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2018年5月7日

手のひらに載る光源でテラヘルツ波を発生させた研究者

テラヘルツ波とは、周波数が0.1~10テラヘルツ(THz)の電磁波をいう。電波と光の間の周波数で両方の性質を持つことから、非破壊検査や高速無線通信など幅広い用途での利用が期待されている。しかし、テラヘルツ波を発生させるためには、たくさんのレンズや結晶が並んだ複雑で大きな装置が必要なことが、実用化の妨げとなっていた。そうした中、手に載るほど小型で簡便なテラヘルツ波の光源を開発した研究者が、光量子工学研究センターにいる。テラヘルツ光源研究チームの縄田耕二 研究員だ。「テラヘルツ波は『夢の光』と言われ続けてきましたが、実際に使える光にしていく時が来ています。開発した光源を、ぜひ実用化につなげたい」。そう力強く語る縄田研究員の素顔に迫る。
縄田耕二

縄田耕二 研究員

光量子工学研究センター テラヘルツ光源研究チーム

1982年、宮城県生まれ。博士(工学)。千葉大学工学部情報画像工学科卒業。千葉大学大学院融合科学研究科博士課程修了。2010年、理研テラヘルツ光研究グループテラヘルツ光源研究チーム特別研究員。2017年より現職。
テラヘルツ波の発生

図 疑似位相整合デバイスによるテラヘルツ波の発生

テラヘルツ光源研究チームは理研仙台地区にある。縄田研究員は仙台で生まれ、高校までを過ごした。そして千葉大学工学部情報画像工学科に進学。研究室は、情報学、画像工学、医療工学、応用物理など多様な中からレーザーを選んだ。「私たちは自然界にない光をつくっている。その光は太陽よりも明るい──という研究室紹介に興味を持ち、また尾松孝茂先生が面白そうに実験をしている姿に惹かれました」。レーザーの高出力化や波長変換に関する技術開発に取り組んだ。

大学院博士課程に進むころには、アカデミックの世界で研究を続けたいと思うように。「父方と母方の祖父、そして父が大学で研究をしていた影響があるかもしれません」。祖父たちは工学系、父は生物学系だ。「父は、よく虫捕りに連れていってくれました。生物学も面白かったのですが、同じ条件で実験すれば同じ結果が出る物理学の方が性に合っていました」

しばらくして研究室に新しい助手が着任した。「前職がテラヘルツ光源研究チームの研究員で、そのとき初めて仙台に理研の拠点があることを知りました。そして2010年から私がこの研究チームに。人と人のつながりは不思議で面白いですね」

テラヘルツ波は、近赤外線レーザーを特殊な結晶に導入して波長(周波数)を変換することで発生させる。しかし出力が低かった。「南出泰亜チームリーダーが誘導ブリルアン散乱という現象を取り除けば高出力化できるかもしれないと気付き、私がそれに適したレーザーの発振装置をつくりました。すると、出力が100mWから100kWに6桁も上がったのです。2011年のことで、あのときは興奮しましたね」と縄田研究員。「装置は手元にある部品を組み合わせてつくりました。学生時代からの経験があるからできること。これは私の強みです」

その後、ニオブ酸リチウムの結晶を用いた疑似位相整合デバイスによる光波長変換の研究に着手。結晶の誘電分極方向を周期的に180度反転させたもので、効率的に光波長変換ができる。波長変換された光を使ってテラヘルツ波を発生させようとしたのだが、出てくるはずの方向に光が出てこない。調べると、レーザーの伝搬方向とは逆方向に光、しかもテラヘルツ波が出ていることが分かった(図)。デバイスの角度を変えると、テラヘルツ波の周波数が変わる。この発見は、結晶の周期構造をレーザーに対して斜めにしていたことも幸いした。普通は垂直にするのだが、それでは発生したテラヘルツ波がレーザーと重なり、気が付かなかったかもしれない。

「疑似位相整合デバイスだけでテラヘルツ波を発生できるのです!」と縄田研究員。デバイスを組み込んだ光源は、長さ8cm、重さ100gほどだ。光源を2018年2月に開催された「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」で展示すると注目を集め、研究チームは「nano tech大賞2018 プロジェクト賞」を受賞した。「この現象には、私たちが気付いていない原理がまだ隠されているようなのです。それを明らかにできれば、さらなる高出力化も可能になるでしょう。2011年のようなテラヘルツ波の急発展を、再び起こしたいですね」

体を動かすことが好き。小・中学校ではサッカー、高校ではハンドボール、大学ではヨット、今はマラソン。研究チームの仲間で大会にも出る。でも最近は練習をさぼりがちだ。「休日は、生まれたばかりの子どもと遊んでしまって。毎日成長して新しい反応が返ってくる。それが面白いんです」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2018年5月号より転載