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2018年2月5日

洗濯できる太陽電池からソフトロボットを目指す研究者

2017年9月に発表された「洗濯できる太陽電池」が大きな注目を集めている。創発物性科学研究センター(CEMS) 創発ソフトシステム研究チーム(染谷隆夫チームリーダー)の福田憲二郎 研究員たちによる研究成果だ。水に強く伸縮可能な超薄型の太陽電池を衣服に貼って、血圧や体温を継続的にモニターするセンサーの電源にするなど、さまざまな応用が期待される。福田研究員の素顔を紹介しよう。
福田憲二郎

福田憲二郎 研究員

染谷薄膜素子研究室
創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム

1983年、長崎県生まれ。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。山形大学大学院理工学研究科電気電子工学分野 助教などを経て、2015年10月より現職。
洗濯できる太陽電池

図 洗濯できる太陽電池

有機薄膜太陽電池(厚さ3μm)を、引き伸ばした2枚のゴムシートで挟み込むことで、水に強く蛇腹構造で伸縮可能な太陽電池が実現した。エネルギー変換効率は7.9%。ただし大気に30日間触れ続けると、その効率が半減する。実用化に向けて、変換効率や大気安定性を高める取り組みを進めている。

「父が勤務医で兄も医学部へ進んだので、私も医者になるつもりでした。でも、高校2年生のとき、友達の見舞いに訪れた病院の雰囲気になじめず、医者を目指すことをやめました」。そして東京大学工学部物理工学科へ。「学科の中で異色だった染谷研究室に入りました。そこでは、薄い電子素子をつくる研究が行われていて、とにかく手を動かしてやってみよう、という研究スタイルが私の性に合いました」

2011年に染谷研究室で学位を取り、山形大学を経て2015年、理研CEMSに新設された創発ソフトシステム研究チームへ。「研究室の机を買うところから始めました。2016年春に東大の染谷研究室から甚野 裕明 君(大学院生リサーチ・アソシエイト)が加わり、薄い太陽電池をつくる研究を本格的に開始しました」

東大の染谷研究室では2013年、伸縮可能な超薄型の電子回路の開発に成功していた。引き伸ばしたゴムシートの上に薄い電子素子を貼り付けたもので、元に戻したとき蛇腹構造となり、伸縮可能になる。一方、CEMS 創発分子機能研究グループ(瀧宮和男グループディレクター)では2012年、高効率の有機薄膜太陽電池の新材料(PNTz4T)を開発していた。「その二つを組み合わせれば、薄くて伸縮可能な高効率の太陽電池ができます。でも、それだけではインパクトが弱い。付加価値を付けられないかと3人でアイデアを出し合い議論を続けました。あるとき、染谷先生が『貼り付けた有機薄膜太陽電池の表面がむき出しだと引っかきなどですぐに壊れてしまうので、両側から挟んでみてはどうか』と言いだしました。ゴムシートで挟み込むことで水にも強くなり、洗濯できる太陽電池が実現しました」(図)

福田研究員たちは、軽くて柔軟な材料から成る小さなソフトロボットの実現を目指している。「ソフトロボットが自由に動き回るには、光や振動、熱など環境中にあるエネルギーを電力に変換する電源が必要です。洗濯できる太陽電池の研究もそのために始めました。単にソフトロボットを実現するだけでなく、それでどんなことができるのか、新しい価値を示すことを目指しています」

福田研究員は中学校の吹奏楽部でトランペットを吹き始め、高校や大学でも続けた。「大学院に進んだとき、ある女子校の100名を超える吹奏学部のコーチを頼まれました。私が指揮をした都大会予選では、最初の年も2年目も銅賞でした。私が担当する前の年は銀賞だったので悩みました。自分の実力を上げるためにレベルの高い楽団に入って学び、指導に生かしました。そして3年目で金賞を受賞。これまでの人生で一番うれしかったですね」

「少数の上級生が多数の下級生を盛り立てることで金賞が取れました。それは研究室の運営にも通じるところがあるかもしれません。いずれは独立して研究室を主宰し、新しい研究分野を切り開きたいですね。そのためのアイデアや独創性を養いたいと思います」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2018年2月号より転載