広報活動

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2009年7月16日

岡山県生物科学総合研究所
独立行政法人 理化学研究所
国立大学法人 岡山大学農学部
公立大学法人 京都府立大学生命環境科学研究科

植物による病原体の認識・応答メカニズムを解明

―異なる2つの蛋白質が協力して、3種の病原体の攻撃を認識―

ポイント

  • 病原体の攻撃を認識し、防御応答に関与する植物の異なる2つの蛋白質を発見
  • 2つの蛋白質が協力して、3種の病原体を認識し、防御応答することを発見
  • 病害抵抗性作物の開発に新たな知見を提供

鳴坂義弘(岡山県生物科学総合研究所 植物免疫研究グループ グループリーダー)、白須賢(理化学研究所 植物科学研究センター ディレクター)らのグループは、アブラナ科作物における重要病害であるアブラナ科野菜類炭疽病菌に対応する抵抗性遺伝子が、シロイヌナズナのゲノム上に2つ存在することを世界で初めて突き止めました。また、植物による病原体の認識メカニズムの解明に挑戦し、これら2つの遺伝子産物(蛋白質)が協調的に病原体の認識と防御応答に関与すると同時に、これら蛋白質がナス科作物の重要病害である青枯病と斑葉細菌病の認識と防御応答にも関与していることを明らかにしました。

この成果は、植物の異なる2つの蛋白質が協力して、3種の病原体の攻撃を認識し、防御応答を発揮することを世界で初めて明らかにしたものであり、植物と病原微生物の多様な関係を理解する上できわめて重要な発見です。

これまで1つの抵抗性遺伝子を植物に導入しても、病害抵抗性を付与できないか、または、抵抗性を付与できても植物が矮小化することが報告されていましたが、これら2つの遺伝子を同時に植物に導入することで植物が正常に生育し、かつ複数の病原体に対する病害抵抗性植物を開発することが可能となりました。今後、この原理に基づいた病気に強い作物の開発が期待できます。

本研究は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターの実施する「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」(プログラムディレクター:大川安信理事)の委託研究課題「アブラナ科作物ゲノムリソースおよびプラントアクティベーターを利用した新規病害防除法の開発」(平成19~21年度)で行われたものです。

本研究成果の詳細は、6月9日付けで英国の科学雑誌「The Plant Journal」オンライン版に掲載されました。

【注:植物の病原体認識機構】

植物の病原体に対する抵抗反応は、Flor氏が唱えた遺伝子対遺伝子説により、植物の抵抗性遺伝子(病原体を認識する植物側の受容体)と、対応する病原体の因子の1対1の組み合わせによって決定されると考えられています。しかし、例えばモデル実験植物シロイヌナズナのゲノム上には約150の受容体しか存在せず、多様な病原体に対する抵抗性はどのようなメカニズムによって発揮されているのか、遺伝子対遺伝子説のみでは説明できませんでした。近年、動物の自然免疫と植物の耐病性の分子機構に類似した機構があることが明らかになっており、植物の免疫系も動物と同様に、少ない遺伝子を組み合わせることにより多様な病原体を認識し、防御系を発動している可能性が考えられます。

【論文題目】

RRS1 and RPS4 provide a dual Resistance-gene system against fungal and bacterial pathogens.
The Plant Journalオンライン版(6月9日付け)
「2つの抵抗性遺伝子RRS1RPS4は病原糸状菌と病原細菌に対する抵抗性に関与している」

発表者

[研究代表者]
岡山県生物科学総合研究所
グループリーダー 鳴坂義弘

[研究担当者]
岡山県生物科学総合研究所
流動研究員 鳴坂真理
所長 岩渕雅樹

理化学研究所 植物科学研究センター
ディレクター 白須賢
研究員 能年義輝

岡山大学 農学部
教授 白石友紀

京都府立大学 生命環境科学研究科
教授 久保康之

お問い合わせ先

[研究代表者]
岡山県生物科学総合研究所 植物免疫研究グループ 鳴坂 義弘
〒716-1241 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7549-1
Tel: 0866-56-9450 / Fax: 0866-56-9453

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 【研究の背景・ねらい】

    病害による世界の農業生産被害は10~20%といわれており、これは8億人の食糧に値します。世界の飢餓人口が8億人と見積もられていることから、病害を防ぐことは食糧の安定供給において最も重要な課題の一つです。このような植物の感染病の80%以上は糸状菌(カビ・菌類)によって引き起こされ、残りは細菌、ウィルス、ウイロイド、ファイトプラズマ、リッチケア様微生物、線虫、原虫などが原因です。地球上には十万種の糸状菌が存在しますが、そのほとんどは植物に感染せず、植物病原菌は約8000種です。これらのうち、1つの植物種に激害を起こすものは10種もありません。このことは、植物は大方の病原体に抵抗性を示し、わずか一握りの病原菌種によって病害を受けることを意味しています。

    植物の病原体の認識機構は、抵抗性遺伝子産物の作用機作として病原体由来分子と直接結合する場合(レセプター-リガンドモデル)、病原体によって影響を受ける他の宿主因子の状態変化を認識する場合(ガードモデル)によって説明されています。この度の発見は第3の説として位置づけられます。

  2. 【成果の内容・特徴】

    アブラナ科野菜類炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum)が、シロイヌナズナのゲノム配列が決定した生態型Col-0に感染することを世界で初めて明らかにしました。100種類以上のシロイヌナズナの生態型について感染生理学および遺伝学的な解析を行った結果、この病原菌に抵抗性を示す11種類の生態型を得、生態型Ws-0における抵抗性遺伝子は5番染色体上に存在することを明らかにしました。生態型Ws-0における詳細な抵抗性遺伝子の探索の結果、目的の遺伝子は十数個の抵抗性遺伝子がクラスターを形成している領域(MRC-J-領域)に位置することが明らかとなりました。そこで、生態型Ws-0にT-DNAを挿入した変異体ライブラリー(3万個体)を用いた逆遺伝学解析により、炭疽病菌に対して抵抗性から感受性へ表現型が変化した変異体をスクリーニングしました。得られた8つの変異体についてT-DNA挿入部位および変異部位を解析したところ、感受性変異体はRPS4またはRRS1遺伝子に変異を有しており、炭疽病菌に対する抵抗性誘導のためには、RPS4RRS1遺伝子の両方が必要であることが明らかとなりました。興味深いことにRPS4はGassmann氏らによりトマト斑葉細菌病菌(病原細菌Pseudomonas syringae pv. tomato)に対する抵抗性遺伝子として既に同定されています。一方で、その隣に存在するRRS1遺伝子は別の研究グループにより、ナス科およびアブラナ科植物に感染する青枯病菌(土壌病原細菌Ralstonia solanacearum)に対する抵抗性遺伝子RRS1-Rとして同定されていました。このように、全く異なる病原体の抵抗性遺伝子として同定された2つの遺伝子が、病原糸状菌炭疽病菌に対する抵抗性遺伝子として機能することは驚くべき発見でした。

  3. 【成果の意義と今後の展望】

    これまで、個々の抵抗性遺伝子はそれぞれ単独で機能し、病原体と1対1で対応すると考えられていました。このため、シロイヌナズナのわずか150個の抵抗性遺伝子で、数十万の病原微生物にどのように対応しているのかの説明が困難でした。しかし、本発見により、遺伝子対遺伝子説におけるガード説と並び、わずかな抵抗性遺伝子で無数の病原体に対応するメカニズムを解明し、植物の免疫系も動物と同様に少ない遺伝子を組み合わせることで多様な病原体を認識して防御系を発動していることが明らかとなりました。動物と植物が生存するためには、病原体を認識し、排除するシステムが不可欠です。動物と植物において高く保存された免疫の基本システムを解明することで、生命現象の普遍性を論じることができるようになりました。

    病害抵抗性育種では、抵抗性遺伝子を発見し、作物に導入することが伝統的に行われてきました。しかし、抵抗性遺伝子を対象作物に単独で形質転換しても、抵抗性が安定的に発揮できない例が数多く報告されており、病害抵抗性の分子育種における障害となっています。この度発見した2つの抵抗性遺伝子のうち、RPS4遺伝子を単独で植物に導入した場合、導入植物の生育に異常をきたし、病害に対する抵抗性の発現が不安定であるなどの現象がみられます。これに対してRRS1遺伝子を単独で植物に導入しても植物に病害抵抗性を付与できません。しかし、2つの抵抗性遺伝子を同時に植物に導入した場合、抵抗性が付与され、生育も正常であることを明らかにしました。このことからRPS4は抵抗性発現において主たる役割を担い、RRS1RPS4を制御する因子であることを意味しています。このような遺伝子セットはシロイヌナズナゲノム上に9セット存在し、本知見の普遍性を示唆しています。本メカニズムを明らかにすることは、病害抵抗性の分子育種の発展に多大な貢献をもたらすと考えています。

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アブラナ科野菜類炭疽病菌を接種したハクサイ(左)とシロイヌナズナ(右)

図1 アブラナ科野菜類炭疽病菌を接種したハクサイ(左)とシロイヌナズナ(右)

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