広報活動

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2009年1月20日

理化学研究所

皮膚疾患の原因となる病原性真菌マラセチアの受容体を同定

- 真菌誘導性疾患の治療応用へ期待 -

ポイント

  • マラセチアを認識する受容体が、ストレスで発現するレクチン「Mincle」と判明
  • 外界から侵入するさまざまな病原性真菌を網羅探索し、マラセチアの特異認識を発見
  • 皮膚疾患や乳幼児の致死性敗血症の治療への応用に期待

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、ヒトをはじめとする動物の細胞に感染、梗塞(こうそく)、壊死(えし)などのストレスを加えると発現するC型レクチン「Mincle」※1が、病原性真菌マラセチア※2の受容体であることを発見しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫シグナル研究グループの斉藤隆グループディレクター、山崎晶上級研究員らと大阪大学免疫学フロンティア研究センター、千葉大学真菌医学研究センター、産業技術総合研究所糖鎖医工学研究センターとの共同研究による成果です。

研究グループは、ストレスによって強く発現が誘導されるタンパク質Mincleに着目し、Mincleが何らかの形で生体異常の感知に関与していると考え、機能解明を進めてきました。2008年9月には、Mincleが自己組織の損傷を感知し、炎症を誘起する受容体であることを同定しました。

今回、Mincleが、外界から侵入する微生物(非自己)を感知する受容体としても働く可能性を考え、さまざまな病原性真菌を調べた結果、Mincleがマラセチア属の真菌を特異的に認識することを見いだしました。さらに、Mincle遺伝子欠損マウスを作成し、マラセチアに対する応答を調べた結果、マウスにマラセチアを投与して誘起される炎症反応が、Mincle遺伝子欠損マウスでは有意に減少することを見いだしました。

マラセチアは、癜風(でんぷう)、脂漏性皮膚炎などの皮膚疾患の原因菌として知られ、また、アトピー性皮膚炎の増悪因子や、乳幼児の致死性敗血症の原因菌としても報告されてきました。今回の結果から、Mincleが、マラセチアを感知して炎症性サイトカイン※3産生を促す活性化受容体であり、マラセチアに対する生体防御に重要であることが強く示唆できました。

マラセチアを特異的に認識する受容体の発見は世界で初めてで、Mincleの機能解析をさらに進めることで、マラセチアによる皮膚疾患、乳幼児の致死性敗血症、アトピー性皮膚炎などの治療につながることが期待されます。

本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences』1月19日の週にオンライン掲載されます。

背景

私たちは、常に病原体感染、細胞死、梗塞、壊死などの内外のストレスにさらされており、これらに適切に対処することが必要となります。細胞膜に存在するC型レクチンと呼ばれるファミリーに属するタンパク質の1つ「Mincle」は、主にマクロファージ(食細胞)※4に発現し、サイトカインや放射線、病原体構成成分などによる、さまざまな刺激やストレスで発現が誘導されることが知られていましたが、その結合物質や機能は未知のままでした。

研究グループは、これらのストレス応答の遺伝子発現解析からMincleが、何らかの形で生体異常の感知に関与していると考えました。これまでに、Mincleが自己組織の損傷を感知し、炎症を誘起する受容体であることを発見しています(2008年9月8日プレスリリース)。

研究手法と成果

研究グループは、Mincleがそのほかのストレス性因子、具体的には外来から侵入する微生物を感知する受容体としても働く可能性を考え、Mincleが活性化すると緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescence Protein)が発現し、細胞が緑色に蛍光するインジケーターシステムを用いて、Mincleが応答する微生物を探索しました(図1)。その結果、マラセチア属と呼ばれる一群の真菌と共に培養した時にだけ、インジケーター細胞が強く緑色蛍光を発することが分かりました(図2)。このGFPを発現する現象は、MincleとMincleのシグナルを細胞内に伝える重要な働きをする膜結合タンパク質のFcRγ※5が共に発現し、マラセチアが接触している細胞においてのみ観察されたことから、Mincleはマラセチアを直接認識する受容体であることが強く示唆できました(図3)。

研究グループは、さらにMincle遺伝子欠損マウスを作成し、マラセチアを腹腔に投与することによって免疫応答で誘起される腹膜炎反応が、Mincle遺伝子欠損マウスでは有意に抑制されることも明らかにしました。

これらの結果から、Mincleは、マラセチアの感染を感知する生体防御受容体として働いていることが明らかとなりました。

今後の期待

マラセチアは、通常は皮膚常在菌として知られていますが、ある条件下では、癜風、脂漏性皮膚炎などの皮膚疾患の原因菌となることが分かっています。また、アトピー性皮膚炎の増悪因子や、乳幼児の致死性敗血症の原因菌としても報告されてきました。このマラセチアを特異的に認識する受容体の発見は世界で初めてで、Mincleの機能解析をさらに進めることで、マラセチアによる皮膚疾患、乳幼児の致死性敗血症などの治療につながることが期待されます。

発表者

理化学研究所
免疫・アレルギー科学総合研究センター
免疫シグナル研究グループ
グループディレクター 斉藤 隆(さいとう たかし)
Tel : 045-503-7037 / Fax : 045-503-7036

上級研究員 山崎 晶(やまさき しょう)
Tel : 045-503-7039 / Fax : 045-503-7036

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel : 045-503-9117 / Fax : 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. C型レクチン「Mincle」
    レクチンとは、糖結合活性を持つタンパク質の総称。下等生物から高等生物まで、あらゆる生物種において広く保存されているファミリーであり、数多くの分子種を有する。このうちCa2+要求性を持つもの(Ca2+結合ドメインを有するもの)をC型レクチンと呼ぶ。Mincle(Macrophage inducible C-type lectin)は、マクロファージに発現するC型レクチン。
  2. 病原性真菌マラセチア
    健常人の皮膚にも存在する常在性真菌で、通常時は無害だが、何らかのきっかけで癜風(でんぷう)、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎増悪などを引き起こす原因となる。また、フケ症の主要な原因菌としても知られている。ほかの真菌と異なり、生育に脂質を要求するという特徴がある。
  3. 炎症性サイトカイン
    本来、微生物感染などに応答して、マクロファージ、樹状細胞から産生され、好中球などの動員を促して微生物排除を助ける働きを持つ。
  4. マクロファージ(食細胞)
    白血球の1種。主に生体内の異物(細菌、ウイルス、死細胞など)を、貪食することによって除去する重要な役割を担う。
  5. FcRγ
    もともと抗体受容体(Fc受容体)のサブユニット(γ鎖)として同定された膜結合タンパク質。受容体からの活性化シグナルを細胞内に伝える重要な働きを持つ。Fc受容体だけでなく、ほかのいくつかの受容体と会合し、活性化シグナル伝達を担っている。

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インジケーター細胞システム

図1 インジケーター細胞システム

インジケーター細胞システムの反応機構。Mincle-FcRγ複合体の下流で活性化される転写因子NFATに、緑色蛍光タンパク質GFPをつないだ。Mincle-FcRγ複合体から活性化シグナルが細胞内に入ると、GFPが細胞内に発現し、活性化した細胞が緑色に光って可視化される。

Mincleによるマラセチア属の特異的な認識

図2 Mincleによるマラセチア属の特異的な認識

インジケーター細胞と病原性真菌を18時間共培養し、GFPの発現を調べた。右端はMincleを活性化することができる、抗Mincle抗体を培地中に添加した。

Mincleはマラセチアを直接認識する受容体である

図3 Mincleはマラセチアを直接認識する受容体である

MincleとFcRγ双方を発現するインジケーター細胞(上)、FcRγだけを発現するインジケーター細胞(下)とマラセチア(Malassezia pachydermatis)を18時間共培養し、GFPの発現を調べた。MincleとFcRγの両方が存在する時だけ、マラセチアと接している細胞が緑色に光ることが分かる。

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