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空間分散光励起によるテラヘルツ波発生と周波数同調 (主担当:牧 謙一郎)
光波と電波の中間に位置するテラヘルツ電磁波帯域では、分子間振動や気体の緩和など様々な低振動数励起のモードが存在することから、テラヘルツ波の分光計測による物体の成分分析、種類の同定、物性計測など様々な用途が考えられています。これに加え、物体に対する高い透過性も合わせることで、隠された危険物の非破壊探知などセキュリティ分野への応用も期待されています。このためには、分光計測に適した周波数可変のテラヘルツ波発生装置が必要です。
そこで本研究では、周波数を自在に同調可能なテラヘルツ波発生技術の確立を目的としています。私達は、フェムト秒光パルスの空間分散という手法を用いることで、新しい発生手法を考案しました。
フェムト秒光パルスを空間的に分散させ、2つの分散光を重ねて非線形素子を励起することによって、差周波混合で狭帯域のテラヘルツ波を発生させます。このとき、2つのビームの相対位置を調整するだけでテラヘルツ波の周波数がシフトするため、安定、かつ高速の同調が可能です。この方法では広い領域からテラヘルツ波が発生することから、もう一つの研究項目であるテラヘルツ波ビーム走査に適用でき、走査と独立して周波数同調が可能なため、高速分光イメージングに応用できます。
図1.空間分散光を用いたテラヘルツ波発生の原理。(a)
回折格子等を用いて、フェムト秒光パルスを分散させ、位置によって周波数がほぼ線形的に分布するビームを形成する。(b)
分散光を2つに分けた後、片方をわずかにシフトさせた状態で再び結合すると、位置によらず、差周波成分が同一となる。(c)(d)
2光の相対位置を変えるだけで、差周波成分も増減する。
図2.形成した空間分散光をストリップライン型光伝導アンテナに照射し、テラヘルツ波を発生。このとき、横方向のビーム間距離を変えるだけでテラヘルツ波
の周波数が同調される。
図3.空間分散の重複光を形成するための光学系
図4.空間分散光の波長分布の測定結果。位置によってほぼ線形的な分布を持つ2つのビームが2本の線として現れている。さらに2光間の差周波成分が位置に
寄らずほぼ一定となっている。
図5.テラヘルツ波時間波形(0.6 THzの場合)
図6.片方の空間分散光のシフト量に対するテラヘルツ波の周波数スペクトル分布。片方のビームをシフトするだけで、周波数が同調されていることがわかる。
図7.ビームのシフト量とテラヘルツ波のピーク周波数との関係。0.3〜1.7 THzの同調が確認された。
参考文献
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K. Maki, and C. Otani,
"Terahertz beam steering and frequency tuning by using the spatial dispersion of ultrafast laser pulses,"
Opt. Express 16, 10158 (2008).
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K. Maki, T. Shibuya, C. Otani, and K. Kawase,
“Terahertz beam steering and frequency tuning by using difference frequency mixing,”
Proceedings of 33rd International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves (IRMMW-THz 2008), p.1511 (2008)
特許出願
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牧 謙一郎、大谷 知行、“テラヘルツ波発生方法と装置”,特願2008-115149
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牧 謙一郎、大谷 知行、“テラヘルツ波発生方法と装置”、PCT/JP2009/57913