新たな蛍光タンパク質の発見により、海馬の複雑な神経回路網の謎に光が当てられました。理化学研究所脳科学総合研究センター回路機能メカニズムコア神経回路ダイナミクス研究チームのKNÖEPFEL THOMASチームリーダーらによって開発されたこのタンパク質「red-shifted VSFPs」は、神経細胞の集まりから発せられる高速の電気信号の解析に役立ち、神経回路網における神経細胞間ダイナミクスの観察が可能になります。今後、脳機能の研究がさらに推進されると期待されます。
神経回路網ダイナミクスを解析するための重要な課題の1つは、いくつもの神経細胞の活動を同時に観察することです。膜電位感受性蛍光タンパク質(VSFP)は、遺伝子レベルで電位センサーをコントロールし、非侵襲的に特定の細胞集団活動を可視化することができます。しかし、これまで、VSFPによる可視化には、長時間にわたって神経細胞で発現できないといった問題や、組織が持つ自家蛍光に邪魔されるといった問題がありました。
今回、研究チームによって新たに造られたred-shifted VSFPは、発光する波長を赤波長へシフトさせることで、これらの問題を解決しました。電位感受性ホスファターゼ(Ci-VSP)の電位感受性領域と、赤波長へシフトさせた蛍光タンパク質を融合させることで、これまでとは異なる色を発するVSFPを造り出したのです。『Journal of Chemistry & Biology』誌への報告によると、研究チームは、このタンパク質を用いてCi-VSPの電位感受性メカニズムを新たに解明し、さらには海馬神経細胞における電気信号を解析するための改良型(VSFP3.1_mOrange2)の有効性も実証しました。
神経回路網にある細胞レベルでの活動をVSFPで観察できれば、脳内の情報処理過程における理解はさらに深まります。現在のVSFPのメカニズムをさらに研究し改良すれば、蛍光波長を赤波長にシフトさせたこの新たなタンパク質は、脳機能を理解するための革新的な進歩をもたらすでしょう。