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2014年12月5日

スーパーコンピュータ用のプログラミング言語を開発する研究者

計算科学研究機構(AICS)プログラミング環境研究チームの中尾昌広 特別研究員(以下、研究員)は、並列プログラミング言語「XcalableMP(エクスケーラブル・エム・ピー)」の開発に取り組んでいる。気象や地震などのシミュレーションを計算機で実行するには、どんな計算をどの順番で行うかを記述した命令書、プログラムが必要である。特に『京』のような超並列計算機では、命令を数万個のプロセッサに分けて同時に計算するため、プロセッサ間のデータのやりとりも記述する必要があり、プログラムはとても複雑になる。XcalableMPを使うと、複雑になってしまうプログラムを簡単に記述でき、かつ計算機の性能も十分引き出すことができる(図)。XcalableMPは2013年、並列プログラミング言語の世界的なコンテストである「HPCチャレンジ賞クラス2」の最優秀賞を日本で初めて受賞。「デザインを追求し、それを形にすることが楽しい」と語る中尾研究員。その素顔に迫る。
中尾昌広

中尾昌広 特別研究員

計算科学研究機構 プログラミング環境研究チーム

1980年、大阪府生まれ。博士(工学)。同志社大学大学院工学研究科知識工学専攻博士前期課程修了。NTTアドバンステクノロジ㈱入社。同志社大学大学院工学研究科知識工学専攻博士後期課程修了。筑波大学計算科学研究センター研究員を経て、2013年より現職。
スーパーコンピュータ用並列プログラミング言語「XcalableMP」

図 スーパーコンピュータ用並列プログラミング言語「XcalableMP」

「高校時代は文系で、図書館に通って月に50冊は本を読んでいました。どのジャンルも好きですが、そのころは推理小説に夢中でした」と中尾研究員。しかし文系科目より理系科目の方が得意で、また当時本格的に普及し始めたパソコンなどの情報機器に将来性を感じ、同志社大学工学部の知識工学科に進学。研究者になろうと思った最初の契機は学部2回生のときだ。「課題レポートの作成がとても楽しかったのです。高校までの授業は知識を学ぶだけで楽しくありませんでしたが、自分で考えて問題を解決することがどんどん楽しくなっていきました」

次の契機は修士1回生のときだ。開発費の支援を受けられる情報処理推進機構の未踏ソフトウェア創造事業に応募し、採択された。「参加者は研究者や博士課程の学生が多く、その方々との交流は刺激的で、研究を続けたくなりました」。そのまま博士課程に進むことも考えたが、工学のように社会と密接に関わる分野では社会人経験がある方が良い研究ができると思い、修士課程修了後エンジニアとして企業に就職した。

偶然出身大学の近くに出向することになり、研究室に定期的に顔を出していた。そして2年後、機が熟し、博士課程に進学。人工知能的な手法を用いてタンパク質の立体構造を予測する研究を行った。その後、筑波大学計算科学研究センターの研究員となり、当時まだプロトタイプだったXcalableMPの開発に参加。「それまでの研究内容とはまったく違います。しかし、大学院でも研究のスピードを上げるためにパソコン同士をネットワークケーブルで接続した並列計算機を自作して並列プログラムを動かしていたので、自分の経験を活かしつつ新しいことに挑戦できる良い機会でした」

2013年に理研AICSへ籍を移し、XcalableMPの開発を続けている。「プログラムの書きやすさと計算性能の両立を目指しています。そのためには、計算機の複雑な動作を単に隠すのでなく、計算機がどのように動作するのかを直感的に理解しやすく情報を整理してプログラムを書けるように、言語をデザインすることが大切だと考えています」。デザインには以前から関心があり、XcalableMPのホームページ(http://xcalablemp.orghttp://omni-compiler.org)や発表で用いるスライドやポスターの作成でも分かりやすいデザインを心掛けているという。「物語の構成が優れている本が特に好きでした。適切なタイミングで必要な情報を分かりやすく読み手に提示するという点は、今の研究に通じるものがあります」

中尾研究員には目標が二つある。「AICSには私のような計算機を研究する計算機科学者と、計算機を使ってシミュレーションなどを行う計算科学者がいます。双方の力を合わせることで、より有益な成果を出すことができます。計算機科学に軸足を置きつつ計算科学の研究にも貢献したい、というのが一つです。また研究の多くは税金で行っているため、私たちには得られた成果を一般の方に伝える責任があります。研究成果を正確に分かりやすく伝える活動もしていきたいです」

現在、「京」の後継機の開発が進められている。中尾研究員は「XcalableMPを進化させて、後継機でも使えるプログラミング言語を開発したい」と意気込む。「人工知能の研究で得た知見を応用することで、さらに高性能なプログラミング言語を開発できるのではないかと考えています」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2014年12月号より転載