広報活動

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2009年11月12日

独立行政法人 理化学研究所
独立行政法人 科学技術振興機構

視覚経験で抑制性神経回路が「ダイナミック」に変化する現象を初めてキャッチ

-弱視治療で知られる臨界期における眼優位性可塑性を、抑制性細胞の別の可塑性が制御-

Fast Spiking 細胞の視覚反応とその可塑性

英会話でのRとLの発音、ピアノでの絶対音感・・・習い事は感受性が高い幼い時期に始めた方が定着しやすいことを、私たちは経験から知っています。これらは、生後の特定の時期には環境からの刺激によって脳内の神経回路が柔軟に再構築できるからであり、この時期を「臨界期」と呼びます。この特定の時期の神経の高い感受性を利用にしたものに弱視治療があります。弱視の子供の正常な目を眼帯でふさぎ、弱視側の目への視覚反応を強制的に強くして、視力を回復させるのです。しかし、臨界期という特別な時期に、脳内の神経回路がどのようなメカニズムで構築・再構築するのか、臨界期の開始や終了がどう決まるのかは謎に包まれています。

脳科学総合研究センター神経回路発達研究チームと脳回路機能理論研究チームは、マウスの大脳皮質の特定の抑制性細胞(Fast Spiking細胞)が、臨界期の視覚経験によってダイナミックに視覚反応を変化させることを世界で初めて発見しました。視覚野にある神経細胞は、興奮性細胞と抑制性細胞に分類でき、またその視覚反応は左右どちらかの目により強い視覚反応をしめす「眼優位性」を持っています。これまで、マウスの片目を閉じると、興奮性細胞は開いている方の目に優位性を示すようになることが分かっていました。今回、抑制性細胞の一つであるFast Spiking細胞では、片目を閉じて2日後は閉じた目に、14日後は開いている目に、と優位性をダイナミックに動かすことを発見しました。さらに、興奮性細胞での抑制性入力の役割を片目を閉じる前後で比べてみると、眼優位性の増強から眼優位性の逆転と変化し、特定の抑制性神経回路が神経回路全体の可塑性を制御していることが分かってきました。

臨界期の謎の解明は、弱視だけでなく、Fast Spiking細胞に関係する統合失調症や自閉症などの精神疾患の治療などにも新しい知見をもたらすことが期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 神経回路発達研究チーム
チームリーダー Takao K. Hensch(ヘンシュ貴雄)
Tel: 048-467-9634 / Fax: 048-467-2306

客員研究員 杉山 陽子(すぎやま ようこ)
Tel: 048-467-9673 / Fax: 048-467-2306