外部連携

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産業連携の挑戦者たち

第2回 次世代ナノパターニング研究チーム

次世代ナノパターニング研究チームは、その研究成果を「ナノ加工精度を向上させるナノコーティング材料の開発」として平成17年12月にプレスリリースしました。プロジェクトをスタートさせてから僅か一年弱での成功にも驚きですが、この成果は半導体業界から多くの注目を集めました。

「産業のコメ」とも言われる半導体。現代社会における私達の生活は半導体で支えられているといっても過言ではありません。半導体業界の技術開発の目標には、半導体をより小さくする=「微細化」があります。今回の成果によって半導体をより微細化にする可能性が見出されました。これは半導体業界の技術開発指針とされている「半導体ロードマップ(※ 技術分野の有識者によって将来の技術のトレンド予測が行われ、発展的な将来像を示したマップ)」において、2016年に目標とされている微細化の達成に寄与する技術と期待されています。

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次世代ナノパターニング研究チーム

チームリーダー

小野寺 純一 さん(東京応化工業株式会社)[写真左]

副チームリーダー

藤川 茂紀 さん(理研)[写真右]

客員研究員

羽田 英夫 さん(東京応化工業株式会社)

スピーディな成果 わずか1年でプレスリリース

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小野寺 純一 さん

藤川:今回のプレスリリースで達成した課題はチーム発足当時の目標の一つでした。僕たち理研側は、ものを薄く塗る「コーティング技術」を持っていました。様々な分野で応用できることを予想して、どのように応用したらこの技術の魅力が最大限に発揮できるのか模索していました。そこに半導体メーカーユーザーのニーズを熟知した東京応化さんが、それに基づいた研究を提案されました。きっと理研の研究者だけではそのようなアイデアは浮かばなかったでしょうし、このような成果にはつながらなかったと思います。

小野寺:私が所属している部は会社の中でもユーザーに近い位置にいて常にニーズをリサーチしています。最大のニーズは「半導体の微細化」です。しかし、開発を行なうと簡単に言いましても正直非常に難しいものです。社内だけの技術だけでは限界がありますし、社外の良いリソースが見つかったとしても本当に上手くいくかわかりません。特に社外との共同研究には、「ひと」との良い出会いが重要です。私達はリソース「ひと」の両方の面からみて藤川さんと出会えてよかったと感じています。

藤川:実は、そもそもの東京応化さんとの共同研究のきっかけは、5年ほど前に東京行きの飛行機のなかで大学時代の後輩に再会したことに遡ります。その後輩が東京応化さんに勤めていました。彼との雑談しているうちに話が発展して融合的連携研究プログラムに応募するきっかけになったのです。もし、彼とあの時あの飛行機の中で偶然に再会しなかったら、東京応化さんとの出会いはなかったでしょうね。

よい現場を作ること

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羽田 英夫 さん

藤川:研究現場では、東京応化さんの開発メンバー羽田さんと二人三脚で進めてきました。羽田さんがもつ開発にかける意気込み、「一緒に成功させよう」という積極的な気持ちに僕も自然と共感できました。東京応化さんは、僕が思い描いていた「企業」とは雰囲気が違いましたね。今までお付き合いした企業さんは、何か問い合わせや提案したとしても会社内の調整に時間がかかるようで、なかなか返事が返ってきませんでした。そうするとこちらの熱意もいつの間にか冷めてしまうケースが多かったように思います。ところが、東京応化さんは、YesでもNoでも何らかの返事がすぐに返ってきました。とても「ノリ」の良さを感じました。そういったコミュニケーションのテンポも研究をスピーディに進めることができた理由だと思います。

羽田:レスポンスの早さはこの融合的連携プログラムが社内から独立して権限が現場におりていたから、機動力向上につながったのでしょう。僕こそ最初は理研さんと一緒に共同研究すること自体にしり込みしていましたよ。企業からみると理研さんは敷居が高く「固い」イメージがあります。でも藤川さんは、気さくでざっくばらんで、どんなにつまらない質問や厄介な問題でも必ず返答してくれました。僕のなかの理研さんに対するイメージが随分と変わりましたね。

藤川:企業も研究所も同じ研究する人間は同志だと思っています。ただ、お互いの文化や視点、知識の種類が違うだけです。僕も東京応化さんのような「やる気」のある企業さんと一緒に研究ができて色々と勉強になりましたよ。

羽田:様々な産学連携の制度がありますが、結局どんな運用をしたとしても現場をつくっていく人間関係が一番重要だと思います。違う分野で育ってきた人同士でもフィーリングが合えば仕事はスムーズに運びます。特に次世代ナノパターニング研究チームは同年代の人たちが多くて気持ちも合うし、現場がいきいきとしていると感じます。

お互いがそれぞれに背負う使命…ゴールの違い

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藤川 茂紀 さん

藤川:順調に研究を進めてきてお互い同じように歩んできたつもりでしたが、決定的な相違点を実感したのはプレス発表の対応でした。僕たち理研側としては、一区切りがついたということでプレス発表に積極的でした。しかし、東京応化さんはゴールとは思ってなかった。今回の成果の捉え方に東京応化さんとの温度差があることがわかりました。

小野寺:そうですね。企業側からすると今回の成果は最終地点ではありませんでした。我々の製品がユーザーに採用され使用されてこそゴールなのです。同じ目標を持っていたとしても到達点がお互いに違うことを実感しました。ここが風土・文化の違いではないでしょうか。この到達点の違いはお互いが背負う使命によるものだと思います。企業は開発した成果から利益を生み出す使命があります。しかし理研さんは成果を世に早く公知することが使命ですからね。そこが一番の相容れない部分なのではないでしょうか。

藤川:企業さんはその使命のために、常にシリアスに物事を捉え、そして各々のフェーズで何をすべきか、強いタスクとコストの意識があります。この部分は、研究者はあまり持ち合わせていない感覚です。

小野寺:本当に性能の良い製品ができただけでは、企業にとって一銭の売り上げになりません。販売し利益を得ないと意味がないのです。非常に優れた100%の製品だったとしても市場に受け入れてもらえるとは限りません。タイミングやそのときのニーズに合わせることが非常に重要です。例えば、自分たちとして70%の完成度の製品だったとしても、ユーザーのニーズにマッチし提供する時期が適切であれば、そのユーザーには受け入れてもらえます。ここは完璧・真実を追い求める研究者の感覚とは異なるのではないでしょうか。

でもこのような別々の文化を持ったコンビだからこそ、同じ目標に向かってピュアな協力関係が築けたのだと思います。お互いに目標は共有していますが、それに向かうための道筋は異なると思います。もし同じ道を歩んだなら競争になってしまって、お互いのパワーが殺がれてしまいます。異文化同士だからこそ異なる視点でターゲットを捉え、協力し合いながらそれぞれの戦略に基づいて目標が達成されます。そこが企業と研究機関との協力関係のメリットだと思います。開発するには最高の組み合わせじゃないでしょうか。

次のゴールは

藤川:今回の連携をきっかけに半導体のテクノロジーの素晴しさを体感しました。最近はその最新技術と化学分野のノウハウを融合させて、新素材開発の可能性を探り始めたところです。まだまだ未開拓ですが新素材発見に繋がればいいですし、同時に僕のような化学分野の研究者の新しい活躍の場を展開できればいいですね。

小野寺:改めて融合的連携研究プログラムに参加してよかったと感じています。予想以上に早い成果が得られただけでなく、理研さんと触れ合えて得るものが大きく、理研さんの「固い」イメージも変わりました。今後も半導体の限界を打ち破るような画期的な開発を手掛けるべく、常にリサーチャーのマインドは持ち続けていたいものです。

(2007年1月掲載)

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