2010年度セミナー

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  2011/3/2  石塚 明  
  遺伝子間領域転写による近傍遺伝子発現抑制のメカニズム:
転写干渉によるヌクレオソームの会合
 
  真核生物において、非コード DNA の転写とその転写産物である ncRNA は、遺伝子発現をはじめとした生命現象において重要な働きを示す。 例えば ncRNAであるXist (X 染色体不活化) や HOTAIR (クロマチン修飾) 等は、転写産物である ncRNA が機能性 RNA として働く。 一方、遺伝子間領域の ncRNA は、時として転写そのものが引き金となって遺伝子発現を制御 (主に抑制) する。転写によって遺伝子発現が抑制される現象は、 transcriptional interference(転写干渉) と呼ばれており、Drosophila HOX 遺伝子群をはじめとしていくつかの例が報告されている。その中で出芽酵母の SRG1 ncRNA は、 発現することによって近傍の遺伝子 SER3 の発現を抑制することが報告されている。SRG1は、SER3 のプロモーター領域を経て開始コドン周辺で転写終結する 500 塩基前後の ncRNA である。 その制御が cis であり trans に作用しないことから、ncRNA ではなく転写そのものが SER3 の発現抑制に重要であることが示唆されている。今回 Martens らは、SRG1 の転写によって、 SER3 のプロモーター領域へのヌクレオソーム会合が引き起こされ、SER3 の発現が抑制されることを見いだした。これにより、ncDNA の転写がヌクレオソーム配置に寄与し、 時として遺伝子発現を負に制御することを明らかにした。

参考文献
Intergenic transcription is required to repress the Saccharomyces cerevisiae SER3 gene.
Martens JA, Laprade L, Winston F.
Nature 429, 571-574 (2004)

Intergenic transcription causes repression by directing nucleosome assembly.
Hainer SJ, Pruneski JA, Mitchell RD, Monteverde RM, Martens JA.
Genes Dev 25, 29-40 (2011).

Transcription regulation by the noncoding RNA SRG1 requires Spt2-dependent chromatin deposition in the wake of RNA polymerase II.
Thebault P, Boutin G, Bhat W, Rufiange A, Martens J, Nourani A.
Mol Cell Biol 31, 1288-1300 (2011)

 
 
  2011/2/2  長谷川 優子  
  異常が有益になるとき  
  がん細胞の多くはAneuploidy(異数体)である。では過剰量の染色体は細胞増殖の向上をもたらすのだろうか? 今回は出芽酵母の異数体を用いて増殖への影響や、異数体の性質を調べた二報の論文を紹介する。 どちらの論文も異数性はむしろ増殖の悪化をもたらすという同様の観察結果を導き出しているものの、 通常は細胞にとって不利益であるこの性質が、一転して増殖の向上をもたらすようになる状況についての考察は かなり異なるものになっている。

参考文献
Effects of aneuploidy on cellular physiology and cell division in haploid yeast.
Torres EM, Sokolsky T, Tucker CM, Chan LY, Boselli M, Dunham MJ, Amon A.
Science. 317: 916-24 (2007).

Aneuploidy confers quantitative proteome changes and phenotypic variation in budding yeast.
Pavelka N, Rancati G, Zhu J, Bradford WD, Saraf A, Florens L, Sanderson BW, Hattem GL, Li R.
Nature. 468: 321-5. (2010)

When abnormality is beneficial.
Judith Berman
Nature 468: 183-184 (2010).

 
 
  2010/11/10  石塚 明  
  ショウジョウバエ初期胚での piRNA 経路による
母系 mRNA の脱アデニル化
 
  初期発生は、母系の RNA と蛋白質によって制御される。母系 mRNA は、卵母細胞では安定であるものの、卵の活性化によって一群の母系 mRNA は不安定化される。 初期では、Smaug (Smg) を介して CCR4-NOT 脱アデニル化複合体が呼び込まれ、母系 mRNA の不安定化と分解が引き起こされる。さらに発生が進むと、 zytgotic に発現する miRNA によって母系 mRNA の脱アデニル化が起こる。では、母系 small RNA である piRNA は、初期の Smaug による母系 mRNA 不安定化に関わっているのだろうか? 今回、ショウジョウバエにおいて、母系 mRNA の脱アデニル化と分解における piRNA 経路の関与について調べたところ、piRNA 関連因子の変異体では、母系 mRNA nanos (nos) の脱アデニル化が抑制されることを見いだした。 さらに mRNA の安定化と蛋白質の脱発現抑制が引き起こされること、nos mRNA に piRNA の標的配列があることを明らかにした。

参考文献
SMAUG is a major regulator of maternal mRNA destabilization in Drosophila and its translation is activated by the PAN GU kinase.
Tadros W., Goldman A. L., Babak T., Menzies F., Vardy L., Orr-Weaver T., Hughes T. R., Westwood J. T., Smibert C. A., Lipshitz H. D.
Dev. Cell 12, 143-155 (2007).

Maternal mRNA deadenylation and decay by the piRMA pathway in the early Drosophila embryo.
Rouget C., Papin C., Boureux A., Meunier A.-C., Franco B., Robine N., Lai E. C., Pelisson A., Simonelig M.
Nature 467, 1128-1132 (2010)

Setting the stage for development: mRNA translation and stability during oocyte maturation and egg activation in Drosophila.
Tadoros W., Lipshitz H. D.
Dev. Dyn. 232 593-608 (2005).

 
 
  2010/10/27  石田賢太郎  
  生体内でのストレス応答は細胞非自律的に制御される  
  ストレスを受けた細胞ではヒートショックタンパク質とよばれるシャペロンタンパク質のはたらきにより、ストレスによるタンパク質の変性や凝集が起きないようにしている。 これらのヒートショックタンパク質の発現はストレスに応じて転写因子群により制御されている。このストレスに対する防御反応はストレス応答と呼ばれ細胞自律的な機構であると考えられているが、 生体内ではどうなのだろうか。今回、単純な神経系を持つ線虫を用いて生体内での熱ストレス応答を解析したところ、熱ストレス応答は温度受容ニューロン依存的に起こることが示され、 生体でのストレス応答は細胞非自律的であることがわかった。温度受容ニューロンは感覚器官にしか存在しないので、体全体で起こるストレス応答を制御するメカニズムがあるはずだが、 今回の報告では明らかになっていない。一方、ストレス応答因子が神経変性疾患に関与することを示すデータも出てきており、ストレス応答の生体内での制御機構は非常に興味深い。

参考文献
Integrating the stress response: lessons for neurodegenerative diseases from C. elegans.
Prahlad V, Morimoto RI.
Trends Cell Biol. 19(2) 52-61(2009).

Regulation of the cellular heat shock response in Caenorhabditis elegans by thermosensory neurons.
Prahlad V, Cornelius T, Morimoto RI.
Science. 2008 May9;320(5877):811-4.

Regulation of aging and age-related disease byDAF-16 and heat-shock factor.
Hsu AL, Murphy CT, Kenyon C.
Science. 2003 May 16;300(5622):1142-5.

Mutations in the GIGYF2 (TNRC15) gene at the PARK11 locus in familialParkinson disease.
Lautier C, Goldwurm S, Durr A, Giovannone B, Tsiaras WG, Pezzoli G, Brice A, Smith RJ.
Am J Hum Genet. 2008 Apr;82(4):822-33.

GIGYF2 gene disruption in mice results in neurodegenerationand altered insulin-like growth factor signaling.
Giovannone B, Tsiaras WG, de la Monte S, Klysik J, Lautier C, Karashchuk G, Goldwurm S, Smith RJ.
Hum Mol Genet. 2009 Dec1;18(23):4629-39.

 
 
  2010/09/13  長谷川 優子  
  へテロクロマチン化とRNAi経路のつながりの証明  
  分裂酵母ではRITS(RNA induced transcriptional silencing) complexがsiRNAを介してヘテロクロマチン形成を起こすべき場所へとリクルートされる。 ならば、RITSを強制的にRNAにtetheringさせたら、それをコードしている遺伝子座がヘテロクロマチン化するのだろうか?という視点から ヘテロクロマチン化とRNAi経路の関連を証明した2006年の論文を(今更ながら)紹介する。

参考文献
Tethering RITS to a nascent transcript initiates RNAi-and heterochromatin-dependent gene silencing
Marc Buhler, Andre Verdel and Danesh Moazed
Cell Volume 125, Issue 5, Pages 873-886 (2006)

 
 
  2010/06/30 石田 賢太郎  
  偽遺伝子PTENP1とガンの話  
  ヒトゲノムには偽遺伝子が一万近く存在し、その2−3%が発現している。特定の組織やガン細胞特異的な発現をするものが知られているがその働きはほとんどわかっていない。 今回ガン抑制遺伝子であるPTENの偽遺伝子であるPTENP1がPTENを標的とするmiRNAを補足することでPTENの発現抑制を解除する働きがあることを見出している。 そしてそのことにより細胞増殖が抑制される。さらに患者さんからのガン細胞のPTENP1のコピー数を調べたところその数が減少していた。 筆者らはPTENP1に限らず、偽遺伝子の捕捉によるmiRNA量を調整する仕組みは一般的なものなのではないかと提案している。
  

参考文献
Millions of years of evolution preserved: a comprehensive catalog of the processed pseudogenes in the human genome.
Zhang Z, Harrison PM, Liu Y, Gerstein M.
Genome Res. 2003 Dec;13(12):2541-58.

An expressed pseudogene regulates the messenger-RNA stability of its homologous coding gene.
Hirotsune S, Yoshida N, Chen A, Garrett L, Sugiyama F, Takahashi S, Yagami K, Wynshaw-Boris A, Yoshiki A.
Nature. 2003 May 1;423(6935):91-6.

The putatively functional Mkrn1-p1 pseudogene is neither expressed nor imprinted, nor does it regulate its source gene in trans.
Gray TA, Wilson A, Fortin PJ, Nicholls RD.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Aug 8;103(32):12039-44. Epub 2006 Aug 1.

A coding-independent function of gene and pseudogene mRNAs regulates tumour biology.
Poliseno L, Salmena L, Zhang J, Carver B, Haveman WJ, Pandolfi PP.
Nature. 2010 Jun 24;465(7301):1033-8.
 
 
  2010/06/15 中川 真一  
  HOTAIRとガン転移の話ーRinn&Changの世界  
  いわゆる高等脊椎動物で大量に同定されたmRNA型のノンコーディングRNAは、最近ではLarge intergenic (or intervening) long noncoding RNA (lincRNAs)と呼ばれることが多い。 これらが単なる転写のノイズなのか、積極的に生理的な役割を果たしているのかは未だに論争が続いているが、具体的に機能が明らかにされた遺伝子の例は着実に増えている。 今回は、HOX遺伝子クラスターから発現し、「トランス」に働くノンコーディングRNA、HOTAIR (Hox Antisense Intergenic RNA)の新生理機能を紹介する。  HOTAIRはHoxCクラスター遺伝子領域でクロマチン修飾が大きく変化する領域で発現している全長約2 kbのノンコーディングRNAである。HOTAIRの転写産物はPRC2と結合し、 HoxDクラスター(HoxCクラスターではない!)のH3K27me3の状態を維持するために必要であることが示されていた。  今回、彼らは様々なガン細胞でHOTAIRの発現を調べ、特に転移性のガン細胞でHOTAIRの発現が100-2000倍にも上昇することを見出した。 さらにHOTAIRの強制発現やノックダウン実験により、この遺伝子が発生過程のおける細胞の「若い」状態を作り出していることを示している。 今後、具体的にどのような作用マシナリーを形成することによってクロマチン修飾を制御しているのか、その解明が待たれるわけであるが、 この論文はクロマチン修飾に関わるRNAが高等真核生物においてはlincRNAである可能性も示している点に注目したい。
  

参考文献
Functional demarcation of active and silent chromatin domains in human HOX loci by noncoding RNAs.
Rinn JL, Kertesz M, Wang JK, Squazzo SL, Xu X, Brugmann SA, Goodnough LH, Helms JA, Farnham PJ, Segal E, Chang HY.
Cell 129, 1311-23. (2007)

Long non-coding RNA HOTAIR reprograms chromatin state to promote cancer metastasis.
Gupta RA, Shah N, Wang KC, Kim J, Horlings HM, Wong DJ, Tsai MC, Hung T, Argani P, Rinn JL, Wang Y, Brzoska P, Kong B, Li R, West RB, van de Vijver MJ, Sukumar S, Chang HY.
Nature 464, 1071-6. (2010)

Many human large intergenic noncoding RNAs associate with chromatin-modifying complexes and affect gene expression.
Khalil AM, Guttman M, Huarte M, Garber M, Raj A, Rivea Morales D, Thomas K, Presser A, Bernstein BE, van Oudenaarden A, Regev A, Lander ES, Rinn JL.
Proc Natl Acad Sci U S A 106, 11667-72. (2009)
 
 
  2010/05/19 長谷川 優子  
  細胞外刺激応答のために、翻訳装置の局在も制御されうる?  
  細胞外シグナルはタンパク質の翻訳を制御しうる。翻訳段階でタンパク質合成を制御する機構の有用な点は、細胞内領域特異的な制御が出来る点である。 細胞表面の受容体がシグナル経路を介して翻訳を制御し得ることに関しては報告があるが、翻訳の空間的制御と細胞外シグナルとを結びつけるメカニズムはあまり分かっていない。 二報目の論文の著者らは、まず、膜貫通型受容体が翻訳装置と細胞内にて相互作用しているのではないかという仮説を立てた。 更にNetrin-1が軸索においてタンパク合成を促進するという一報目の論文の内容を受けて、Netrin-1受容体であるDCCに着目して、仮説の証明に取り組んでいる。
  

参考文献
Chemotropic Responses of Retinal Growth Cones Mediated by Rapid Local Protein Synthesis and Degradation
Douglas S. Campbell and Christine E. Holt
Neuron, Vol. 32, 1013ミ1026, December 20 (2010)

Transmembrane Receptor DCC Associates with Protein Synthesis Machinery and Regulates Translation
Joseph Tcherkezian, Perry A. Brittis, Franziska Thomas, Philippe P. Roux, and John G. Flanagan
Cell 141, 632-644, May 14 (2010)