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2017年2月6日

究極のドラッグデリバリーシステムを目指す研究者

狙った臓器や細胞に薬を届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)。その技術開発に取り組んでいる研究者がライフサイエンス技術基盤研究センター(CLST)にいる。分子ネットワーク制御イメージングユニットの向井英史ユニットリーダー(UL)だ。「DDSは薬の効果を最大限に、副作用を最小限にする画期的な技術ですが、まだ完全ではなく、停滞状態にあります。この40年ほどでさまざまな方法が研究し尽くされ、次のステップに上がるための“種”がないのです」。そう語る向井ULはブレークスルーを起こすべく、必要な場所で必要なときに必要な量だけ薬をつくる、究極のDDSの研究開発を進めている。趣味はバイオリン。そんな向井ULの素顔に迫る
向井英史

向井英史 ユニットリーダー

ライフサイエンス技術基盤研究センター 分子ネットワーク制御イメージングユニット

1981年、大阪府生まれ。京都大学工学部工業化学科卒業。同大学大学院工学研究科分子工学専攻修士課程修了。同大学大学院薬学研究科博士課程修了。京都大学先端技術グローバルリーダー養成プログラム研究員、理研分子イメージング科学研究センター研究員などを経て、2015年より現職。
ドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究開発の概念図

ドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究開発の概念図

習字、そろばん、水泳、ピアノと、子どものころからいろいろな習い事をしていた向井UL。中学では野球部かバスケットボール部に入るつもりだった。「球技が大好きなんです。ところが、入学直後に聴いたオーケストラ部の演奏に感動して入部を決め、バイオリンを始めました。大学でもオーケストラに入ってバイオリン漬けの日々を過ごしました」。大学卒業後も京都の市民オーケストラに所属し、年に数回はコンサートで演奏していた。最近もレッスンは続けている。

「これをやりたい、この職業に就きたい、と強く思ったことはないですね」と向井UL。「京都大学工学部工業化学科に進学したのも、物質、材料、エネルギー、環境など、扱う内容が幅広く、入学してからの選択肢が多かったからです」

そのまま大学院に進み、修士課程では生物がつくる色素などの有機化合物を改変して酵素活性を持たせる研究を行った。次第に生体内での反応を見たいと思うようになったが工学系の研究室では難しく、それが可能な薬学研究科の博士課程へ。DDSの研究を始め、狙った臓器で遺伝子を発現させる方法の開発に取り組んだ。「発現させたい遺伝子を含む核酸を裸のまま血管に投与して全身を循環させておき、目的の臓器を押して圧力をかけることで、そこだけで遺伝子を発現させる。そんな変わった方法を研究しました」

博士号取得後の2009年4月、京都大学先端技術グローバルリーダー養成プログラム研究員として理研分子イメージング科学研究センター(現 CLST)で、PET(陽電子放出断層画像法)を活用したDDSの研究に着手。「PETを使うと体内での分子の動きを可視化できるので、DDSが成功したかどうかを正確に評価できます。またPETをさまざまな病気の画像診断に応用する研究が進んでいますが、そのためには病気の原因となる細胞に特異的に集積する分子プローブを設計する必要があります。それは狙った細胞に薬を運ぶことと共通なので、互いに参考になることがたくさんあります」。2009年10月、理研の研究員に。PETを用いた分子イメージングとDDSの両方に通じているという長所を活かし、新しいDDSの開発や、タンパク質や核酸の挙動を調べるための生体高分子PETプローブの開発などを進めている。

主要テーマの一つが、がん治療用バクテリアマシンの開発だ。「薬の副作用を最小限にするには、薬を生体内の必要な場所で必要なときに必要な量だけつくることが理想です。抗がん作用のあるタンパク質をつくれるように改変したバクテリアを投与し、それをがん細胞に集積させ、その場でタンパク質をつくらせることを目指しています。究極のDDSです」

押圧による遺伝子発現制御など一風変わった研究をしてきた向井UL。「意図的に人と違うことをやろうとしているわけではなく、むしろ危険なことは避けたいと思っています。でも気が付くと、周囲と違うことをやっていたり、場違いなところに入り込んでいたりすることも、なぜか多いですね。停滞期にあるDDSにブレークスルーを起こすには、あえて変わったことをする必要があるのかもしれません」

中学3年生のとき合唱コンクールで初めて指揮をした。「指揮者の才能がある! と確信しました。もちろんオーケストラの指揮者とは比べものになりませんが、全体を俯瞰しながら身ぶり手ぶりでみんなを盛り上げていくのがうまいんです」と笑う。「その手腕を研究ユニットのマネジメントにも活かし、DDS研究を前進させたいですね」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2017年2月号より転載