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2017年12月5日

分子の相互作用に基づいて新材料をつくり出す

新しい材料の開発に挑戦し続けている研究者が創発物性科学研究センターにいる。創発ソフトマター機能研究グループの宮島大吾 上級研究員(以下、研究員)だ。熱しても冷やしても形成される超分子ポリマー、湿度の揺らぎを動力源として半永久的に駆動する装置(アクチュエーター)、原料を混ぜるだけで超分子ポリマーを精密合成する手法などを次々と開発している。「ばらばらのことをやっていると思われるかもしれませんが、分子同士の相互作用を利用して新しい機能を持つ材料をつくるという点では共通しています。新材料の開発に必要なのは、絶対見つけてやるという執念」。そう語る宮島研究員の素顔に迫る。
宮島大吾

宮島大吾 上級研究員

創発物性科学研究センター 創発ソフトマター機能研究グループ

1984年、埼玉県生まれ。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻博士課程修了。米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校訪問研究員などを経て、2013年より理研創発物性科学研究センター特別研究員。同基礎科学特別研究員を経て、2017年より現職。
加熱・冷却で超分子ポリマー形成

図 加熱・冷却により超分子ポリマーが形成される様子の模式図

十分な量のアルコールがあるとPORcuのアミド基とアルコールの水酸基が水素結合を 形成し、PORcuはばらばらに存在する(中央)。加熱・冷却するとアルコールがPORcu から離れ、PORcuのアミド基同士が水素結合して超分子ポリマーが形成される。

「どういう職業に就きたいか、子どものころは一切考えたことがなかった」と宮島研究員。大学受験に向けた勉強をする中で生命の起源に興味を持ち、研究者になろうと決めた。

東京大学工学部化学生命工学科に進学すると、1年生のときからケミカルバイオロジーの菅 裕明 教授の研究室に通い、大学院生と実験をしていた。生命誕生の初期に存在したと考えられる触媒活性を持つRNAの発見を目指したもので、研究の面白さに引き込まれていった。しかし4年生での本配属では、現所属のグループリーダーでもある材料化学の相田卓三教授の研究室に。「ある目的では欠点となる性質も、違う目的では長所になり得る。材料科学はアイデア次第でいくらでも逆転ホームランを打てるというのが、自分に合っていました」

2013年から理研に。「既存の材料を改良するのではなく、分子同士の相互作用に注目して分子設計をすることで、今までにない機能を持つ新材料の開発に挑戦しています」

その一つが超分子ポリマーだ。通常のポリマー(高分子)は小さなモノマー(単量体)が共有結合という強い力でつながっているのに対し、超分子ポリマーはモノマーが水素結合などの弱い力でつながっている。超分子ポリマーはモノマー同士のつながりを物理的な力で引き離すことができ、力を緩めれば再接着することから、ダメージを自身で修復できる材料として注目されている。しかし加熱するとモノマーに戻ってしまうため、応用が制限されていた。「超分子ポリマーを加熱するとモノマーになるというのは熱力学の法則にのっとった現象です。その常識を覆せないか、と考えたのが始まりです」。そして、PORcuというモノマーから成る超分子ポリマーを開発。その溶液に十分な量のアルコールを加えるとモノマーになり、加熱するとアルコールが外れて超分子ポリマーが形成される(図)。さらに、想定していなかったことだが、モノマーの状態から冷却してもアルコールが外れて超分子ポリマーが形成された。加熱しても冷却しても超分子ポリマーができるユニークな材料の誕生だ。「新材料がすぐに製品に使えるわけではありませんが、材料開発における新たな設計指針を提示することが私たちの使命だと思っています」

光触媒材料として注目されながら、溶媒に溶けない粉末のため応用が難しかったグラフィティック・カーボンナイトライド(GCN)の薄膜化技術も開発。これだけでも大きな成果だが、宮島研究員は新しい用途を模索した。「薄膜を乾燥させるためにヒーターに近づけたら少し動いたのです。空気の対流で動いたのかと思いましたが、薄膜が吸着した水分子が追い出されることで薄膜が曲がっていることに気が付きました。その性質を利用し、わずかな湿度の揺らぎを動力源として駆動するアクチュエーターを開発しました」

次々と新材料を開発する秘訣は?「 まだ誰もやっていないことをしたい、と走り続けてきただけ」と笑う。「多くの場合、青写真どおりにはいきません。予想外のことが起きると落ち込みますが、そこにこそチャンスが眠っています。執念深く諦めずに考え抜くとアイデアが浮かび、新材料にたどり着けるのです。いつも分子設計を考えているので、家族に話し掛けられたときに空返事をして怒られることもありますが……」

性格を聞くと「しつこい」と返ってきた。趣味は?「 研究以外には興味がなく、夫婦での食べ歩きくらいかな。行列に並ぶのは苦になりません」。研究以外でも執念の人のようだ。

今でも生命の起源には興味がある。「生命の誕生でも分子の相互作用が働いているはずです。アイデアを練りながら生命の起源の研究に参入する機会を虎視眈々と狙っています」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』 2017年12月号より転載