少し前の研究内容

少し前の研究内容 (テラヘルツ分光)

  1. テラヘルツ分光による封筒中の麻薬検査装置の開発
  2. ケモメトリクスを用いたテラヘルツ分光イメージデータ解析と肝癌組織への適用
  3. テラヘルツ時間領域分光法による気体分子の分光:水蒸気の圧力広がり係数の測定
  4. テラヘルツパルスによる凍結生体組織のイメージング


1.テラヘルツ分光による封筒中の麻薬検査装置の開発

テラヘルツ波の特徴

  周波数が0.1-10テラヘルツ(波長3mm-30µm)の電磁波であるテラヘルツ(THz)波は,赤外線と電波の中間の周波数に位置し,その両者の性質を兼ね備えている.電波的な特長としては,適度な物質透過性が挙げられ,同様の電磁波の中でも最短波長域にあるため,適度な空間分解能で物質の透視イメージングが可能である.そのため,テラヘルツ波は様々な工業製品の実用的な透視イメージング検査に適しており,またX線とは異なり被ばくの心配もない.一方で特徴的な吸収スペクトル(指紋スペクトル)が多数の結晶で発見され,それを利用した物質弁別などの応用が提案されている.テラヘルツ波は物質に対する透過性が赤外線より高いうえ,物質内部の微細構造による散乱の影響も相対的に小さい.このため,隠されたものを透視しながら物質弁別を行うといった応用が期待できる.また,同様の物質透過性を有するX線では,特性X線などによる元素弁別はできても分子の弁別は容易ではなく,上記の利点はテラヘルツ波特有のものである.
  このようなテラヘルツ領域での分光は,近年のフェムト秒レーザーの簡便化・低価格化によってテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)が身近なツールになったことにより,急速な発展を遂げた.THz-TDSは従来使われていたFT-IR等に比べて光源の感度,検出器のダイナミックレンジが広く,得られる実験データの精度が良い.さらに,フェムト秒のパルス光をプローブとして用いることで熱揺らぎの影響が格段に小さくなり,従来使用されてきた極低温検出器が不要になったため,THz波の応用可能性が急速に広まったといえる.現在では空港でのセキュリティチェックや郵便物の未開封検査,生産ラインでの品質検査など様々な分野でテラヘルツ光を用いたアプリケーションが実現しつつある.加えて、様々な物質がテラヘルツ領域で特徴的な吸収スペクトル(指紋スペクトル)を示すため,隠されたものを透視しながら物質弁別を行うといった応用が期待される。中でも特に安全安心に関わる応用開発は、世界情勢の変化や国内の治安悪化とあいまって社会的な要請が高まっており、国家の抱える深刻な課題を解決しうる重要な手段の一つとして注目されている。

テラヘルツ分光を用いた麻薬検査装置

  理化学研究所ではテラヘルツ波を用いた郵便物検査装置を開発してきた。我が国では検閲が法的に禁じられており、封書のような個人郵便物(信書)を開封するには捜査令状が必要である。しかし、封書を開封することなく麻薬・覚せい剤などの違法薬物を探知する事は従来技術では困難であり、信書を用いた違法薬物等の密輸の取り締まりには限界があった。
一方,紙やプラスチックのような物質はテラヘルツ領域で透過率が高いため、パッケージを開けずに中の物質の指紋スペクトルを測定できる。これを利用すると、郵便物を非開披のまま中の物質を同定できる(上図)。さらに,この方式に加えて怪しい封書を効率的に選別するステップを導入し、海外からの封書郵便物(1日20万通程度)を全数検査できる能力を有する装置を開発中してきた。
  海外からの郵便物は1日に数10万通あり,全てを分光測定するのは困難である.そこで我々は,二段階の検査を行うことにした.第一段階では,テラヘルツ波の散乱強度で粉体の有無を判別する.禁止薬物などの粉の粒径は典型的に数100ミクロン程度であり,テラヘルツ波の波長と同程度のため良い散乱体となる.また,この方法は単一周波数のテラヘルツ波光源を利用できるため,迅速な検査が可能となる.第一段階で粉体が検出された封筒は第二段階へと運ばれ,THz-TDSによる分光検査を行う.
  第一段階のスクリーニング装置では高いS/Nを得るために連続波光源を採用した。具体的には、長期連続運用に耐えうる信頼性やメンテナンス性などを考慮し、ミリ波ダイオード光源と逓倍器を組み合わせた光源(0.55THz,0.7mW)とした。このテラヘルツユニットでは、光学調整の簡略化と光学部品数の抑制のために、入射光学系をレンズで構成しており、汎用の調整部品を多用することでコストの抑制にも配慮している。ま最終的にS/Nとして1000程度という数字を実現しており、検査の高速化への対応が可能となった。
 第二段階ではTHz-TDSによる分光をおこなう.この装置では、サイズA4以上の封筒を水平設置できる構成となっている。光学系は窒素ガスでパージされており、封筒挿入部のみを空気中にさらすことで、水蒸気の影響をほぼ無視できる程度まで除去している。また、封筒挿入部のスペースはベローズにより可変になっており、空気を通るパス長もできるだけ短くなるように工夫している。また、レーザー光学系へのオートアライメント機構の採用、レーザー安定化のための恒温槽の導入や、どんな場所でも窒素パージが可能なように窒素ガス発生装置を付属するなど、できるだけメンテナンスフリーに近い状態で誰でも駆動ができるように工夫している。また、データベースとの照合により薬物種類の判定が可能なソフトウェアを新たに開発・搭載しており、実用に極めて近いシステムを実現している.

郵便物検査装置:第一段階スクリーニング装置(左),第二段階分光装置(右) 
 
第二段階分光装置で測定した薬物のスペクトル(上からラクトース,スクロース,覚醒剤,塩酸コカイン,RDX,DNT)

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2. ケモメトリクスを用いたテラヘルツ分光イメージデータ解析と肝癌組織への適用

テラヘルツ分光情報の限界

  THz波のスペクトルには様々な物質の情報が重なっているために,スペクトルの構造が複雑で,しばしば何を見ているのか分からなくなってしまうという問題点がある.実際にTHz帯の分光スペクトルを測定すると,物質の固有モードによる吸収だけでなく,結晶多形やサンプル形状による散乱,パッケージの干渉など様々な効果の重ね合わせとして得られてしまい,その解析が単純でない事が多い.特に生体組織のTHz波吸収スペクトルは特徴的な吸収ピークを示さない事が多いため,マクロな組織構造の複雑性,個体差による差異を取り除く事が難しい.
  例えばテラヘルツ光を用いた癌のイメージング研究はこれまで数多くおこなわれてきているが,3)癌と正常組織の吸収差は報告されるものの,それが直接,病理学的な癌というものに対応しているかというと,なかなか難しい点がある.実際に我々のグループでも肝癌組織のテラヘルツスペクトルを測定しているが,組織のわずかな差異によって,吸収強度が大きく変化してしまい,ある組織では癌の吸収が強いが別の組織では正常細胞の吸収が強いといった反転現象が見られている.従ってテラヘルツ光で見る癌組織のイメージングの結果は赤外,ラマンなどで見られている癌イメージングの結果のように明確でない.THzスペクトルから癌組織を選択的に抽出することは容易でなく,実用化には癌の種類等の様々な条件への対応が必要である.そのため,従来行われてきた吸収率やスペクトルの単純な比較に代わる新しい分析手法が必要である.

テラヘルツ分光イメージに対するケモメトリクスの適用

  テラヘルツ分光イメージングでは多次元の情報が得られるが,そこから物質の空間分布など低次元の情報を引き出すには何らかの統計操作が必要である.物質のスペクトルが明確であるときは,スペクトルピーク周波数でのイメージや最小二乗法に基づくデータ処理によって空間的なコントラストが得られるが,癌組織のようにスペクトル構造が明確でない場合は難しい.そこで我々のグループではテラヘルツ分光イメージから効率的に情報を抜き出す手段として,ケモメトリクスの適用を試みた.具体的には,肝癌組織切片のTHz時間領域分光イメージに対して主成分分析とクラスタ分析を適用し,癌部位の空間的な分離を試みた.
主成分分析とは,スペクトル内のサンプルの特徴や差異の情報を,より明確に検出することを目的とした解析方法である.N個の周波数データ点で構成される1画素のスペクトル情報は,N次元空間内の1点として表現できる.同一サンプル内の全ての画素のTHzスペクトルをこのN次元空間にプロットすると,各画素のスペクトルの違いが空間上の距離として現わされる.4) 最も顕著に特徴が表れる現れる方向,すなわち最もデータ点の分散が大きい方向に第1主成分軸,2番目に分散が大きい方向に第2主成分軸,と新たな軸を再定義し,多次元のスペクトル情報を低次元の主成分空間上に射影することによって,各データ点の類似度や相関関係を効率よく抽出できる.ただし,このときスペクトル強度に関する情報は失われており,Lambert-Beer則は成り立たない.また,クラスタ分析とは距離を基準に空間内の多数のデータ点を複数のグループに分類する手法である.これらの手法を組み合わせることで,テラヘルツ分光イメージからサンプルを空間的に分別することができる.

肝癌組織のテラヘルツ分光イメージの解析

  下図は,テラヘルツ時間領域分光法によってパラフィン包埋した肝癌組織切片(厚さ1mm)のTHz分光イメージスペクトルを測定し,その吸光度スペクトルと屈折率スペクトルに対して主成分分析とクラスタ分析による解析を行ったものである.肝癌組織の光学写真とテラヘルツ(1.7 THz)でのイメージ,及び主成分分析とクラスタ解析(Ward法)を適用した結果を示した.ここで,光学写真に示した赤い斜線部は,同じ組織ブロックから数10µmの厚みで切り出した別サンプルを染色して光学顕微鏡観察により医学的に同定された癌組織領域を示す.図3のTHzイメージを見るとサンプルA及びCでは吸光度画像で,サンプルBでは屈折率画像で癌領域と他の組織領域が識別できていることが確認できる.さらにサンプルAの吸光度スペクトルでは癌の吸収が癌以外の吸収より大きいが,サンプルB,C,Dでは逆になっているなど,組織によって見え方が異なっていることがわかる.本研究では,ケモメトリクスの第1段階として,吸光度と屈折率スペクトルを結合したものに対して主成分分析を行った.その結果,4つのサンプルのうち3つの試料で癌部位が分類され,光学顕微鏡観察とのよい一致が確認された.さらに組織が似通っているほど点と点が近くに分布していることも確認できたため,クラスタ分析を適用し,癌部と癌以外の部位との弁別を試みた(図3右).その結果,サンプルA~Cでは光学顕微鏡で診断した癌組織の範囲と一致した空間イメージが得られている.
  このように,ケモメトリクスを用いることでテラヘルツ分光イメージから自動的,効率的に物質の持つ情報を引き出す事ができた.ただ,本手法で得られた結果はあくまでサンプル内の領域分けであり,そのいずれが癌に相当するかは不明であり実際の病理診断に直接つながるものではない.したがって実際の病理診断に適用する際には,医師の診断の手助け(客観的な診断)や見落とし防止などに利用することになるであろう.今後は迅速な診断を可能にするため,THz光が氷を透過することを利用して,冷凍組織の癌診断を試みる予定である.
THzイメージへのケモメトリクスの適用による異質部位の弁別は,癌組織の同定をはじめとする医学応用に限定されるものではなく,他のTHz分光画像に対しても有効であり,様々な応用分野において複雑な多変量THzスペクトルイメージデータを系統的に分類する新しい解析方法として期待できる.
肝癌組織の光学写真(左),THz吸光度,屈折率イメージ(中),およびケモメトリクスの結果(右)

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3. テラヘルツ時間領域分光法による気体分子の分光:水蒸気の圧力広がり係数の測定

気体分子分光法としてのTHz-TDS

  従来気体分子のTHz分光には,大まかに分類して2種類の手法が用いられてきた.一つはBWOやミリ波の倍周器,ガスレーザーなどを用いた連続波光源であり,もう一つはフーリエ変換赤外分光法(FT-IR))である.連続波光源は分解能が1MHz以下で単色性が高く高分解能分光に適しているが,一度に測定できる範囲が狭いことや,光源の取り扱いが難しいことから主に正確な周波数精度が要求される実験室分光で用いられる.一方FT-IRは周波数分解能が劣るが,一度に測定できる範囲が広いこととから,比較的圧力が高く線幅が太い条件での分光に用いられる.
  THz-TDSはFT-IR同様フーリエ変換分光法であるために周波数分解能はそれほど高くないが,広帯域を一度に測定できるという利点を持つ.THz-TDSはSiボロメーターなどの極低温検出器を使わず,検出シグナルが熱揺らぎの影響を受けにくいため,FT-IRよりもノイズレベルが極めて低い.そのため測定された吸収スペクトルは飽和しにくく,強い遷移から弱い遷移まで同時に測定することができる.またフェムト秒レーザー励起でTHz光を発生するため,光源の安定性が高く,吸光度の絶対値を精度よく求めることができる.5) 従って,THz-TDSを気体分子の分光に用いると,FT-IRよりも縦軸精度のよい分光測定が可能であり,ガスの定量的な測定やセンシングに有効であると期待される.

水蒸気スペクトルの圧力広がり係数測定

  本研究ではそのような測定の一例として,縦軸精度の要求される測定である水蒸気スペクトルの圧力広がり係数の測定を行い,従来のFT-IRによる結果と比較した.一般的に気体分子の吸収スペクトルの線幅は
線幅=自然幅+ドップラー幅+圧力幅
で表されるが,大気圧下では圧力幅が線幅の大部分を占める.圧力幅は気体分子同士の衝突による緩和を反映した幅で気体の圧力に比例し,その時の比例係数を圧力広がり係数と呼ぶ.この係数は気体分子間の衝突頻度を現しているが,そこには分子間の相互作用ポテンシャルとダイナミクスが複雑に反映されているため,理論計算によって求めることが非常に難しく,実験による測定値が必要である.実際THz領域における水蒸気のデータベースを見ると,圧力広がりに関しては1980年代にFT-IRで測定された値6)を元に計算された推測値しか無く信頼性が薄い.そこで本研究ではTHz-TDSを用いて水蒸気と窒素・酸素の混合気体の吸収スペクトルを測定し,その線幅の変化から圧力広がり係数を求めた.THzスペクトルの測定には市販されているTHz-TDS((株)先端赤外 pulse IRS-2300)を用いた.希薄な気体のスペクトルを感度よく測定するためには長い光路長を持つセルが必要である.そのため我々はWhite型多重反射セルを製作し約2mの光路長を確保した.
  測定されたTHz吸収スペクトルには0.3~3.8 THzの範囲で約100本の水蒸気の回転線が確認できた.回転線は,飽和が無く他の線とも充分分離できていることを確認した上でLorentz関数によって最小二乗フィッティングされ,線幅が求められた.求められた線幅を圧力に対してプロットし,直線によって最小二乗フィットした時の傾きから,窒素,酸素に対する水蒸気の圧力広がり係数が求められる.本研究では窒素.酸素それぞれ36本の回転線について圧力広がり係数が得られた.図4では求められたパラメーターをFT-IRによる同様の測定結果6),HITRANで採用されている理論計算値7)と共に示している.図4でわかるように,圧力広がり係数は水分子の衝突相手が窒素の場合と酸素の場合で大きく異なる.これは,水分子と窒素分子,酸素分子の間に働く相互作用(双極子-四重極子相互作用)の大きさが違うために,両者の衝突頻度が異なっていることを反映している.
今回の測定範囲ではTHz-TDSはFT-IRの3倍以上の本数の遷移について解析を行うことができた.これはTHz-TDSがFT-IRに比べてダイナミックレンジが広いために,強い吸収から弱い吸収まで一度に多くのラインを測定できた事によるものである.また求められたパラメーターのσはFT-IRのそれと比べて1桁小さく,THz-TDSの縦軸精度の良さを現している.
このような精度の良いパラメーター測定によって,これまで実験的に確認できなかったパラメーターの量子数依存性が明らかになった.図5は横軸が水分子の回転量子数の関数で表されているが,これはだいたい水分子の回転エネルギーに対応している.FT-IRの実験結果では確認できないが,THz-TDSおよび理論計算では量子数が大きくなるにつれて圧力広がり係数が小さくなる傾向が確認できる.これは高い回転始状態で水分子の分極が平均化されるために実効的な分子間相互作用が弱くなり,衝突断面積が小さくなることを意味している.THz-TDSの測定によってこれまで実験的には確認できなかった量子数依存性が定量的に求められた.この結果をうけて更により良い精度理論モデルが開発されていくと期待される.
本研究ではTHz-TDSの感度の良さとダイナミックレンジの広さを活かして,FT-IRを用いた研究に比べてより多くの吸収線について解析を行い,圧力広がり係数を従来よりも一桁精度良く求めた.その結果,従来測定されていなかった圧力広がり係数の量子数依存性を確認することができた.求められた係数は,地球の温暖化などをシミュレーションするうえで非常に重要なパラメーターであり,大きな波及効果が期待される.また,THz-TDSの縦軸精度がFT-IRに比べて一桁良いことが判明し,今後ガス分光の一つのツールとしての活用が期待される.
 窒素(左)および酸素(右)に対する水蒸気の回転遷移の圧力広がり係数.
a)THz-TDS,b)FT-IR6),c)理論計算7)によって求められたもの.横軸は水蒸気の回転量指数の関数.

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4. テラヘルツパルスによる凍結生体組織のイメージング

凍結生体組織のテラヘルツイメージング

  THz波は波長(約300μm)程度の空間分解能と,紙やプラスチックなどに対する透過性を併せ持つため,X線に次ぐ新たな透視イメージングの手法として活用できる.特に医療分野では,THz波の光学特性(透過率,反射率,屈折率)の違いを利用して癌などの生体組織のイメージングが試みられている.しかし生体組織の透過イメージングを行う際には組織に含まれる水分を取り除く必要がある.液体の水はTHz波を強く吸収するため(~300-1000 dB/cm),数十ミクロン程度の薄いサンプルを用いるか,サンプルを脱水する必要があった.本研究では,応用を視野に入れたより簡便な生体イメージングの手法として,凍結生体組織の分光イメージ測定を試みた.THz領域で氷は水よりも透過率が良いため,数ミリ以上の厚みのサンプルでも透過分光測定が可能である.本研究ではテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)により,凍結した生体試料の透過画像を測定した.
  THzスペクトルの測定には市販のTHz-TDS(先端赤外pulse IRS-2300)を用いた.THz集光光学系の焦点にXZ自動ステージ上に固定された銅製セルを設置し,100ピクセル×100ピクセル(20mm×20mm)の分光イメージを7時間かけて取得した.セルは冷媒によって-33℃まで冷却された.本研究ではサンプルとして市販の薄切り豚ロース肉を用いた.サンプル内の赤身(筋肉組織)と脂肪組織は肉眼で確認できる.サンプルは厚さ2ミリの石英窓で挟まれセルに固定された.固定の際にサンプルは締め付けられ,均一の厚みになっている.なお,全てのTHz光学系は窒素ガスで置換されており,水蒸気によるTHzパルスの吸収やセルへの結露の影響は無視できる.
  下図は時間波形をフーリエ変換後,1THzにおけるTHz透過強度でプロットしたイメージと時間波形のメインピークの位置をパラメーターとしてプロットした2次元イメージである.吸光度イメージでは組織境界におけるTHz波の干渉の効果によって,境界が強調されている.一方,ピークシフト量は組織の屈折率を反映しているが,二つの組織の境界において中間値を取るため,イメージ上では連続的に変化し組織の空間分布をよく反映していることがわかる.このように,組織を凍結する事で水分含有量の高い生体組織のテラヘルツイメージングが可能である事がわかった.
 
生体試料(豚肉)およびその凍結時のテラヘルツ吸光度,屈折率イメージ  

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