PICK UPコラム

【理事長ファンドワークショップ】
所内外の「知」を連携し、環境問題の解決に向けた研究を積極的に推進していく

理研のミッションを、中長期的な視野に立って推進するために

 理研は1917年の創立以来、世界トップレベルの研究に必要な最高水準の環境基盤整備や人材育成の拡充、分野を横断した総合化による新研究領域の開拓、研究成果の社会還元等を、その使命として掲げています。
 これら理研のミッションを、未来を見据えた中長期的な視野に立って推進するために何が必要か、今どんなアクションを起こすべきかなどを問題提起し、意見を取りまとめ、理事長及び理事会議へと提言、報告する審議機関として「研究戦略会議」を設けています。
 会議は毎月一度開かれ、参加者25名のうち約半数を理研の研究者が、残り半数を外部の研究者・有識者などで構成しています。理研のこれからの取り組みが、従来からの実績のみにとらわれることのないよう、所外の声を積極的に取り入れて議題について検討しています。この「研究戦略会議」での議論・提言と戦略的研究展開事業(理事長ファンド)による研究会(「理事長ファンドワークショップ」以下、WS)などの施策とを有機的に結びつけながら、理研が取り組むべき研究課題が選定されます。
 2010年4月から立ち上がった社会知創成事業も、こうした開かれた場での議論がきっかけとなりました。

 社会知創成事業の中で取り組まれる具体的プログラムの選定の背景には、研究戦略会議が主催するWSでの提言が活かされています。
 たとえば、生物由来の資源であるバイオマスの増産から、それをもとにしたプラスチックの産生などを一気通貫で実現し、持続型社会への転換を図るバイオマス工学研究プログラムについては第15回(2009年10月開催)、そして、理研の有する多様な研究設備や知見を安全性の高い優れた医薬品の開発に役立てる創薬・医療技術基盤プログラムについては第16回(2009年11月開催)のWSでそれぞれ、中長期的な目標とその達成に向けた戦略、所外の研究機関や大学、産業界における連携や役割分担について、外部の研究者や有識者を交えた、横断的な議論を重ねました。

コンセンサスをもとに、社会に有用な知を生み出していく

 冒頭述べた理研の使命のひとつに、第一級の研究成果の社会還元というものがあります。これまで理研が堅実に推進してきた基盤的な研究と併せ、「課題解決型科学」への志向はまさしくその延長線上に位置づけられます。
 そもそも、人類の存続に際しては「WEHAB+P(Water水、Energyエネルギー、Health健康、Agriculture農業、Biodiversity生物多様性、Poverty貧困)といった課題の解決が必要と、2002年に開催されたヨハネスブルグサミットにおいてアナン国連事務総長(当時)が指摘しました。いずれも一朝一夕には解決し得ない、難題です。
 理研にはこうした問題解決に寄与しうる科学的な知見・研究シーズが数多く存在しており、研究者によって日々、蓄積されています。これらをWSを通じて洗い出し、抽出していくことで、解決に向けて理研として取り組むべき具体的なテーマを明らかにしていきます。
 2010年2月に開催された第17回のWSでは、「水を意識した科学研究の在り方」??複合的な視点から新たな「水」像を構築する??と題し、議論を深めました。そもそも地球上における水の起源とは何か、といった根源的な議論から、淡水化、超純水製造といった水処理分野の最前線まで、多角的な見地から多様な意見が交わされました。
 WSの開催は、すでに20回を超えています。今後も、こうしたオープンかつ第一級の科学的知見・研究シーズと、国内外の幅広い人的ネットワークを駆使した「知」の交流を通じて、研究の活性化につなげ社会への貢献を果たしていきたいと考えています。
 科学研究は、明日の社会にとって有用な知を生み出していくことが大きく期待されるものです。理研が社会から信頼され、期待される研究機関であるよう、研究戦略会議では、これからも所内外の多くの声にしっかり耳を傾け、社会的なコンセンサスを得て、研究と市民社会、ニーズ(課題)とシーズ(解決策)などをしっかり結びつける役割に努めていきます。