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2018年7月25日

熱膨張の影響を受けにくい検出器などの固定方法

理研No. 07819

発明者

徳島 高(励起秩序研究チーム)

背景

水などの一部の特殊な物質を除くと、物体は温度の上昇によって長さは長くなり、体積は増加します。この現象は熱膨張と呼ばれています。身近な熱膨張の例は、鉄道のレールです。レールには一定間隔で隙間がありますが、この継ぎ目は気温が上がりレールの長さが長くなってしまっても、レールが曲がらないように、長さの変化を吸収するためにつけられたものです。このように、物を固定する場合には、温度による長さの変化も考慮する必要があります。光学機器などの精密な装置では、その検出器や光学素子などの構成要素を精度良く固定する必要がありますが、非常に高精度の装置になると気温の変化によっておきる熱膨張が位置のズレとなるため問題になります。このような場合、熱膨張の小さい材料であるインバーなどの合金が使われています。しかし、これらの材料は、高価な材料であり、あまり多用できるものではありません。また、これらの材料の熱膨張は、通常は室温付近で小さくなるように作られているため、高温や低温における熱膨張率は必ずしも小さくはなく、室温の範囲から外れた温度で動作する装置にこれらの材料を使用しても意味がありません。そこで、熱膨張による影響を受けにくい固定方法を、室温の範囲から外れた温度で動作する装置に使用する目的で開発しました。

概要

光学素子を固定する方法として、キネマティックマウントと呼ばれる構造が良く用いられています。キネマティックマウントは、鋼やルビーなどの硬い材料でできた球体を丸穴-丸穴、丸穴-平面、丸穴-V字溝の組み合わせの3点で挟んだ構造です。この固定の構造は、取り外した後、もう一度取り付け直した時に、もとの位置にきちんと戻るという特徴があります。しかし、温度の変化による位置の変動を見てみると、固定されたもの全体が回転してしまうことがわかります(図1:A参照)。これを解決するために、固定に必要な「向きを定める」、「重さを支える」という2つの機能を分離して、3点の支えと方向を決めるピン1点の4つの構成要素の組み合わせで実現することで、荷重を均等に支えつつ支持されているものが温度変化によって回転しない構造を考案しました(図1:B参照)。

図2は、真空中で使用する軟X線を検出するためのCCD検出器です。新しく考案した固定方法は、CCD検出器が搭載されたプレートとその下部にあるプレート間の固定に使われています。新しく考案した固定方法では、4ヶ所が点または線で接触するようになっているため、2つのプレートの間の断熱性は良く、下部のプレートは全体を支えている支持部につながっており、ほぼ室温のままですが、CCD検出器が載ったプレートは液体窒素による冷却で—100℃以下まで冷却することができます。冷却の制御の問題から温度の揺らぎは±1度程度で、固定部分の材質は一般的に使われているステンレス鋼ですが、開発した新しい固定方法を使うことで、CCDの位置の変動は、最も良好なケースでは5時間の間に±1.2マイクロメートル程度まで抑えることができています。

キネマティックマウントの固定方法の図

図1:固定の構造の概念図(A:従来の固定法、B:新しく考案した固定法)

CCD検出器の図

図2:真空中で使用する軟X線を検出するためのCCD検出器

利点

  • 室温の範囲から大きく外れた温度でも、熱膨張による位置の変化を抑制
  • 高価な低膨張材料を使用せずに熱膨張による変動を抑制
  • 温度が変動しても位置が全く変化しない中心点を設計時に自由に選択

応用

  • 極低温あるいは高温における光学素子、検出器、試料などの固定
  • 温度差を生じる場所での物体の保持および温度変動による位置の変化の抑制

文献情報

  • 1.特許第5585959号

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