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2014年9月5日

テラヘルツ光源を開発し応用に取り組む研究者

テラヘルツ光とは、周波数が0.1~100テラヘルツ(THz)の電磁波をいう。電磁波利用における最後の未踏領域と呼ばれてきたが、近年、研究が進展し、さまざまな分野への応用が期待されている。光量子工学研究領域テラヘルツ光源研究チームの野竹孝志 研究員は、極めて広い周波数帯域のテラヘルツ光を発生させる光源の開発や、テラヘルツ分光データベースの世界へ向けた発信などを行っている。また、「人がやっていない面白いこと、社会の役に立つことをやりたい」と、テラヘルツ光によるタンパク質の立体構造制御など、応用に向けた研究にも挑んでいる。休日にはフットサルや登山で汗を流す。そんな野竹研究員の素顔に迫る。
野竹孝志

野竹 孝志 研究員

光量子工学研究領域 テラヘルツ光源研究チーム

1975年、愛知県生まれ。博士(工学)。立命館大学理工学部数学物理学科卒業。名古屋大学大学院工学研究科エネルギー理工学専攻博士課程修了。核融合科学研究所COE研究員、福井大学遠赤外領域開発研究センター博士研究員を経て、2009年より現職。
BNA結晶を用いてテラヘルツ光を発生させるための励起光源の画像

図 BNA結晶を用いてテラヘルツ光を発生させるための励起光源

周波数(色)の異なる二つの励起光をBNA結晶に入れると、周波数の差に相当するテラヘルツ光が発生する。この励起光源は広範な周波数を瞬時に切り替えて発振可能なため、広い周波数範囲のテラヘルツ光を効率よく発生できる。

「子どものころ、祖父が天体望遠鏡を買ってくれたことがきっかけで、宇宙に興味を持つようになりました。太陽がいずれ燃え尽きると知ってからは特に太陽に惹かれ、減光フィルターを使って観測していました」と野竹研究員。

高校卒業後、立命館大学の数学物理学科へ進学。「大学院で本格的に物理の研究をやろうと考えていましたが、“地上に太陽をつくる”というキャッチフレーズに惹かれ、核融合の研究をしていた名古屋大学の研究室へ進みました」。太陽は水素の核融合反応により莫大なエネルギーを放出している。その反応を地上で制御してエネルギー源として利用しようというのが、核融合研究だ。「地上で核融合反応を実現するには、水素などのプラズマを1億度まで加熱する必要があります。太陽の表面でさえ6,000度だから、いかに高温で、加熱が難しいか分かるでしょう。私は、170GHzの大電力電磁波を用いてプラズマを加熱する研究に取り組み、博士号を取得しました。170GHzは0.17THz。これがテラヘルツ光との出会いです」

学位取得後は、核融合科学研究所のCOE研究員を経て、福井大学遠赤外領域開発研究センターの博士研究員に。福井大学では、核融合反応によって生成されるヘリウム原子核の動的挙動を解明するための散乱計測に取り組んだ。理論計算から、周波数0.4THzのテラヘルツ光を利用すれば散乱計測が可能だと分かり、その光源の開発を始めた。「37kWという高平均出力が可能な光源開発に成功しました。当時これほど高い周波数で高出力の光源はなく、世界最高記録でした」

2009年、理研のテラヘルツ光源研究チームへ。BNAという新しい有機結晶を使ったテラヘルツ光源の開発に着手した。高品質な単結晶を育成するのが難しい有機結晶の育成手法の開発から始め、励起光源も独自に開発。0.5~50THzという極めて広帯域なテラヘルツ光を発生させる光源をつくり上げた(図)。

最近は開発したテラヘルツ光源を用いてさまざまな応用研究にも取り組んでいる。その一つが、タンパク質の立体構造を変えようという研究だ。タンパク質は鎖状に多数連結したアミノ酸が折り畳まれた状態で存在するが、その構造が変わることで機能が変化し、アルツハイマー病など疾患の原因になることもある。「タンパク質の立体構造を支配しているのは主に水素結合です。テラヘルツ光の光子のエネルギーは水素結合エネルギーに対応するので、テラヘルツ光を用いて立体構造を変えられる可能性があります。その手法を開発できれば、立体構造と機能の関係の理解や、疾患の発症機構の解明、治療薬の開発、さらには新しい機能を持つタンパク質の創製などにも役立ちます」。現在、いろいろなタンパク質を用いて、立体構造の変化を計測する手法も探りながら研究を進めている。「私は生物学やタンパク質に関しては門外漢ですが、それゆえに大胆に研究を進めていけると思っています。世界で私にしかできない独創的な研究を目指します」

野竹研究員は、理研仙台地区で登山部をつくり、部長を務めている。「登山の魅力は1~2日で達成感が得られること。研究は失敗も多く、すぐには達成感が得られませんから(笑)。せっかく登ったのにすぐ下りるのはもったいないので、縦走路の多い北アルプスが好きでよく行きます」。テラヘルツ光によるタンパク質の立体構造と機能の制御。その高い山を登り切ったときの達成感は格別だろう。

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2014年9月号より転載