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2014年8月5日

当たり前ではない現象が起きる物質をつくり出す研究者

磁場で磁石のN極とS極の向きが入れ替わる(磁化が反転する)のは、当たり前に起きる現象だ。一方、電場で磁化が反転する現象は、当たり前ではない。創発物性科学研究センター 強相関物理部門強相関物質研究チームの徳永祐介 上級研究員(以下、研究員)たちは2012年、その当たり前でない現象が起きる物質をつくり出すことに世界で初めて成功した。その研究は、電力をほとんど消費しない磁気メモリーの開発に貢献できる可能性がある。「実験をしていると、時として思ってもみない現象が起きます」と語る徳永研究員の素顔を紹介しよう。
徳永祐介

徳永祐介 上級研究員

創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関物質研究チーム

1977年、東京都生まれ。博士(工学)。鹿児島県立鶴丸高校卒業。東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。科学技術振興機構ERATO十倉マルチフェロイックスプロジェクト 研究員などを経て、2008年、理研基幹研究所 客員研究員。2013年より現職。

圧力で電子の軌道の並び方が切り替わるマンガン酸化物の画像

図1 圧力で電子の軌道の並び方が切り替わるマンガン酸化物

ピンセットで挟んで結晶をゆがませると、電子軌道の並び方が切り替わり、光反射の偏光特性が変わることでコントラストが変化する(偏光顕微鏡像)。



電場による磁化反転の模式図

図2 電場による磁化反転の模式図

マルチフェロイックスに電場をかけて分極のプラス・マイナスを入れ替えると、同時に磁化が反転する(本誌2013年5月号「研究最前線:強相関電子系で物質の機能を広げる」参照)。

子どものころ、研究者を志すきっかけとなった出来事は?「 特にありません。そもそも積極的に理系に進みたいとは思っていませんでした。高校で理系コースを選んだのは、理系から文系には行けても、文系から理系に転じるのは難しいからです」

東京大学工学部物理工学科へ進んだ徳永研究員は、当たり前ではない現象が起きる物質の探究を続けてきた。「物質をつくる作業自体が好きです。元素の組み合わせをこうして、結晶構造をこうすれば、こういう現象が起きるはず。そう考えて物質をつくっても、大抵はその通りになりません。たまにうまくいくから面白いのです。本当にみんなをびっくりさせるような現象は、違う目的で行った実験で起きることが多いですね。それを見逃さないように、いつも心掛けています」

徳永研究員は、温度や圧力で電子の軌道の並び方が切り替わるという、まったく知られていなかった現象を発見した(図1)。「実は、電場で電子軌道を切り替えることを目指していました。温度や圧力で切り替わるとは、思ってもみませんでした」

現在はどのような研究を?「 家族にも時々聞かれ説明に困るのですが……、マルチフェロイックスの研究に取り組んでいます」。それは、外部からの電場がなくてもプラスとマイナスに分極する性質と、外部からの磁場がなくてもN極とS極に磁化する性質を併せ持つ物質だ。分極と磁化の結び付きが強ければ、電場で分極を反転させると、同時に磁化も反転する(図2)。徳永研究員は2008年、マルチフェロイックスの性質を示す新しい物質を発見した。「そのときも、別の現象を調べるためにつくった物質に磁場をかけると、マルチフェロイックスになることを発見したのです。その発見をきっかけに、磁場をかけなくてもマルチフェロイックスとしての性質を持ち、電場で磁化が反転する物質をつくり出すことに成功しました」。ただし、それが実現できるのは、-270.5℃以下の極低温に限られている。「室温で電場により磁化を反転できれば、電力をほとんど消費しない磁気メモリーが実現できます。それを目指して研究を続けていますが、容易ではありません」

どうすれば、物質の新しい現象を発見できるのか。「測定法や理論の進展により、既存の物質でも新たな視点で測定し直したり、新しい合成法で従来にない物質をつくり出したりすることで、新しい現象を発見することができます。強相関物理部門では毎週1回、実験や理論の研究者が一堂に会して、研究状況を報告して議論しています。さまざまな測定法のエキスパートや一流の理論家がそろっているので、誰かが新しい現象を見つけると、すぐに多角的な測定や理論的な検討が行われます。普通は数年かかる実験を数ヶ月で済ませて、その結果をもとに次のアイデアを試すことができます」

趣味は?「 小説が好きで、モダン・ホラー作家といわれるスティーヴン・キングなどのファンです。私は実験で当たり前でない現象を発見して、みんなをびっくりさせていたいですね」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2014年8月号より転載