広報活動

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2009年5月7日

独立行政法人 理化学研究所

造血幹細胞など生体移植の拒絶反応を防ぐ仕組みを発見

-マウスの移植片対宿主病の制御機構を世界で初めて証明-

ポイント

  • 異系骨髄移植による移植片対宿主病を制御する白血球「内在性制御性樹状細胞」を発見
  • 内在性制御性樹状細胞の投与でマウスの慢性移植片対宿主病の治療に成功
  • ヒトの移植片対宿主病に新たな治療法を提示

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、骨髄移植などの合併症として知られる移植片対宿主病(GVHD:Graft Versus Host Disease)を制御することができる新しい白血球である樹状細胞※1をマウスで初めて発見しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)樹状細胞機能研究チームの佐藤克明チームリーダーらによる研究成果です。

骨髄移植などで用いられている造血幹細胞の移植は、白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍や、重症再生不良性貧血、先天性免疫不全症などの疾患に、特に治療効果が高い治療法として利用されていますが、その合併症として発生するGVHDが問題となっています。GVHDは、移植した造血細胞中に含まれる提供者(ドナー)の免疫細胞の一つであるT細胞が、患者(レシピエント)の体を異物として認識し、免疫拒絶反応を引き起こす、細胞移植に伴う病気です。発熱、下痢、肝機能障害などを引き起こし、重篤な場合には、死に至ることもあります。現在のところ、GVHDを制御する仕組みは解明されておらず、GVHDの治療法についても、免疫抑制剤などが用いられていますが、十分な治療効果が得られていません。

研究チームは、マウス異系骨髄移植※2モデルを使い、今回新たに発見した、生体内に自然に存在する新しい樹状細胞の「内在性制御性樹状細胞」を投与する治療法が、GVHDの治療に有効であることを突き止めました。そのメカニズムは、ドナー由来の「制御性T細胞※3」の誘導を介して、ドナーT細胞の活性化を阻害し、GVHDに対して治療効果をもたらすというものでした。マウスで明らかにした内在性制御性樹状細胞によるGVHDの発症阻止の仕組みの応用は、GVHDの画期的な治療法につながる可能性が期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Blood』オンライン版(5月7日付け:日本時間5月7日)に掲載されます。

背景

骨髄移植などの造血幹細胞移植は、白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍や、重症再生不良性貧血、先天性免疫不全症などの疾患に対する有効な治療法ですが、その合併症として、移植片対宿主病(GVHD)の発症が大きな問題となっています。GVHDの発症は、移植した造血細胞中に含まれるドナーの異系反応性T細胞※4が、レシピエント患者の体にある樹状細胞などの抗原提示細胞を異物と認識して活性化し、免疫拒絶反応を引き起こすことが原因で、重篤な場合には死に至ることもあります。現在、GVHDを制御する仕組みは解明されておらず、GVHDの治療法では、免疫抑制剤投与などの対症療法にとどまり、十分な治療効果が得られていません。

佐藤チームリーダーらは2003年に、ヒトやマウスの造血幹細胞と末梢血単球を、試験管内で骨髄球系細胞増殖因子や複数の免疫抑制性サイトカインとともに培養することで、免疫機能を修飾した樹状細胞である「制御性樹状細胞※5」を開発しました。2007年には、マウスを用いて、この制御性樹状細胞がT細胞機能を調節してアレルギー疾患や移植拒絶反応を抑制する効果を示すことに成功しています(2007年10月17日プレス発表: 『アレルギー性喘息を防ぐ新規治療法が大きく前進』、 『造血幹細胞移植の拒絶反応を防ぐ新規治療法が大きく前進 』)。

研究手法と成果

(1)内在性制御性樹状細胞の同定

研究チームは今回、試験管内で作製した制御性樹状細胞で特異的に発現するCD200受容体様分子※6を、マウスにおいて免疫機能を調節する新しい分子として同定しました。そこで次に、CD200受容体様分子の発現を指標に、生体内にも制御性樹状細胞が存在するかどうかを調べました。具体的には、CD200受容体様分子の抗体(抗CD200受容体様分子抗体)を用いてCD200受容体様分子を発現する白血球を探索し、さらに、その性状を解析する手法を用いて内在性の制御性樹状細胞の同定を試みました。

その結果、マウスの末梢血、脾臓(ひぞう)、リンパ節では、白血球中の約0.1%でCD200受容体様分子の発現を認めました。CD200受容体様分子発現細胞は、活性化により樹状形態を表し(図1)、既知の白血球とは異なる抗原発現表現型や機能などの性状を示しました。さらに、CD200受容体様分子発現細胞は、制御性樹状細胞に特徴的なT細胞活性化抑制機能と制御性T細胞誘導能を示したことから、内在性制御性樹状細胞であることが明らかとなりました。

(2)内在性制御性樹状細胞投与の効果

マウスに骨髄移植を行い、GVHD発症に対する内在性制御性樹状細胞投与の効果を測定しました。マウスGVHD※7は、放射線照射したレシピエントマウスに異系ドナーマウスの骨髄細胞(1×107個/1匹)とT細胞(2×106個/1匹)を尾静脈内に移植し、発症させました。移植後、18日目から皮膚病変として脱毛、消化管病変として下痢と体重減少が起きていることが観察で分かりました。

内在性制御性樹状細胞の投与群では、レシピエントマウスに1回あたり5×105個の内在性制御性樹状細胞を移植後2日目、9日目、16日目の合計3回投与しました。対照群は、未処置のレシピエントマウスとしました。移植後45日間、これら各実験群のマウスのGVHDの症状の程度を観察しました。

マウスGVHDモデルにおいて、未処置群では、移植後33日目までに9割以上のレシピエントマウスで重症度を伴うGVHDの発症が認められました(図2図3)。一方、内在性制御性樹状細胞の移植後3回の投与では、GVHDの発症が移植後45日間で4割にとどまり、これら発症マウスについても重症度が著しく軽減していました(図2図3)。さらに、内在性制御性樹状細胞投与群では、ドナー由来の制御性T細胞が未処置群と比較して約3倍増加しました。一方、抗CD200受容体様分子抗体の投与により内在性制御性樹状細胞を除去すると、ドナー由来の制御性T細胞の減少とGVHDの増悪が認められました。このことから、異系骨髄移植において、内在性制御性樹状細胞はドナー由来の制御性T細胞の生成と増幅により、異系反応性ドナーT細胞の活性化を阻害し、GVHDの発症を抑制することが判明しました。

今後の期待

マウスを使った本研究で、内在性制御性樹状細胞によるGVHDの発症阻止の仕組みが明らかになったことから、この仕組みを応用したGVHDの画期的な治療法の開発の可能性が期待できます。また今後、自己免疫疾患、アレルギー疾患などの免疫疾患や、がんでの内在性制御性樹状細胞の性状を解析することにより、これらの発症・増悪機構の解明や新しい治療法の開発につながる可能性があります。このため、ヒトでの内在性制御性樹状細胞の探索を試みるとともに、CD200受容体様分子をターゲットとした分子標的治療の開発を進めていきます。

発表者

理化学研究所
免疫・アレルギー科学総合研究センター
樹状細胞機能研究チーム
チームリーダー 佐藤 克明(さとう かつあき)
Tel: 045-503-7013 / Fax: 045-503-7013

お問い合わせ先

横浜研究所 研究推進部
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. 樹状細胞
    樹状突起を持つ白血球で、多くの亜集団がある。微生物の排除やT細胞に異物の情報を伝える細胞(抗原提示細胞)として働き、免疫反応の本質的な司令塔としての役割を担っている。
  2. マウス異系骨髄移植
    放射線照射したレシピエントマウスに、異なる系統のドナーマウスの骨髄細胞や、骨髄細胞とT細胞を移植すること。移植拒絶反応には、組織抗原が関与する。同系統の骨髄移植(同系骨髄移植)ではレシピエントマウスに移植拒絶反応は起こらない。組織抗原が異なるマウス異系骨髄移植ではレシピエントマウスにGVHDが発症する。
  3. 制御性T細胞
    CD4陽性T細胞の5~10%を占めるT細胞亜集団で免疫抑制能を示す。膠原病などの免疫病の発症を阻止することが示されている。制御性T細胞を特定するマーカー分子は、表面抗原分子のCD25と転写因子のFoxp3である。
  4. 異系反応性T細胞
    異なる系統マウスの組織抗原を発現する抗原提示細胞に反応して活性化するT細胞。異系反応性ドナーT細胞は多量の炎症因子の産生や組織傷害によりGVHDを引き起こす。
  5. 制御性樹状細胞
    強力な免疫抑制能を示す樹状細胞。生体に自然に存在する制御性樹状細胞は不明であったが、今回の研究で初めてマウスにおいてその存在を証明した。
  6. CD200受容体様分子
    免疫グロブリン様ドメインを2つ持つ膜貫通型糖タンパク質。CD200受容体に類似したアミノ酸配列を示すが、CD200とは結合能を示さない。
  7. マウスGVHD
    マウスの場合、GVHDは運動能力の低下、肝臓機能の障害、腸管の炎症破壊による下痢や体重減少、皮膚での脱毛などの病態が認められる。

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内在性制御性樹状細胞の形態

図1 内在性制御性樹状細胞の形態

異系骨髄移植によるGVHDの発症率に対する内在性制御性樹状細胞の効果

図2 異系骨髄移植によるGVHDの発症率に対する内在性制御性樹状細胞の効果

異系骨髄移植によるGVHDの重症度に対する内在性制御性樹状細胞の効果

図3 異系骨髄移植によるGVHDの重症度に対する内在性制御性樹状細胞の効果

マウスGVHDの評価として、脱毛および下痢の発症度(発症マウス/移植マウス)と皮膚での脱毛面積(脱毛面積 0cm2:スコア= 0, 脱毛面積 <1cm2:スコア= 1, 脱毛面積 1~2cm2:スコア= 2, 脱毛面積 >2cm2:スコア= 3)を重症度として計測した。

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