広報活動

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2009年3月16日

理化学研究所

微生物発酵によって代謝物全体をリアルタイムで解析する手法を開発

- 食品の発酵生産、エネルギー・材料創製、自然環境評価などへの応用に期待 -

ポイント

  • 生きた微生物発酵をNMR(核磁気共鳴)管内で12時間にわたって培養・計測・解析
  • 腸内微生物によるリノレン酸の代謝で、リノレン酸代謝の中間体を発見
  • 食品やエネルギー・材料創製などの発酵プロセス最適化へと応用可能

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、酒や醤油などを作ることに例えられる微生物発酵の反応を、核磁気共鳴法(NMR)※1によりリアルタイムでモニターし、代謝表現型を解析※2する新手法の開発に成功しました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)先端NMRメタボミクスユニットの菊地淳ユニットリーダー、理研免疫アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫系構築研究チーム(大野博司チームリーダー)の福田真嗣基礎科学特別研究員らによる共同研究の成果です。

ヒトや動物の腸管内には多種多様な腸内細菌が共存し、腸内フローラ(腸内微生物叢)※3を形成しています。腸内フローラの改善効果を持つプロバイオティクス※4を活用すると、腸管関連疾患やアレルギーなどの改善・予防効果が高まることが明らかとなっているものの、そのメカニズムは不明なままとなっています。一方、家畜、特に反芻(すう)動物※5では、トウモロコシやダイズに代表される濃厚飼料※6の過剰な供給により第1胃(ルーメン)内に生息するルーメンフローラが変化し、微生物発酵による牧草などの植物バイオマス※7の分解能が低下するため、フローラを整えるプロバイオティクスの開発が望まれています。

そこで研究チームは、植物油※8などに多量に含まれるリノレン酸(LNA)※8を、生理活性物質である共役リノレン酸(CLNA)に代謝する腸内細菌Butyrivibrio fibrisolvensを用い、NMR管中でこれらの微生物を生育させながら、代謝変動をリアルタイムで計測する新手法を開発しました。新手法は、生きた微生物発酵をNMRでモニターしているため、B. fibrisolvensの種々の菌株が有する各脂肪酸代謝酵素の種類によって、生理活性のある共役脂肪酸※8の産出タイミングを経時的に検出することが可能です。

微生物の産出する有用物質を連続して計測・制御することができる技術は、次世代バイオテクノロジー※9をさらに加速すると期待されます。今回開発したメタボローム解析※10を、物質生産を増大させる化学工学※11へと活用することで、農業、食品産業、重化学工業へも貢献できると期待できます。

本研究成果は、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)における研究課題「磁気共鳴法による生体内分子動態の非侵襲計測」の一環として行ったもので、米国の科学雑誌『PLoS ONE』(3月15日付け:日本時間3月16日)に掲載されます。

背景

ヒトや動物の腸管内には多種多様な腸内細菌が共存しており、腸内フローラ(腸内微生物叢)を形成しています。腸内フローラは、ヒトの健康維持に有用であると同時に、有害な面があることも明らかになってきています。いわゆる悪玉菌の増加は、がん・糖尿病・高血圧・心臓病などの生活習慣病、アレルギーや炎症性腸疾患※12などの免疫疾患や各種感染症を誘発するとともに、老化との関連も示唆されています。炎症性腸疾患モデル動物や大腸発がんモデル動物から腸内細菌を除去すると、これらの疾患を発症しなくなるという事実から、単に宿主の遺伝子異常ばかりではなく、宿主-腸内フローラ間の相互作用が病態形成の重要な要因であると考えられます。一方近年では、ビフィズス菌や乳酸菌に代表される善玉菌による疾患の改善や予防効果も明らかになると共に、これら善玉菌そのものであるプロバイオティクスを考慮した投与の有用性が、健康維持、予防医学の面からも着目されてきています。例えば、植物に多く含まれるリノレン酸は、そのままでは生理活性がなく、共役リノレン酸に代謝されることで初めて自己免疫力の向上など健康増進機能を得ます。この反応は腸内フローラによる代謝が必要です。

しかし、現状では、これら腸内フローラが、どのような作用機序で宿主の健康維持や疾患の改善にかかわっているのかについて、科学的根拠はすべて明らかになっているわけではなく、非常に乏しい状態です。

また、家畜、特に反芻動物では、トウモロコシやダイズに代表される濃厚飼料を過剰に供給し、狭い畜舎で生育させて、脂肪分の多い食肉を生産する飼育法が多用されています。しかし反芻動物は、第1胃(ルーメン)内や腸内のフローラが植物バイオマスを分解して産出する代謝物もエネルギー源としているため、濃厚飼料を主食とすると、胃腸内のフローラが大きく変動してしまい、発酵反応が不活化します。こうした家畜は免疫力が低下し、疾病にかかりやすくなるため、フローラを整えるプロバイオティクスの開発が望まれています。

そこで本研究では、リノレン酸が、ヒトの腸内や牛の消化管内に生息する腸内細菌により代謝され、生理活性を持つ共役リノレン酸などの共役脂肪酸に代謝される過程を、NMRを用いて詳細に解析を行いました。

研究手法と成果

研究チームは、生体由来の複雑な代謝産物を、未精製な混合物のまま、核磁気共鳴法(NMR)により一斉に計測する手法を開発し、その手法を、理研横浜研究所が整備してきた世界最大の集積台数を誇るNMR施設に展開し、メタボローム解析を本格稼働してきました(2007年5月18日プレス発表)。NMR法は、生体分子の構造を原子レベルで解析できることや、さまざまな無機・有機分子などの物性の計測が可能で、非常に幅広い情報を抽出できます。研究チームの手法の特徴は、従来のNMR法で用いられる精製された物質の構造・物性の解析ができるだけでなく、生体由来の代謝混合物のような、未精製で複雑な化合物群を一斉解析できるところにあります(2008年11月25日プレス発表)。今回、植物油などに多量に含まれるリノレン酸を、生理活性物質である共役リノレン酸に代謝する腸内細菌Butyrivibrio fibrisolvensの異なる菌株(3種類)を用い、NMRのガラス管内で培養液などの模擬栄養分を混在させて、12時間程度これらの微生物を生育させながら、代謝変動をリアルタイムで計測する新手法を開発しました(図1)。

  1. 生きたままの微生物発酵を丸ごと計測する代謝表現型解析
    研究チームが開発したNMR管中での微生物生育と、その代謝変動のリアルタイム計測を、B. fibrisolvensの3種類の菌株へのリノレン酸添加実験で検証しました。それぞれの菌株が発酵する際の代謝動態を、5分毎に連続的に計測して、1H-NMRスペクトル※13で得た100余りのデータを数値化し、統計数学を用いて解析しました。その結果、リノレン酸添加時の菌株の代謝能、発酵産物の動的な違いを検出でき、さらに、B. fibrisolvensによるリノレン酸代謝は生体防御反応の一環であることが分かりました。また、腸内の嫌気発酵産物であり、抗がん作用との関係が示唆される酪酸の産出、さらには生産される代謝物とほかの代謝物との経時的な相関関係が、STOCSY法※14という2次元相関解析法で見いだされることも確認することができました。
  2. 安定同位体標識リノレン酸添加による、生理活性物質産出のタイミング検出
    一般に微生物による発酵生産では、有用物質生産のタイミングを最適化することが重要です。研究チームの手法は、発酵生産を止めることなく、腸内細菌が産生する代謝産物をリアルタイムで計測することができるため、発酵停止のタイミングの決定などの解析用途に向いています。NMR法では、自然界に1.1%しか存在しない13Cを、99%以上に濃縮して安定同位体標識※15として用いると、検出したい代謝経路の反応情報を抽出できるようになります。具体的には、13C18標識リノレン酸を活用し、B. fibrisolvensの3種類の菌株に添加実験を行いました。その結果、それぞれの菌株が有する脂肪酸代謝酵素の違いに応じて、13C18標識リノレン酸が代謝され、共役リノレン酸が産出されることが分かりました(図2)。リノレン酸代謝の最終産物はバクセン酸であるため、共役リノレン酸はリノレン酸代謝の中間体として産出されることも分かりました。このような共役脂肪酸の産出タイミングを検出できたことは、今後、プロバイオティクスとしてより機能性を持たせるために、さらには発酵タンクなどで工業的に生理活性物質を産出させるためのプロセスモニタリングなどへと応用できると期待されます。

今後の期待

今回開発した、生きたままの微生物発酵を、丸ごと計測する代謝表現型解析法では、細胞が時間軸に伴って連続的に化学反応を行う動態を追跡することができます。これは、富士通株式会社、日本電気株式会社、株式会社日立製作所と理研で共同開発中の次世代スーパーコンピュータ(2007年9月14日プレス発表)に代表されるような、計算能力の高いハードウエアに対して、経時的な代謝反応データという大量の生物計測情報を提供することにもつなげることができます。今回の研究はリノレン酸の代謝をモデルにしましたが、細胞が行う非線形的な代謝動態を計算することはシステム生物学の大きな課題であり、単離された微生物のみならず、複合微生物系、さらには藻類や原生動物類など、NMR管内で代謝活動が可能なすべての生物種に対して、応用が可能と期待できます。

また、微生物の発酵反応は、アルコール飲料の生産、味噌、醤油などの発酵食品生産で用いられています。これらの反応の多くは、植物由来の高分子を微生物が分解、代謝する化学反応を利用した食品として、職人の勘に頼って作られてきました。しかし、計測科学・情報科学の進展に伴い、生物が行う複雑な生化学反応についても、システム生物学を通して工学的な制御が試みられる時代が到来しています。

反応効率を究極まで上昇させようという動きは、植物バイオマスを原料とした、ホワイトバイオテクノロジー分野※9でより顕著に見られます。化石燃料代替資源としてのエタノールや、乳酸、コハク酸、グリコール酸、1,3-プロパンジオールなどのエネルギー・バイオプラスチック原料といった環境・エネルギー分野での物質創製では、かつて石油を原料の対象としていた化学工学と類似の、高効率プロセス工学への挑戦が日々進められています。

研究チームは、2007年の植物(グリーンBT)のメタボローム解析を皮切りに、2008年の昆虫を含めた動物(レッドBT)のメタボローム解析、さらに今回の微生物(ホワイトBT)のメタボローム解析へと幅広く展開してきました(図3)。これらのメタボローム解析技術を、物質生産にかかわる植物・微生物の生産性増大に活用することで、重化学工業、農業、食品産業へもインパクトを与えると期待されます。さらに、これら一連のメタボローム解析手法を、自然界の複合微生物系、藻類、海洋生物や昆虫などの生態系サンプルへと拡張すると、刻々と変動する地球環境を評価する、環境メタボローム分野※16の推進に貢献できると注目されます。

発表者

理化学研究所
植物科学研究センター 先端NMRメタボミクスユニット
ユニットリーダー 菊地 淳(きくち じゅん)
Tel : 045-503-9439 / Fax : 045-503-9489

免疫アレルギー科学総合研究センター 免疫系構築研究チーム
基礎科学特別研究員 福田 真嗣(ふくだ しんじ)
Tel : 045-503-7032 / Fax : 045-503-7030

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel : 045-503-9117 / Fax : 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. 核磁気共鳴法(NMR)
    化学分析機器としては最もシェアの多い分析手法のうちの1つであり、試料の前処理が不要、不溶試料でも計測が可能といった利点があるものの、低感度という欠点も同時に有する。化学構造に応じて、磁場中での共鳴吸収が異なることを利用した分析法で、代謝混合物の構造の違いを反映して、シグナルが分離する。
  2. 代謝表現型の解析
    検出可能な代謝物全体の定量的データを用いて表現型を解析する手法。代謝物群の定量性が得られれば、どのような分析手法でも利用できるが、データの互換性に優れているためNMR法が広く用いられている。特に、欧州6社の製薬企業と大学とで、同じ薬物投与によるマウス尿の代謝表現解析を行っているCOMETプロジェクトや、世界中の民族の尿のNMRスペクトルの代謝表現解析から、高血圧傾向の代謝物マーカーを見いだす、INTERMAPプロジェクトが有名である。スペクトルの定量解析では、主成分分析(PCA)が広く用いられるが、本論文では判別分析法の1つであるZスコア解析と、多数スペクトル間で同じ動きをするシグナル間の相関を計算するSTOCSY(Statistical Total Correlation SpectroscopY)解析を導入した。
  3. 腸内フローラ(腸内微生物叢)
    ヒトや動物の腸の内部に生息している細菌のこと。ヒトの腸内には1人当たり100種類以上、100兆個以上の腸内細菌が生息しており、糞便のうち、約半分が腸内細菌またはその死骸であるといわれている。宿主であるヒトや動物が摂取した栄養分の一部を利用して生活し、ほかの種類の腸内細菌との間で数のバランスを保ちながら、一種の生態系を形成している。反芻(すう)動物の場合は、ルーメンと呼ばれる第1胃に、細菌をはじめとするさまざまな微生物が多く生息している。ルーメン内では、牛自身が消化できない繊維質が、ルーメン微生物の働きによって分解される。ヒトの場合、腸内フローラによって食物中の繊維質の5%程度は分解されるが、ルーメンを持つ牛の場合は、50~80%も分解されると言われている。最近は、ルーメン内のこのような植物バイオマスを分解できる細菌などの微生物を利用して、非食糧バイオマスからのバイオエタノール生産や、バイオリファイナリーに活用するという研究も行われている。
  4. プロバイオティクス
    消化管内のフローラ(微生物叢)を改善し、宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物と、それらの増殖促進物質を指す。つまり、プロバイオティクス機能を持つ微生物を摂取すると、それが消化管内(口腔内や腸内)のフローラに作用し、フローラの健常化を図りながら、疾病の予防、改善を行う、というものである。現代人に多い生活習慣病の予防の観点からも注目されており、また獣医・畜産の分野では、抗生物質に代わる家畜の成長促進剤としても使用が進んでいる。
  5. 反芻(すう)動物
    牛、羊、山羊などの偶蹄目の動物。反芻(すう)動物の最大の特徹は、四つの胃(第1胃、第2胃、第3胃、第4胃)を持つことであり、人間の胃に相当するのは第4胃。特に第1胃(ルーメン)は4つの胃全体の約80%以上、消化管全体の約半分を占めており、草から肉や乳を生産する過程に、この第1胃が大きく関係している。
  6. 濃厚飼料
    牧草やわらなどの繊維質が多い粗飼料に対して、炭水化物、タンパク質、脂質を豊富に含んだトウモロコシやダイズに代表される飼料のこと。現状のバイオエタノール政策では、これら飼料と燃料の両面で価格が不安定になっている。過放牧が自然環境を破壊するといわれているが、一方で、現状の濃厚飼料に頼った食肉生産は、環境と食物価格の両方に影響を与えている。
  7. 植物バイオマス
    生物が代謝反応により産出する有機物資源のうち、植物由来のもの。化石燃料の依存性を落とし、炭素源を地表で循環的に利用しようとする動きが高まり、その利用法に注目が集まっている。水圏の藻類が生産する水生バイオマス、雑草や農作物から成る草本バイオマス(ソフトバイオマス)、樹木由来の木質バイオマス(ハードバイオマス)といったように、由来とする生物種で区別して呼ばれることが多い。資源量として豊富な成分は、細胞壁を構成するリグノセルロース(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)であるが、いずれも難分解性高分子である。しかし、反芻(すう)動物や昆虫の腸内細菌には、リグノセルロース分解能を有するものが存在し、本研究で用いたB.fibrisolvensはヘミセルロースを分解できる。
  8. 植物油、リノレン酸(LNA)、共役脂肪酸
    植物油とは植物が光合成で吸収した炭素源を代謝し、炭化水素や脂肪酸として蓄積した成分の総称であり、古くから工業用、食用としてヒトが利用してきた。特にある種の微細藻類は、炭化水素を多量に蓄積する代謝経路を有しているため、バイオ燃料の産生のために期待されている。植物油に含まれる脂肪酸には多価不飽和脂肪酸が多く、特に必須脂肪酸であるリノレン酸も多い。共役脂肪酸とはリノレン酸やリノール酸などの多価不飽和脂肪酸の異性体であり、炭素-炭素間の二重結合が2個共役した形の(-C=C-C=C- のように連続している)部分構造を持つものの総称である。自己免疫力の向上など健康増進作用を持つ。
  9. 次世代バイオテクノロジー、ホワイトバイオテクノロジー
    大別して、生産者として植物の光合成能を利用したグリーンバイオテクノロジー、分解者として微生物の代謝変換能を利用したホワイトバイオテクノロジー、消費者として、特にヒトの健康向上を目指したレッドバイオテクノロジーなどがある。1980年代のバイオテクノロジーと今世紀のそれとの大きな違いは、前者が細胞融合などの暗黙知的技術が中心であったのに対し、後者がゲノム解析に代表される生体分子群の計測データに基づく、形式知的技術を基盤にしている点である。遺伝情報からタンパク質、代謝物に至るまで、現在では広く計測技術の進展があるため、複雑な生命システムのブラックボックス的要素は少なくなっている。従ってシステム生物学や構成的生物学といった、複雑な生体分子群全体のネットワーク情報を解析・利用する新しい工学が生まれつつある。
  10. メタボローム解析
    計測可能な代謝物群の一斉解析法のこと。前出の代謝表現型解析は、メタボローム解析の一手法に数えられる。検出法の感度限界や化合物の溶解性などの問題で、計測可能な代謝産物群の数は限られてしまい、メタボローム解析の1つの技術課題となっている。
  11. 化学工学
    化学工業の主要な原料である原油の分留、蒸留、精製から、化成品の合成を最適化するために体系づけられた工学分野。ここで主題となっている微生物発酵を利用する場合は、生物化学工学として分野が確立されている。しかし前述のように、前世紀まではブラックボックス的であった生物の行う複雑な化学反応が、メタボローム解析やシステム生物学の進展により、形式知の世界に進みつつある。そこで、オイルリファイナリーと同様に、植物バイオマスを原料としたバイオリファイナリーの世界を展開することが期待されている。
  12. 炎症性腸疾患
    主として消化管に原因不明の炎症を起こす慢性疾患の総称で、潰瘍性大腸炎、クローン病の2疾患からなる。
  13. 1H-NMRスペクトル
    1H-Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopyは、 プロトン核磁気共鳴分光法. 分子内における個々の化学構造の違いを反映した、11H 原子核の電子状態、運動性の情報を得る分析方法。
  14. STOCSY法
    多数スペクトル間で同じ動きをするNMRシグナル間の相関を計算する手法のこと。STOCSY(Statistical Total Correlation SpectroscopY)の略号である。
  15. 安定同位体標識
    13C、15N、17Oといった原子核は天然存在比が低いものの、生体には安全な同位体核であるため、これらを含んだ化合物を生物に取り込ませ、標識化して、検出を容易にする方法のこと。NMR法では陽子数、原子番号とも偶数でない核(核スピンを有する核)が観測対象であり、安定同位体標識化が極めて有効である。
  16. 環境メタボローム分野
    人為的起源による生体系の攪(かく)乱に関しては、20世紀後半には環境ホルモン検出のような微量分析が主流であった。しかし、動植物個体のメタボローム解析により、恒常性異常を迅速に判断できる技術開発が進み、これを生態系の変動評価として把握しようとする新分野が生まれている。生態系の中でも、消費者に環境変動が生物濃縮される傾向にあることから、水圏では魚介類、陸圏ではミミズが利用されている。イギリスを中心とした環境メタボローム国際プロジェクトでは、NMRを用いた水圏生物の代謝表現型解析が行われているが、アジア圏ではまだこのような試みはない。

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NMR管中での腸内微生物の培養

図1 NMR管中での腸内微生物の培養

(左)培養開始前のNMR管。
(右)12時間培養後のNMR管。
生きた腸内微生物をNMR管中で培養しながら、同時にNMRで代謝物を測定することができる。

リアルタイム代謝動態解析法の開発(B. fibrisolvens MDT-10株による例)

図2 リアルタイム代謝動態解析法の開発(B. fibrisolvens MDT-10株による例)

(上段)代謝動態の変動を2次元NMR展開したもの。左から培養0時間、2時間、3時間、4時間目。
(下段)NMRで得られた情報をもとに、各脂肪酸の濃度変化を示す。

LNA:リノレン酸
CLNA:共役リノレン酸
t11, c15-18:2:trans11, cis15-18:2脂肪酸(リノレン酸代謝の中間体)
VA:バクセン酸
Growth:NMR管中のOD値(濁度)

物理・化学的研究手法と次世代バイオテクノロジーの融合

図3 物理・化学的研究手法と次世代バイオテクノロジーの融合

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