広報活動

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2010年1月15日

独立行政法人 理化学研究所

植物による部位特異的な二次代謝産物生合成の事実を発見

―シロイヌナズナの各組織に含まれる二次代謝成分のDBを構築して判明―

ポイント

  • シロイヌナズナの二次代謝産物のDB「AtMetExpress development」を作成
  • 花、根、種子など異なる部位で、まったく違う二次代謝産物の生合成活動を発見
  • 新規有用成分や代謝関連遺伝子の発見を加速、人類に不可欠な有用成分の抽出へ

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、モデル植物であるシロイヌナズナの花、根、種子、葉、茎といった各組織に含まれる二次代謝産物※1の蓄積データベースを世界で初めて構築しました。理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)メタボローム基盤研究グループ(斉藤和季グループディレクター)メタボローム解析研究チームの松田史生客員研究員らによる研究成果です。

自由に移動することができない植物は、紫外線など外部からのストレスや害虫、病原菌といった外敵から身を守る能力を進化させてきました。この能力の源は二次代謝産物と呼ばれる植物の成分で、非常に多様性に富み、人類はその中から医薬や健康補助に役立つ有用成分を見つけて利用してきました。今後、二次代謝産物が持つ機能をより有効に利用するには、どんな二次代謝産物が、植物のどの部位に、どれくらい含まれているのかを調べることが必要です。この研究は代謝産物(メタボライト)の総体(オーム)を調べるという意味で、メタボローム分析と呼ばれ、植物科学研究センターが積極的な技術開発を行ってきました。

研究チームは、液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)※2を用いたメタボローム分析系を構築し、モデル植物であるシロイヌナズナの花、根、種子、葉、茎など36部位に含まれる1,500以上の二次代謝産物の蓄積データベース「AtMetExpress development」を作成しました。このデータベースから、シロイヌナズナは、各部位ごとでまったく構造が異なる多様な二次代謝産物を生合成・蓄積していることを明らかにしました。つまり植物は、天然の優れた有機合成システムであり、種子や花といった部位に着目してそのメカニズムを調べ直すことで、人類にとって有用な二次代謝産物をさらに見つけだすことができることが分かりました。また、当センターも参加したシロイヌナズナ遺伝子発現の網羅的解析(AtGenExpress)データと統合することで、多様な二次代謝産物にかかわる遺伝子を発見することができることも示しました。

今後、さらに多くの植物種で同様のデータベースを作成し、新たな有用成分やその代謝関連遺伝子を発見することで、二次代謝産物の機能を予測することができるようになります。その結果、医、食、工業材料などへ利用可能で人類に欠かせない有用成分を、より効率的に植物から取得することができるようになります。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Plant Physiology』(システム生物学特集号)に12月18日に掲載されました。

背景

植物は、過酷な環境を生き抜くために、非常に多様な構造の二次代謝産物を生合成する能力を獲得してきました。人類は、植物が作る二次代謝化合物の中から、例えば、抗腫瘍活性を持つインドールアルカロイド類、抗酸化活性を持つフラボノイド類、甘みを持つトリテルペン類など、人類の健康や福祉に役立つ有用成分を見いだし、古くから利用してきました。現在でも多くの新薬が植物から発見されており、植物には未知の多様な有用成分がまだ豊富に存在しています。この二次代謝産物の機能をより深く理解し、利用するためには、どんな二次代謝産物が、植物のどの部分にどれほど含まれているのかを調べる必要があります。近年、そのための手法として、メタボローム分析(代謝産物:メタボライト+総体:オームを組み合わせた造語)と呼ばれる手法が発展しました。この手法を活用して、植物の二次代謝産物の多様性を理解することは、植物の新たな二次代謝産物の機能や関連遺伝子の発見へとつながり、有用物質の生産や作物保護などを推進する大きな原動力になると期待できます。

研究手法と成果

研究チームは、植物の二次代謝産物の網羅的な解析を目指して、複数の分析技術を組み合わせたメタボローム分析パイプラインの構築を行っています。今回、液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を用いたメタボローム分析系を利用して、モデル植物であるシロイヌナズナの花、種子、根、葉、茎など36部位を分析し、代謝産物のシグナルを1,500個以上検出しました。その内、150個以上については、その構造を明らかにしました(図1)。また、カナダのトロント大学と協力し、シロイヌナズナのどの部位にどの二次代謝産物が蓄積しているかが一目で分かるデータベース 「AtMetExpress development」を構築・公開しました(図2左)

研究チームは、このデータベースを利用してシロイヌナズナの花、根、種子を解析した結果、それぞれの部位に特徴的な二次代謝産物が蓄積していることを突き止めました。つまり、同じ植物でも、部位が異なるとまったく違う構造を持った二次代謝産物を生合成・蓄積していることを明らかにしました。具体的には、種子にはリグナン類が、根からはクマリン類、花からはポリアミン類を発見しました。これらの結果から、植物は、多様な化合物を生合成する天然の優れた有機合成システムであり、種子や花といった部位に着目して生合成のメカニズムを調べ直すことで、人類にとって有用な二次代謝産物がまだまだ見つけられることを示しました。

さらに、今回得たメタボローム解析データを、当センターも参画して構築したシロイヌナズナ全遺伝子の部位ごとの発現データベース(AtMetExpress:図2右)(2008年5月23日プレスリリース)と統合して解析することで、二次代謝産物の蓄積パターンと、遺伝子の発現パターンを直接比較することが可能となりました。実際に、花や種子にだけ蓄積する二次代謝物の蓄積パターンと発現パターンがよく似ている遺伝子を探索したところ、例えば、花でのポリアミン類の生合成を触媒する遺伝子SHTなど、候補となる生合成遺伝子を見つけることができました(図2)。二次代謝産物の生合成遺伝子の発見は、植物科学研究により発展してきた植物バイオテクノロジー技術と組み合わせることで、あらたな代謝機能を持つ植物の創製につながります。

今後の期待

研究チームが構築したLC-MS/MSを用いたメタボローム分析系を用いると、どんな二次代謝産物が、どの植物のどの部位に、どれくらい含まれているのかを調べることができます。その結果、植物が持つ新たな有用成分を同定したり、その生合成にかかわる遺伝子を見つけるなど、さまざまな用途への応用が期待できます。現在、研究チームは、イネやコムギをはじめ、さまざまな作物や薬用植物の成分について、データの取得を進めています。ゲノム配列、遺伝子発現、天然物化学など、これまで蓄積してきた情報と統合することで、植物の二次代謝産物の機能の多様性への理解が深まり、医・食、工業材料など、人類に欠かせない有用成分を植物から取得するための戦略を立てることが可能となります。

発表者

理化学研究所
植物科学研究センター
メタボローム基盤研究グループ
グループディレクター 斉藤 和季(さいとう かずき)
Tel: 045-503-9488 / Fax: 045-503-9489

メタボローム解析研究チーム
客員研究員 松田 史生(まつだ ふみお)
Tel: 045-503-9442 / Fax: 045-503-9489

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 二次代謝産物
    植物の生存に必須である糖、有機酸、アミノ酸、脂質などを一次代謝産物、それ以外の多様な構造を持つ成分を二次代謝産物と呼ぶ。植物による外的への防御、ストレス耐性、昆虫の誘引などにかかわると考えられている。
  2. 液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)
    液体クロマトグラフィー(LC)とは、代謝産物を分離する技術の1つ。液体クロマトグラフィーによって分離し、溶液として順次流れ出てくる個々の植物成分の質量を、タンデム型質量分析計(MS/MS)を用いて検出する。数千種類の成分を一度に検出可能である。

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シロイヌナズナが生合成・蓄積する二次代謝産物の構造

図1 シロイヌナズナが生合成・蓄積する二次代謝産物の構造

紫:種子に特異的に蓄積する代謝産物の構造
青:根に特異的に蓄積する代謝産物の構造
赤:花に特異的に蓄積する代謝産物の構造

代謝物蓄積データと遺伝子発現データ

図2 代謝物蓄積データと遺伝子発現データ

左:シロイヌナズナ代謝物データベース (AtMetExpress development)の一例。
花に特異的に蓄積する二次代謝産物di-p-coumaroylspermidineの蓄積パターンをあらわし、緑色が濃いほど蓄積量が多いことを示す。

右:シロイヌナズナ遺伝子発現データベース(AtGenExpress developmental)の一例。
di-p-coumaroylspermidineの生合成を触媒する酵素遺伝子Spermidine hydroxycinnamoyltransferase (SHT, At2g19070)の発現パターン。赤色が濃いほど蓄積量が多いことを示す。

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