外部連携

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産業連携の挑戦者たち

第8回 無細胞技術応用研究チーム

無細胞技術とは、細胞抽出液にアミノ酸、目的タンパク質の遺伝子、エネルギー源となる試薬等を加え試験管内でタンパク質を合成する技術です。大陽日酸株式会社は、これまでに、理化学研究所が開発した高度な無細胞タンパク質合成技術のキット化に成功し、タンパク質発現確認用キット「無細胞くんQuick」、安定同位体標識専用キット「無細胞くんSI」の2種類を開発、販売しています。今回更なる応用技術の開発のため、融合的連携研究チームが結成されました。

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無細胞技術応用研究チーム

チームリーダー

横山 順さん(大陽日酸株式会社)[写真左]

副チームリーダー

木川 隆則さん(理研)[写真右]

バトンゾーンを走る

―― 産業界との融合的連携研究プログラムに応募したきっかけは?

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木川 隆則 さん

木川:大陽日酸株式会社とは、元々、NMR用溶媒などの安定同位体サプライヤーとして長いおつきあいがあり、お互いの技術に興味を持っておりました。2000年頃から、NMR解析のために必要な安定同位体標識技術を作ろうと共同研究を行っていました。無細胞タンパク質合成技術は、当初、タンパク質研究のために開発したものでした。他の分野でも活用可能と考え、大陽日酸と共にJSTの「産学連携シーズイノベーション化事業」に応募しました。この事業で、「無細胞くん」という製品が生まれましたが、広い分野で市場性が高いことが分かり、もっと製品化に特化した研究開発をしようと、このプログラムに着目しました。

横山:「無細胞くん」の発売以降、当初我々が想定していなかった用途や要望をユーザーから伺う機会が増え、それに応えるために必要な高度な技術的課題が見えてきました。そんなおりに木川先生から「産業界との融合的連携研究プログラム」という制度を紹介していただき、応募することにしました。JSTの事業では、製品化のための基礎技術の開発まででしたので、製品の改良のために、まさしくバトンゾーンというステージが必要な企業側にとって、このプログラムは非常に魅力的なものでした。

―― どのような想定外の用途があったのですか?

横山:当初、研究目的の利用しか想定していませんでしたが、体外診断薬の網羅的スクリーニングや製薬会社の薬理試験など産業分野で利用できることが分かりました。またプロテオーム解析の内部標準用の安定同位体標識タンパク質の合成に用いるという想定外の用途もありました。それぞれの用途にあわせた使いやすさが求められ、基本となる技術に用途別の改良を加える必要があることが分かりました。

木川:無細胞タンパク質合成技術のキット化は自分達にとってメリットがあるのは間違いありませんが、むしろ全く異なる他分野からの反響のほうが大きくて、とてもうれしく驚いています。「無細胞くん」は無細胞タンパク質合成系としては後発製品ですが、他社製品に比べて再現性が高く合成も簡単なのでリピーターも多いようです。今後はさらに、開発当初の時点では想定し得なかった分野で使われることも出てくるでしょう。「無細胞くん」で用いられている技術をベースとして、これを用途別に改良したシリーズものとなっていくのかもしれませんね。これは企業だからこそできたのだと思っています。

企業と理研、それぞれの役割

―― 共同研究と比べて、このプログラムにはどんなメリットがありますか?

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横山 順 さん

横山:文字通り、課題解決のため垣根を取り払って融合的に研究開発できる点だと思います。共同研究では、互いが分担した課題を進める場合が多いですが、共同研究先の進捗が延滞すればプロジェクト全体が滞ります。一方融合連携では、お互いの利害が共通で達成目標も明確ですので、成功する確率は高いのではないのではないでしょうか。理研の研究員の研究に対する姿勢や探究心が我々企業の研究者にも良い刺激となっています。

木川:製品化研究はアカデミアではとてもできないことです。例えば長期保存テスト、安全性テストといった製品化に向けた品質の担保や、再現性テストやプロトコルの簡便化など誰にとっても使いやすいキットの開発などの手順の標準化といったことは、理研だけではとてもできません。研究室で蓄積された知見やノウハウは大体が複雑なものであるため、これをシンプルな手順に再構成していくという作業は、相応の時間・労力と独特のノウハウが必要です。また、市場のニーズや反応を拾うマーケティングといったことは、理研は上手ではありません。

横山:一方で、製品を市場に出すことによって見えてきた新たな最先端ニーズに対して、技術的に迅速に対応していくことは企業単独では難しいことです。理研のような研究機関の研究者たちが持っている技術や知識を活用することが、こういったニーズを先取りして製品化するためには重要なことです。

木川:このプログラムでは、同じチーム、同じ研究室内でアカデミアと企業が連携することで、基礎技術の製品化が加速され、普及することが実現します。理研は、基礎技術の向上により集中できます。

―― 大陽日酸株式会社について教えてください。

横山:産業ガスメーカーです。空気分離装置で、空気中から酸素、窒素、アルゴンなどを製造しています。基盤技術である深冷分離技術を安定同位体分離に応用し、世界で初めて酸素蒸留法による酸素同位体18Oを分離する技術を実用化しました。ちなみに、世界で初めてステンレス製魔法びんを開発したのも当社です。「無細胞くん」のような生化学分野から、半導体といったエレクトロニクス分野まで、幅広い分野を顧客としているのも強みです。

木川:今回のプログラムでは、化学系試料の取扱に慣れている大陽日酸と生物系試料の取扱に慣れている理研という組み合わせで、分野的にも融合でき、新たな技術の創出につながっています。

プログラム実施期間3年で・・・

―― 今後の展望を聞かせてください。

横山:分野として大きく2つ考えています。まず無細胞タンパク質合成技術応用分野では、「S-Sタンパク質合成キット」を近日中に発売予定です。これはJSTの事業からずっと進めてきたものを、本プログラムで最終製品に仕上げて市場販売するものです。そのほか、市場のニーズに応じて、多様な製品群を開発し、販売していく予定です。また、研究開発の過程で生まれた新たなシーズも、製品化につなげて行きたいと考えています。標識技術開発としてのイメージング分野への応用では、11Cや18F標識技術をペプチド系のPETプローブ(抗体医薬)に応用する研究も進めていきます。企業的な開発サイクルの考え方に基づいて、プログラムの実施期間は3年としています。3年で結果を出し、プログラムが終わってからも製品化を続け、企業としても成長していきたいと考えています。

(2012年8月掲載)

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