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2009年12月25日

独立行政法人 理化学研究所

脳神経細胞の電気信号を読みとく新たな蛍光タンパク質

ポイント

  • 神経細胞の集まりから発せられる高速の電気信号の解析に役立つタンパク質を開発

新たな蛍光タンパク質の発見により、海馬の複雑な神経回路網の謎に光が当てられました。理化学研究所脳科学総合研究センター回路機能メカニズムコア神経回路ダイナミクス研究チームのKNÖEPFEL THOMASチームリーダーらによって開発されたこのタンパク質「red-shifted VSFPs」は、神経細胞の集まりから発せられる高速の電気信号の解析に役立ち、神経回路網における神経細胞間ダイナミクスの観察が可能になります。今後、脳機能の研究がさらに推進されると期待されます。

神経回路網ダイナミクスを解析するための重要な課題の1つは、いくつもの神経細胞の活動を同時に観察することです。膜電位感受性蛍光タンパク質(VSFP)は、遺伝子レベルで電位センサーをコントロールし、非侵襲的に特定の細胞集団活動を可視化することができます。しかし、これまで、VSFPによる可視化には、長時間にわたって神経細胞で発現できないといった問題や、組織が持つ自家蛍光に邪魔されるといった問題がありました。

今回、研究チームによって新たに造られたred-shifted VSFPは、発光する波長を赤波長へシフトさせることで、これらの問題を解決しました。電位感受性ホスファターゼ(Ci-VSP)の電位感受性領域と、赤波長へシフトさせた蛍光タンパク質を融合させることで、これまでとは異なる色を発するVSFPを造り出したのです。『Journal of Chemistry & Biology』誌への報告によると、研究チームは、このタンパク質を用いてCi-VSPの電位感受性メカニズムを新たに解明し、さらには海馬神経細胞における電気信号を解析するための改良型(VSFP3.1_mOrange2)の有効性も実証しました。

神経回路網にある細胞レベルでの活動をVSFPで観察できれば、脳内の情報処理過程における理解はさらに深まります。現在のVSFPのメカニズムをさらに研究し改良すれば、蛍光波長を赤波長にシフトさせたこの新たなタンパク質は、脳機能を理解するための革新的な進歩をもたらすでしょう。

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
自然界での電位感受性タンパク質の構造と機能、そして遺伝子工学的電位感受性蛍光タンパク質(VSFPs)の由来の図

図1 自然界での電位感受性タンパク質の構造と機能、そして遺伝子工学的電位感受性蛍光タンパク質(VSFPs)の由来

(A)(B):電位感受性ポタシウムチャネル(Kv)と膜電位感受性酵素(Ci-VSP)の構造。
S1からS6は6つの膜貫通領域を示し、S1からS4は電位感受性領域(VSD)を構成する。VSDは、Ci-VSPの酵素活性とKvのイオンチャネルの開口をコントロールしている。

(C):VSFPsでのVSDによる蛍光タンパク質(FP)の変化のコントロール
静止状態(Resting)からの細胞膜の活性化(Activation)は、プラスにチャージされたS4領域が動くことによりFPを細胞膜付近へ移行させる。そして、細胞膜付近に移行したことでFPの蛍光が減少する。これは、緑の励起波長(緑の矢印)を変えることなくオレンジの蛍光波長(オレンジの矢印)が減少したように観察される。

遺伝子工学的電位感受性蛍光タンパク質の導入の図

図2 遺伝子工学的電位感受性蛍光タンパク質の導入

遺伝子工学的電位感受性蛍光タンパク質は神経細胞のゲノムへと導入することができる〔1〕。神経細胞はタンパク質を合成し〔2〕、そしてこの蛍光タンパク質を発現した神経細胞の活動を光学的イメージングシステムによって観察することが可能になる〔3.4〕。さらに遺伝子組み換え法を用いることで、蛍光タンパク質を特定の神経細胞にのみ発現させることができる。

主な電位感受性蛍光タンパク質の構造比較の図

図3 主な電位感受性蛍光タンパク質の構造比較 

(A)FRETをベースとした電位センサー:GFP異型のシアンと黄色蛍光タンパク質は短いリンカーによって繋がれている。

(B)単一蛍光タンパク質をベースとした電位センサー

(C)Circularly permuted 蛍光タンパク質をベースとした電位センサー:GFP内部のN末とC末を繋ぎ合わせ、新たなN末とC末を作成する。色の勾配(紫から赤)は、元の蛍光タンパク質のN末からC末への配列を示している。GFPレポーターは直接S4領域に取り付けられている。

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