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2016年6月6日

外核の謎をSPring-8で解き、地球誕生と進化に迫る研究者

地球の中心部には鉄を主成分とする“コア”がある。コア(核)は液体の外核と固体の内核に分かれている。1952年、外核は鉄だけの場合よりも軽く、地震波の縦波が少し速く伝わることが分かった。外核には水素や炭素、酸素、ケイ素、硫黄などの軽い元素がわずかに含まれているためだと考えられるが、その軽い元素の正体はいまだに謎だ。理研 放射光科学総合研究センター バロン物質ダイナミクス研究室の中島陽一 特別研究員(以下、研究員)たちは2015年、超高圧・高温状態にした液体の鉄-炭素合金に縦波が伝わる速度を大型放射光施設SPring-8で測定することに成功、外核には炭素が極めて乏しいことを突き止めた。漫画『スラムダンク』世代でバスケットボールに熱中し、群馬県立太田高校では関東大会に出場、東京工業大学(東工大)でも選手やコーチとして活躍した中島研究員の素顔に迫る。
中島陽一

中島陽一 特別研究員

放射光科学総合研究センター バロン物質ダイナミクス研究室

1978年、群馬県生まれ。理学博士。東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。ドイツ・バイロイト大学 客員研究員などを経て、2013年より現職。
SPring-8のビームラインBL43LXUに設置された非弾性X線散乱分光器

図 SPring-8のビームラインBL43LXUに設置された非弾性X線散乱分光器

ダイヤモンド・アンビル・セル装置(右上の枠内)で圧縮し、レーザーを当てて加熱することで、液体の鉄合金を超高圧・高温状態にする。そこにSPring-8のX線を当てると、X線のエネルギーがわずかに吸収あるいは加算される。その微小なエネルギーを測定することで、液体の鉄合金に波が伝わる速度が分かる。

「小学生のときハレー彗星の地球接近などで宇宙に興味を持ち、ホーキング博士のような科学者に憧れました」

1997年に東工大理学部に入学し、地球惑星科学科へ。「とても自由な雰囲気で活気にあふれた学科でした。私はそこで初めて、地球深部はよく分かっていないことを知りました。地球は深部ほど高圧・高温になります。その状態を実験で再現して物質に波が伝わる速度を測定し、実際に地震波が伝わる速度と比較することが、地球深部を知る最良の方法です」

21世紀に入り、東工大などの研究グループがSPring-8を使った実験で、マントル最下層の岩石や、内核にある鉄の結晶構造を明らかにした。「しかし固体に比べて液体の実験は難しいため、外核の組成は謎のままです」

中島研究員は博士号取得後、研究員としてドイツに渡り、2013年、理研のバロン物質ダイナミクス研究室に。「バロン研究室ではSPring-8で世界最高性能の非弾性X線散乱分光器を開発し、超伝導の仕組みを解明する実験などを進めています。その分光器を使って、高圧・高温状態にした液体の鉄-炭素合金の縦波速度を測定した結果、地震波の縦波が実際に外核を伝搬する速度よりはるかに速いことを見つけました。このことにより、外核に含まれる炭素量が極めて少ないことを突き止めました。地震波と比較できる外核の再現実験は世界で初めてです。従来、液体の鉄合金の物性測定では約10万気圧が上限でした。私たちはサファイア容器に鉄-炭素合金を入れ、それを二つのダイヤモンドで挟んで圧縮しレーザーで加熱して、70万気圧、2,800K(0K=-273.15℃)を実現しました。しかし外核は最上部で135万気圧、4,000K以上です。それを実現してさらに精度よく地震波と比べるとともに、炭素以外の軽い元素と鉄の合金の実験も進めています」

外核にわずかに含まれる軽い元素を解明することに、どのような意義があるのか。「外核の組成は、46億年前に地球が誕生し、やがてコアができたころからほとんど変化していないと考えられ、地球誕生を探る重要な手掛かりになります」

岩石の記録により30億~25億年前に強い地磁気や酸素が発生したことが知られている。“そのころ、液体だけだったコアが冷えて固体の内核ができた。それにより外核の対流が安定して強い地磁気が発生、宇宙からの有害な放射線を遮ることで生命は光の届く浅い海に進出し、光合成生物により海や大気に酸素が供給され始めた”と考えられてきた。

ところが最近、東工大の研究者たちが、内核形成は10億年前以降だという新説を発表した。「液体コアにわずかに含まれる軽い元素の種類や量の比率によりコアが冷えて固まる際の固体の種類と温度が異なるため、その解明は内核の物質や形成時期を探る上でも重要です。内核がなくてもコアの対流が安定して地磁気が発生する仕組みも議論されています。ただし、組成が分からなければコアの正確な温度を特定できず、対流を詳しくシミュレーションすることはできません。SPring-8を使った実験により5年後には外核に含まれる軽い元素を解明できるかもしれません。それを手掛かりに、地球誕生や進化におけるさまざまな謎に迫っていきたいと思います」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2016年6月号より転載