外部連携

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産業連携の挑戦者たち

第5回 新世代加工システム株式会社

2009年に創立10周年を迎える新世代加工システム株式会社にスポットを当てました。10年の軌跡と、ベンチャー成功の秘訣を語っていただきました。

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新世代加工システム株式会社

取締役 大森 整 さん

(理研 大森素形材工学研究室)[写真左]

管理部長 大井 豊 さん

[写真右]

ピカピカの鏡面に魅せられて

――新世代加工システム株式会社は1998年6月、7例目の理研ベンチャーとして創立されました。なぜ理研ベンチャーを立ち上げようと考えたのですか。

大森:新世代加工システムは、私が発明したELID(ELectrolytic In-process Dressing:電解インプロセスドレッシング)鏡面研削法をコアテクノロジーとしています。ELIDは、材料の表面を磨く技術です。ELIDで研削したサンプルを見せると、皆さん「きれいだ」と言って、とても喜んでくれます。ピカピカの表面は、万人の心を引きつける魅力があるようです。もちろん、私も鏡面の美しさに魅せられた一人。皆さんの笑顔を見ていたら、この技術を世界に普及させたい、というモチベーションがわいてきました。

――ELIDを使うと、なぜピカピカの表面になるのですか。

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大森 整 さん

大森:研削とは、砥石を使って材料の表面を削ることです。固い材料を研削するとき、金属のボンド材にダイヤモンドの細かい粒を埋め込んだ砥石を使います。ところが、すぐに削れなくなってしまう。ダイヤモンドが摩耗してボンド材に埋まってしまうからです。切れ味を維持するには、ボンド材を削ってダイヤモンドを出す、目立てを頻繁にしなければいけません。ところがある日、目立てをしなくてよい方法を、偶然から発明したのです。

私は、砥石に電極を付けて放電しながら材料を研磨していました。放電は、砥石の回転を調整するためによく行われている方法です。夜中にふとのぞくと、材料の表面がピカッと光った。今までに見たことのない、感動的な輝きでした。これが、ELIDが生まれた瞬間です。調べてみると、放電のつもりが電気分解になっていたことが分かりました。ボンド材の金属が電気分解によって少しずつ溶け出し、常に目立てがされている状態になっていたのです。

――ELIDのすごさは?

大森:ELIDを使うと、これまで研削では不可能だったナノメートルレベルの精度で表面を平らにすることができます。半導体、光学レンズ、セラミックスなど、さまざまな材料の研削が可能です。発明から約20年たちますが、ELIDを超える研削技術はなかなか出てきません。

理研ベンチャーのプラスとマイナス

――設立当初から順調だったのでしょうか。

大森:新世代加工システムを立ち上げる7~8年前から「ELID研究会」をつくり、ELIDのユーザーである企業や大学、研究機関の研究者との意見交換を行っていました。ELID研究会を通してニーズを把握し、ある程度勝算があると分かっていましたから、まずまずだったとは思います。

――理研ベンチャー以外での起業は考えなかったのですか。

大森:当時はベンチャーの起業ブームで、有名企業出身の方が次々とベンチャーを立ち上げました。しかし、立ち行かなくなる例もたくさんありました。優れた技術があることはもちろんですが、信頼性がなければ、その会社とは取引できません。その点、「理研ベンチャー」という称号を使えることは、大きな強みです。それを使わない手はないでしょう。

――では、理研ベンチャーであることの難しさは?

大森:どこまでが技術開発で、どこからが事業化になるか、その区切りにいつも悩んでいます。しかし、研究室とベンチャーが近いことには、相応のメリットがあります。研究室への問い合わせからスムーズに実用化へとつながったり、ベンチャーへの問い合わせから新しい共同研究に進展したり、といったことがよくあります。2つのチャンネルをクロスさせることで、思わぬ出会い、発展につながります。

ベンチャーで成功する研究者とは

――経営の専門家である大井さんから見て、ベンチャーで成功するのは、どういう人だと思いますか。

大井:世界に一つしかない技術を開発し、かつ、事業家の意識を持っている人です。大森先生は、まさにそう。どちらか一方では、駄目です。

――大森さんはどう思われますか。

大森:ベンチャーを始めて、研究者がやりたいことと市場のニーズは違うということを、あらためて認識しました。研究では当然、最先端を目指します。しかし、市場では最先端までは必要とせず、便利で、安く、早くできる物が望まれたりします。最先端を切り拓き、かつ最先端の技術を市場のニーズに合わせて改良することができる研究者が、ベンチャーで成功するのではないでしょうか。ものづくりのセンスのある研究者ですね。アメリカでは、研究者が成功するとベンチャーをつくるのが当たり前です。ベンチャーで成功すると、アカデミーにもあらためて認められます。しかし、日本ではいまだに、研究者がベンチャーを起業するのは後ろめたいという雰囲気があります。そうした中で、「Japan Venture Award 2004」(起業家部門 奨励賞)と「渋沢栄一ベンチャードリーム賞」(2007年度 特別賞)の受賞は、とても自信になりました。

ELIDの未来

――新世代加工システムの今後の課題は?

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大井 豊 さん

大井:私たちはこれまで、大森素形材工学研究室と市場とのバトンゾーン・カンパニーとして、ELID技術のハード・ソフトを市場ニーズに合わせて供給してきました。今後も、それを積極的に伸ばしていく予定です。今年は世界的経済金融不況の影響で、市場が急速に冷え込んできています。当社もその余波を受けて減収減益を余儀なくされていますが、創立11年目となる6月からの期では何とか伸展させるべく、計画を再構築しているところです。

大森:新世代加工システムの主力製品は、やはりELID研削システムです。ほとんどの問い合わせがELID研削システムについてなのですが、話を聞いていると、現場ではいろいろな悩みを抱えていることが分かります。例えば、最近の加工ツールは小さいので肉眼で取り付けるのが難しい、と言うのです。そこで、ビデオマイクロスコープを卓上型の加工機に付けたら、評判が良く、即採用していただきました。新しい独自の技術を開発し、それを実用化していくことも必要ですが、その一方で、もっと現場を知ることでビジネスのヒントが見つかるのかもしれません。

取引先が1つの分野に偏ることがないように広くしておくことも、ベンチャーが経済危機を乗り越えるためには大切なことだと思います。ELIDの用途は、半導体、光学レンズ、セラミックスだけでなく、最近では自動車や医療にまで広がっています。例えば、エンジンのシリンダーピストンの表面をELIDで研削し、摩擦を抑えることで燃費を良くし、二酸化炭素の排出量を削減できるのです。

――今後の展望をお聞かせください。

大森:最も力を入れているのが、ELIDをベースにした微細加工です。ELIDでとても細い針状のマイクロツールをつくり、それを使って穴を開けたり、溝をつくったり、微細加工を行うのです。細い針をつくろうとすると普通は折れてしまいますが、ELIDは表面をナノメートルレベルで研削できるため強度が高くなり、直径1マイクロメートルのマイクロツールをつくることもできます。「マイクロ加工研究会」を立ち上げて実用化に向けた検討をしています。もう一つが表面改質。ELIDで加工をすると、材料の表面の性質を変えることができます。研究室の前に置いてあるELIDの加工サンプルを見た人が、「きれいに磨くと普通はさびやすくなるものだが、どうして、これはさびないのだろう」と言うのです。調べて見ると、ELIDで加工したことによって酸化膜ができて、さびにくくなっていたのです。それを応用すると、血がつかず長く使える手術用メスも実現します。

私はガンダム世代です。子どものころから、自分でデザインして、物をつくることが好きでした。自分が発明した技術をどう実用化するか、どういうサービスをするか、いろいろプランニングをして、商品として出来上がるととても楽しい。そして、それが売れればもっとうれしい。

私はELIDが生まれた瞬間を覚えています。その成功体験は、私の自信になっています。若い人にもぜひ、そういう成功体験を持ってほしい。そして、私自身ももう一度、ELIDを超えるような成功体験をしたいですね。

(取材・構成:鈴木 志乃/フォトンクリエイト)
(2009年5月掲載)

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