多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明究領域略称:細胞運命制御

組織・研究内容

研究課題名
ATRAによるAPL細胞の分化誘導の分子メカニズム

北村 俊雄
研究代表者
小松則夫
順天堂大学医学部内科学血液学講座
研究室HPE-mail

研究内容

  FOXO3A(FKHRL1)はFOXO1、FOXO4、FOXO6とともにForkheadファミリー転写因子に属し、線虫が高温や栄養欠乏などの生存に適さない環境に適応するために機能する転写因子DAF16のヒトオルソログである。FOXO3Aは細胞周期停止、ストレス耐性、細胞分化、代謝、オートファジーなどの様々な生理的機能を制御することが明らかにされており、造血系における役割については遺伝子破壊マウスを用いた解析から、細胞内の活性酸素種(ROS)を低いレベルに保つことで造血幹細胞の維持に重要な役割を果たすと報告されている。またp27/Kip1やサイクリンDなどの発現を制御することで細胞周期チェックポイントの制御にも関与する。

 研究代表者の小松らはエリスロポエチンやトロンボポエチンのシグナル伝達にFOXO3Aが関与すること(Blood, 2000; JBC, 2001)、慢性骨髄性白血病(CML)においてFOXO3AがBCR-ABLチロシンキナーゼの下流に存在し、常にリン酸化を受けた状態にあること(細胞質内に存在し、やがてユビキチン化分解されるため、転写因子としての機能が発揮できない)(JBC, 2003; Stem Cells, 2004)、BCR-ABL特異的阻害剤であるイマチニブによって脱リン酸化されたFOXO3Aは核内へと移行し、転写因子としての機能を発揮し、細胞周期をG0/G1期に停止させて細胞増殖を抑制すること、FOXO3Aを核内に強制的に発現させることによってTRAILなどの標的遺伝子の誘導を介して細胞死を惹起すること、さらにはイマチニブに耐性を獲得したCML細胞株にFOXO3Aを核内に強制的に発現させることによって細胞死を誘導できることを証明し、FOXO3Aががん細胞撲滅の新たな分子標的となる可能性があると発表した( Cancer Sci, 2007)。これは論文掲載号の「issue highlights」に取り上げられ、表紙を飾った。さらにはAPL細胞において (1)FOXO3aは細胞質内にリン酸化された状態で存在すること、(2)ATRAを添加することにより、脱リン酸化され、核内へと移行すること、(3)続いて転写活性因子としての機能を発揮し、TRAIL、Bim、p27/Kip1などのアポトーシス関連分子の発現を介して、アポトーシスを誘導することを明らかにした(Blood, 2010)。

 そこで本研究では「ATRA刺激後のFOXO3Aの活性化にリン酸化以外にどのような蛋白修飾が関与するのか、どのような標的分子の遺伝子発現を制御してAPL 細胞を好中球へと分化誘導するのか」、これらの疑問点を明らかにする。

主な論文

* correspondence
研究代表者
小松則夫

Sakoe Y, Sakoe K, Kirito K, Ozawa K, and *Komatsu N
FOXO3A as a key molecule for all-trans retinoic acid-induced granulocytic differentiation and apoptosis in acute promyelocytic leukemia.
Blood. 115: 3787-3795, 2010.  

Kikuchi S, Nagai T, Kunitama M, Kirito K, Ozawa K, and *Komatsu N
Active FKHRL1 overcomes imatinib resistance in CML-derived cell lines via the production of TNF- related apoptosis- inducing ligand (TRAIL or APO-2L).
Cancer Sci. 98: 1949-1958, 2007.  

*Komatsu N, Watanabe T, Uchida M, Mori M, Kirito K, Kikuchi S, Liu Q, Tauchi T, Miyazawa K, Endo H, Nagai T, and Ozawa K. A member of Forkhead transcription factor FKHRL1 is a downstream effector of STI571-induced cell cycle arrest in BCR-ABL-expressing cells.
J Biol Chem. 278: 6411-6419, 2003.  

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