採用情報

Print

2014年5月7日

ラン藻を利用してバイオプラスチックや水素をつくる研究者

ラン藻は光合成をする細菌で、窒素欠乏時に光と二酸化炭素からポリヒドロキシ酪酸(PHB)という物質をつくる(図)。PHBは、石油資源由来のプラスチックに代わるものとして期待されている生分解性バイオプラスチックの一種だ。ラン藻を用いた効率的なPHBの生産方法が確立できれば、二酸化炭素の削減にも役立つ。 環境資源科学研究センター(CSRS)代謝システム研究チームの小山内 崇 研究員は、ラン藻において炭素の代謝システムで司令塔として働くタンパク質SigEとRre37を発見。それらを過剰に発現させることで、PHBの生産量を約3倍増やすことに成功した。 また、SigEを過剰発現させると水素の生産量が2倍以上増加した。「欲張って研究もプライベートも全部頂く、というのが私の主義。 5歳と2歳の息子の子育ても楽しんでいます。限られた時間で大きな研究成果を挙げるためには、頭を使い、オリジナリティで勝負することが重要」。そう語る小山内研究員の素顔に迫る。
小山内崇

小山内崇 研究員

環境資源科学研究センター 統合メタボロミクス研究グループ 代謝システム研究チーム 代謝システム研究チーム

1979年、埼玉県生まれ。博士(農学)。国際基督教大学教養学部卒業。東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員を経て、2010年、理研基礎科学特別研究員。2011年より、さきがけ専任研究者、2014年より現職。
ラン藻の培養液と精製したPHB

図 ラン藻の培養液と精製したPHB

埼玉県川口市の出身で、自宅の近くには母の実家の鋳物工場、という環境で育った。「劣等生でした」と小山内研究員。「幼稚園では、のぼり棒や鉄棒などができるとシールを貼ってもらえるのですが、運動が苦手な私は1枚ももらえませんでした。小さいころは強度の高所恐怖症で、歩道橋も渡れなかったほど。高校生までは明確な目標がなく、今どきの子どもと同じで家でゲームをしていることが多かったですね」

進学先には国際基督教大学を選んだ。「教養学部なので途中で理系にも文系にも変わることができます。なりたい職業が明確でなかった私には、ちょうどよかったのです」。転機は2年の細胞生物学の授業で訪れた。「高校では生物を選択していない上に英語での講義で、まったく理解できず小テストは毎回不合格。まずいと必死に勉強して小テストを再提出しているうちに生物学に興味が湧き、また先生方が楽しそうに研究の夢を語る姿に刺激を受け、大学院に進むことにしました」

卒業後、東京大学大学院農学生命科学研究科に進学し、ラン藻を用いて代謝メカニズムの研究を行った。そして、炭素の代謝を制御しているSigEというタンパク質を発見。「大学院生のときは完全に基礎研究でしたが、次第に、この研究を発展させて社会へ貢献したいと考えるようになりました。ものづくりの血が流れているからですかね」。2007年の学会で、SigEを過剰発現させればさまざまな物質の増産が可能になると、満を持して発表した。ところが、「興味を示してくれたのは、企業研究者1人だけでした。6年たった今は、国内外の研究者がSigEを使った代謝工学を始めています」

東大で研究員をしていたときに、代謝システム研究チームの平井優美チームリーダーの集中講義に魅了され、2010年に理研へ。その年、バイオプラスチックの生産などを目指すバイオマス工学研究プログラム(BMEP)が理研で発足。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業さきがけで「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」も始まった。「どちらの戦略目標も私の研究テーマそのもので、私のためにつくってくれたのではないか、とさえ思えました(笑)。私がやらなければという使命を感じました。さきがけに応募した研究課題が採択され、BMEPとも連携して研究を進めています」

ラン藻を用いてPHBや水素を増産させるには、それらをつくる酵素を増やすのが常道で、世界中でその研究が行われている。「私は、それはやりません。私が発見し私にしかできない方法、つまり代謝の司令塔を改変するという戦略で勝負しています」。新しい司令塔探しも進行中だ。

子どものころ本はほとんど読まなかったが、最近はミステリー小説を読むという。「『チーム・バチスタ』シリーズで有名な海堂 尊たけるさんが好き。海堂さんは医師であり、ミステリー小説の中でAi(死亡時画像診断)の必要性を訴え、実際に社会を動かしました。私も、社会を変えるような貢献をしたいですね」と小山内研究員。企業の研究者と議論する機会も積極的につくっている。「企業からの意見は、ゴールを間違えないためにも不可欠です。司令塔の改変によってPHBの生産量を増やすことができたといっても、まだ3倍。実用化には程遠いですが、彼らと話していると、ものづくりの血が騒ぎます」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2014年5月号より転載