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2017年4月5日

SACLAで膜タンパク質が構造変化する過程を見た研究者

タンパク質の機能メカニズムの解明にブレークスルーをもたらす研究成果が、2016年12月、米国の科学雑誌『Science』に発表された。X線自由電子レーザー施設SACLAで膜タンパク質の反応途中の構造変化を捉えた研究である。その論文の筆頭著者が、理研 放射光科学総合研究センター(RSC)SACLA利用技術開拓グループ(岩田 想 グループディレクター)の南後 恵理子 研究員だ。「最先端の研究現場こそ、泥くさく、何もないところからつくり上げていく必要があります。それが面白いのです」。育児と研究を両立させながら大きな成果を上げた南後研究員の素顔に迫る。
南後恵理子

南後恵理子 研究員

放射光科学総合研究センター SACLA利用技術開拓グループ

1975年、宮城県生まれ。博士(理学)。東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻博士課程 単位取得満期退学。東京工業大学大学院理工学研究科 助教などを経て、2010年、理研放射光科学総合研究センター リサーチアソシエイト。2013年より現職。
SACLAで見たバクテリオロドプシンの構造変化の図

SACLAで見たバクテリオロドプシンの構造変化

光を受ける色素(レチナール)付近の反応前の構造(ピンク)と、反応開始36.2マイクロ秒後の構造(オレンジ)を示している。色素からAsp85へとプロトン移動が起こった後、図のような構造変化が起こることが明らかとなった。

3歳のときにピアノを弾き始めた南後研究員。「14歳のときに出た大きな発表会で自分には才能がないことを自覚して、ピアニストへの道を諦めました」。そのころ、親族の一人が難病を発症。「良い治療法がなく、長い入院生活を送ることになりました。私に何かできることはないかと考え、創薬に関わる研究者になろうと思いました」。東京工業大学に進学し、抗生物質などの研究をしている天然物化学の研究室に。「抗生物質の生合成に関わるタンパク質を調べることになりました。タンパク質の機能を知るには構造を調べる必要があります。ほかの研究室に行き、X線結晶構造解析を学んだりしました」

学位を取り、東工大や理研RSCで研究を進めた。「タンパク質は構造を変化させながら機能を発揮しますが、従来の手法では反応が起こる前と終わった後の構造しか分かりません。反応途中の構造変化を見たいと、いろいろな手法で実験しましたが、満足のいく成果は得られませんでした」

2013年、新設されたSACLA利用技術開拓グループの研究員に。グループの目標は、SFX(連続フェムト秒結晶構造解析)という新しい手法でタンパク質の反応途中の構造変化を見ることだ。「SFX実験を行うには、結晶試料の調製や装置開発、解析法の検討などを進める必要があります。ところが研究室に行ったら、机が四つあるだけ、専任の研究者は私一人でした。後から知ったのですが、SFXは新し過ぎる手法のため当初は人気がなかったようです。でも私は、誰もやらないことこそ面白いと思いました。学生のころ、予算が限られていて装置が壊れたら自分で修理しました。焼きそばの容器で実験したこともあります(笑)。そのときの経験がSFX実験の立ち上げでとても役立ちました」。最初の実験を2015年1月に実施。「装置はうまく動いたのですが、回折データが得られません。そのときに調製した試料の結晶が不安定で測定中に壊れてしまったのです。ビームタイムが半年に1回と限られていた上、海外から著名な研究者も呼んでいたので、私は生きた心地がしませんでした。そこで、急きょ、以前つくって残っていたわずかな試料を使い無事計測ができました」

2015年7月、2回目の実験で反応途中の四つの時点の計測に成功。そして2016年2月、3回目の実験を行った。「反応開始から16ナノ(10億分の1)秒後から1.725ミリ秒後まで、13点の時間における構造解析に成功しました。予想以上に計測がうまく進み、みんな興奮しながら実験を進めました」

構造解析を行ったのは、古細菌のバクテリオロドプシンというタンパク質だ。それは細胞膜に埋め込まれた膜タンパク質で、光を受けると細胞内から細胞外へ水素イオンを排出するポンプの機能がある。「その機能メカニズムについて、さまざまな説が出され、15年ほど議論が続けられてきました。私たちはSACLAで反応過程の構造変化を原子スケールで見ることで、そのメカニズムに関する答えを示すことができました」(図)

南後研究員に実験成功の鍵を聞いた。「今回のSFX実験は多くの人たちの試行錯誤の末に成果を得ました。特にSFXの試料調製には経験や知識が必要で、こうした結晶化などを担当している技術員の人たちが研究の基盤技術を支えています。最先端の研究にこそ、こういった人たちの力が不可欠なのです」。南後研究員たちは今、創薬につながるヒトの膜タンパク質の構造変化を見ることに挑戦している。

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2017年4月号より転載