官や先輩たちが丁寧に指導してくれます。居心地は良かったのですが、敷かれたレールの上を走っている感じで、研究者として独り立ちできるのだろうかと不安でした。そこで研究者としてやっていけるかを試すために、海外に出ることにしました」

2004年、米国ロックフェラー大学へ。自分でテーマを探して開花や光合成を制御している体内時計に狙いを定め、実験器具も自分で発注し、研究を進めていった。「4年半かかりましたが、昼の長さや光の強さに応じて体内時計を調整する仕組みの一端を明らかにし、論文にまとめることができました。研究者としてやっていける自信もつきました」

2008年、理研植物科学研究センター 生産機能研究グループへ。窒素応答を中心に植物の環境変化への適応のメカニズム解明に取り組んできた。「現在所属しているCSRSは、低窒素肥料での植物生産の増加をミッションの一つとしています。まさに私がやってきたこと。やりがいがありますね」。木羽研究員はここ数年、次々と大きな成果を発表している。「理研に来たときにまいた種が、ようやく実を結び始めました。植物の研究は時間がかかるのが悩みです。しかも、結果は考えた通りにはならない。でも、それが発見につながることもあります。予想外を楽しむこと。それが植物研究を続ける秘訣かな」

趣味は?「小学生のころから釣りです。釣りは研究と似ています。状況を見極めて条件を変えながら試していく。失敗の連続で、時間もかかる。だからこそ、うまくいったときは、うれしい」。米国に行った年に生まれた長男も一緒に釣りを楽しめるようになった。「好きなことが私と似ているんです。動物が好きだし、散歩に行くと二人で雑草を観察しています」

「植物の生きざまについて、ようやくいくつかの“点”が理解できました。それをつないで"線"にして、さらに"面"にして、立体的に理解したいのです」と木羽研究員。「まだ、ほんの入り口。私は粘り強さが取りえなので、地道に続けていきます」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2014年4月号より転載