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理化学研究所
今本細胞核機能研究室
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私たちの研究

クロマチン分配・複製

分裂期染色体の動態や安定性を制御する新たな分子機構

細胞分裂期において遺伝情報を姉妹細胞へ安定に分配することは、細胞が自らを維持するために、また組織や個体などのより高次な機構を破綻なく維持するために必須です。遺伝情報をのせた分裂期染色体が適切に挙動するには、染色体が凝縮し十分に強靭かつコンパクトな構造をとること、双極性の分裂装置が形成されること、モータータンパク質群・微小管結合タンパク質群・キナーゼなどの酵素群が適切な場所と強度で連係して機能することが重要です。それぞれの過程で機能する分子がこれまでに多数同定・解析されてきましたが、私達の理解は不十分で、未同定・未解析の要素がまだまだあると思われます。 私達は分裂期染色体の表層領域に局在するタンパク質(クマドリン)を有袋類細胞 (Takagi et al., 1999) およびカエル卵から同定し、Ki-67抗原(クマドリンのヒトホモログ)もまた分裂期染色体の適切な動態に寄与する分子であることを初めて示しました (Vanneste et al., 2009)。Ki-67抗原は、分裂期染色体の表層領域 (perichromosomal region ; PCR) というこれまでに具体的な役割が示唆されていない細胞内領域に局在して機能することから、Ki-67抗原が機能発現するための分子基盤を解析することにより、分裂期染色体の動態を制御する未知の機構が明らかになるのではないかと期待されます。

Ki-67抗原が機能発現するための分子基盤を理解する第一歩として、私達はヒトKi-67抗原と相互作用する因子の同定に取り組みました (Sueishi et al., 2000; Takagi et al., 2001; Kametaka et al., 2004)。N末領域のFHAドメイン(リン酸化ペプチドを認識するドメイン)は、分裂期特異的にキネシン様モータータンパク質Hklp2と相互作用します。Hklp2は分裂期紡錘体と染色体との間を動的に行き来していて、後者への局在はKi-67抗原に完全に依存します (Vanneste et al., 2009)。Ki-67抗原は、Hklp2の局在調節を介して紡錘体の動的性質を間接的に制御していると考えられます。一方で、C末領域(LRドメインと呼ぶ)はHP1 (hetrochromatin protein 1)と相互作用し、またその過剰発現により間期核の全域にわたりクロマチンの過凝縮が導かれます。Ki-67抗原とクロマチン高次構造との密接な関係を示唆する観察です。分裂期染色体の構築にKi-67抗原が関与する可能性については、今後の研究で明らかにされるべき重大な争点の一つです。また別の領域を介して、Ki-67抗原がある種の脱リン酸化酵素と相互作用することを見出しました。Ki-67抗原が細胞内のリン酸化・脱リン酸化バランスの制御に関与する可能性が新たに浮上してきました。

私達は現在、これまでの研究を深化させ (1) Ki-67抗原が分裂期染色体の構築に関与する可能性、(2) Ki-67抗原が分裂期細胞におけるリン酸化・脱リン酸化バランスの時空的制御に関与する可能性について、多面的な検証を行っています。いずれの可能性についても検証がなされ、さらに生理的意義が明らかにされれば、分裂期染色体の動態や安定性に関する理解が飛躍的に深まると思われます。

(文責:高木)

DNAポリメラーゼαの品質管理を新たに提唱

ヒトを含めた高等多細胞生物の染色体の複製はDNAポリメラーゼ(DNA合成酵素)α、δ、εの3種類のB型DNAポリメラーゼにより行なわれることが明らかになっています(右図).この中でポリメラーゼαは、唯一プライマーゼ(プライマーRNAの合成を行なう酵素)と複合体を形成しており、新生DNA鎖の合成を司ります.よって、複製開始、及びラギング鎖合成(不連続合成されるDNA鎖)に必須であることが証明されています.私達は,最近、GFP(green fluorescent protein)融合タンパク質の継時観察や、光刺激型GFP(450nm近くの光を照射して初めて緑色の蛍光を発生する改良型GFP)を用いた観察実験等により、ポリメラーゼαの核内の品質を管理する機構が存在することを見いだしました(C.Eichinger,T.Mizuno et al., J. Biol. Chem., 2009,下図)。即ち、ポリメラーゼαの温度感受性変異株tsFT20細胞を利用することで、異常な構造を生じたポリメラーゼα、もしくはサブユニットの構成が崩れたポリメラーゼαは細胞質に係留され、更に、核内では異常なポリメラーゼαが速やかにユビキチン化—プロテアソーム系により分解されるという二つの独立した経路により核内のポリメラーゼαの品質が管理されていることが結論されました。
このようにポリメラーゼαの詳細な機能解析の結果、タンパク質の合成、翻訳、サブユニット間相互作用、細胞内輸送、タンパク質分解という、各ステップにおけるポリメラーゼαの代謝の実態に関して新しい知見を見いだしました。ポリメラーゼαの品質管理機構は、染色体の遺伝情報の恒常性を維持する役割を担っており、疾病、老化等の高次な生命現象との関係に興味が持たれる.現在核内タンパク質の品質管理機構という新しい概念の提唱に取り組んでさらにその分子実態を解明する為に核内E3分子(ユビキチンリガーゼと考えられている未知因子)の同定を試みています。


(文責:水野)

マウスのlicensing factor Cdt1の機能解析

私達は一回のS期において一度の複製を保証するクロマチンのライセンス化において重要な役割を担うCdt1(cdc10 dependent transcript)を標的とし,機能解析に取り組んでいます。 NMR(核磁気共鳴)法によりC末領域がwinged turn helix (WH)という特徴的な構造をとることを見いだしました.(J.Jee, T. Mizuno et al.,J. Biol. Chem., 2010)。この構造にもとづきMcm(minichromosomal maintenance)との結合に重要なアミノ酸残基を同定することに成功しました.
さらに構造上の相同性を検索した結果、Cdt1のC末領域のWHが古細菌のCdc6のC末領域のWHと類似性を有すること、またCdt1の中央領域のWHとも類似性を有することを見いだしました.これらの相同性と機能解析を通じて、複製前複合体の形成に働くWHの分子基盤を提唱するに至った.複製前複合体の構成因子の中には複数のWHドメインが存在すると予測されています。各WHドメインは,これまで考えられていたDNA結合ドメインとして働くのではなく、タンパク質間相互作用の足場として機能することが推測されました。これらの結果は、複製前複合体の統合的な理解につながると考えています.
参考書:分子生物学第2版柳田充弘他編東京化学同人

(文責:水野)

核—細胞質間輸送
核膜・核膜孔複合体の構造構築
クロマチン分配・複製

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