〒351-0198
埼玉県和光市広沢2-1
理化学研究所 開拓研究本部
今本細胞核機能研究室
Tel: 048-467-9749
Fax: 048-462-4716
E-mail: nimamoto _at_ riken. jp

私たちの研究

核ー細胞質間輸送

細胞質から核へ、また、核から細胞質へタンパク質やRNAを運搬する核輸送運搬体Importinβファミリータンパク質の最初の分子Importinβとそのアダプター分子Importinαを1995年に発見(Imamoto et al., J.Biol.Cell, EMBO J., FEBS Let 1995)。それ以降、両者のファミリー分子群が同定され、これらImportinファミリーが真核細胞の大部分のタンパク質とRNA(mRNAの核外輸送を除く)の核内外輸送を担うと考えられています。そして現在、このImportinファミリーの働きが広く注目されるとともに、ひとつの研究課題が必要性を増して来ました。Importinファミリータンパク質のひとつひとつが、具体的にどのタンパク質を輸送しているのか? その役割分担はどうなっているのか? 今本研では、この基礎的ながら多くが未解明のまま残された難題に正面から取り組んでいます。

高等真核生物の細胞には、核内で何らかの機能を果たす「核タンパク質」が一万種近く存在します。これら核タンパク質は、細胞質で翻訳されたあと必要に応じて核内へ侵入し、一部のものは、そのあと核外(細胞質)へ退出します。このように核—細胞質間を移動するタンパク質は、全て核膜上に存在する核膜孔を通路にしています。しかし、多くのタンパク質はこの核膜孔を拡散によって自由に通過することができません。核の内外でそれぞれのタンパク質の濃度差を作り出すためには、核膜孔からタンパク質が漏れ出してはいけないからです。細胞には、核膜孔を自由拡散では通過できない分子に、核膜孔を通過させる核輸送システムが備わっています。そして、あたかも積荷を運ぶ様に、タンパク質と結合して核膜孔を通り抜ける機能をもつのがImportinファミリーと呼ばれる輸送運搬体群です。核輸送システムは、積荷タンパク質を運ぶImportinファミリーと、それらの結合・解離を制御して輸送の流れを作り出すRanなどのタンパク質で構成されています。このシステムは、タンパク質に核膜孔を通過させるのみでなく、核内外の濃度勾配に逆らってタンパク質を運搬することができます。Importinには、Importinαファミリー、Importinβファミリーのふたつのグループがあり、ヒトのImportinαファミリーはImportinα1、Importinα2など7種類、ImportinβファミリーはImportinβ、Transportin、Ran BP5など21種類が知られています。Importinβファミリー輸送運搬体の多くは、積荷(輸送基質)蛋白質と直接結合して核膜孔を通過しますが、ファミリー分子の中でImportinβだけは、Importinαファミリーのひとつをアダプターとして輸送基質と結合し、3分子の複合体で核膜孔を通過する場合もあります。よく知られているT抗原の核移行シグナルなど、輸送基質上の塩基性のアミノ酸残基を多く含む配列に直接結合するのはImportinαファミリーの因子であることが多く、このようにImportinβがImportinαをアダプターとする例はかなり多いようです。ヒトでは21種類のImportinβファミリー運搬体分子が数千種類のタンパク質の核輸送を分担しています。そして、Importinβファミリー分子のうち十数種類は、細胞質から核へ、残りは核から細胞質への輸送を担っています。核タンパク質のそれぞれは、ある程度重複しながら特定のImportinβファミリー分子に輸送されますので、数千種類の核タンパク質はその輸送を分担するImportinβファミリー運搬体分子ごとに、ある程度重複してグループ分けされることになります。特定のImportinβファミリー運搬体分子に運ばれる基質タンパク質のグループは、例えば、Transportinに運ばれるものにはRNAと相互作用する蛋白質が多いなどの特徴をもつ可能性が示されています。また、各Importinβファミリー運搬体分子は、それぞれ並列に輸送経路を構成して、特定グループの基質タンパク質を輸送しますので、各経路の輸送量を独立に、あるいは、競合的に調節することで、細胞の活動に大きな変化をもたらす制御システムの存在が予想されています。実際、Importinβファミリー分子の発現パターンは細胞分化により変化することも知られています。しかし、それによって様々な細胞活動が引き起こされるメカニズムについて具体的に知るためには、各Importinβファミリー分子が輸送する基質タンパク質を具体的に知る必要があります。ところが、この各Importinβファミリー運搬体分子と基質タンパク質の対応関係は、必要とされる基礎的情報であるにもかかわらず、現在、限定的かつ断片的にしか知られていません。今本研では、現在までの核輸送研究のなかで確立した試験管内核輸送再構成系などの実験系を発展させて、Importinβファミリー運搬体分子ひとつひとつと基質タンパク質の対応関係を網羅的に決定する方法の開発を進めています。

(文責:木村)

ストレス応答時で働く核-細胞質間分子輸送のメカニズムは、正常時で働くメカニズムとは異なる:新しい分子メカニズムの発掘とその解明。

今本研では、細胞ストレス応答の代表例として熱ショックをとりあげ、核-細胞質間輸送システムの観点からストレス応答機構の解析を行ってきました。その結果、正常時に機能しているImportin βファミリー運搬体分子による核-細胞質間輸送反応が、熱ショック時には抑制されることを明らかにしました(Furuta, M., et al., Genes Cells, 2004)。一方で、熱ショック時には、代表的な分子シャペロンのひとつであるHsp70の発現が亢進し、その細胞内局在も細胞質から核に速やかに集積することが古くから知られていました(Velazquez, J.M. & Lindquist, S. Cell 36, 655-662, 1984)。私たちは、熱ショック時におけるHsp70の核内輸送のメカニズムを解析し、全く新規な核-細胞質間輸送運搬体分子の同定に成功しました(投稿中)。この分子は、Importin βファミリーとの相同性は見られませんが、酵母から人まで進化的によく保存されています。

Hsp70などの分子シャペロンは、タンパク質合成における新生ポリペプチド鎖のフォールディング、タンパク質凝集体の形成防止、熱ショックなどのストレス応答、小胞体内等での品質管理、様々なオルガネラでの膜輸送、さらにはタンパク質分解にいたるまで、タンパク質機能発現の様々な局面で重要な役割を果たします。また、不安定化したタンパク質の蓄積は神経変性疾患など様々な「フォールディング病」をもたらすことや、老化などとの関連性から、分子シャペロンの機能解析は病理的な観点からも注目されています。しかし、このような多機能をもつ分子シャペロンが、いつどのように核内に移行し、核の中でどのような働きをしているのかといった解析は、非常に遅れています。  今本研では、新しく同定した輸送経路の解析を中心に、ストレス応答時における核-細胞質間分子輸送の機能や分子シャペロンの核内機能の解析を進めています。また、多細胞生物の研究材料として線虫(C. elegans)を使用し、環境応答、発生・分化,老化などさまざまな生命現象における核-細胞質間分子輸送の生理的意義を明らかにしようとしています。

(文責:小瀬)

研究課題 「ストレス応答時の機能する新規核-細胞質間輸送経路の解明による分子シャペロン機能の発掘」

(1)研究の背景

細胞が環境ストレスを受けると、タンパク質の恒常性(正常な働き)が崩れて生命機能が破綻する。核と細胞質の間の情報分子の交換(核—細胞質間輸送)は、真核細胞の生命営みの基本である。我々は、ストレス時の細胞内では正常時に働く核—細胞質間輸送が遮断され、全く新しい輸送反応が出現することを発見した。この新規輸送は細胞にストレス耐性を付与しストレス障害を回復させる。しかし、輸送の切換え反応と新規輸送の分子機構は明らかでない。

(2)研究の目標

ストレス時に新たな輸送反応が出現するのは、タンパク質の恒常性を維持する分子シャペロンを動員してその細胞内局在を制御するためである。このシャペロン系の機能発現と新規輸送への切換え分子機構を解明することで、細胞にストレス耐性が生じてストレス障害が回復する仕組みを明らかにする。

(3)研究の特色

世界に先駆けて発見した新規輸送系を解明することで、環境ストレスに対する耐性と適応の分子機構が初めて明らかになり、ヒト医療への適応も期待され、独創的かつ斬新である。

(4)将来的に期待される効果や応用分野

分子シャペロンは、神経疾患、老化、癌の悪性化とも関わり、その機能発現解明は医学・社会的に重要である。分子シャペロン機能の発掘は、医学応用を視野に入れた研究に展開できる。

核—細胞質間輸送
核膜・核膜孔複合体の構造構築
クロマチン分配・複製

ページ先頭へ戻る