広報活動

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2010年4月7日

独立行政法人 理化学研究所
台湾中央研究院天文及天文物理研究所

すざく衛星で、宇宙最大の構造が成長する現場をとらえる

-宇宙の大規模構造形成に伴って加熱された高温ガスを発見-

ポイント

  • 銀河団外縁部の2,000万度の高温ガスの中に、6,000万度に達する高温領域が存在
  • 高温領域から外側に伸びる大規模構造を発見、そこから流れ込む冷たいガスが加熱原因
  • 最新のX線観測と可視光観測の組み合わせで、宇宙の動的な成長が明らかに

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と台湾中央研究院(Chi-Huey Wong院長)天文及天文物理研究所(Paul Ho所長)は、宇宙最大の天体である銀河団(数百から数千の銀河の集団)が、その外側に連なる銀河の大規模構造※1から物質が流れ込むことで成長している証拠を、世界最高感度を持つJAXAのX線天文衛星「すざく」※2を用いて世界で初めてとらえることに成功しました。これは、基幹研究所 元牧島宇宙放射線研究室(牧島一夫主任研究員、2010年3月主任研究員の定年退職に伴い閉室)の川原田円基礎科学特別研究員(現 独立行政法人宇宙航空研究開発機構の宇宙航空プロジェクト研究員、独立行政法人理化学研究所 仁科加速器研究センター 玉川高エネルギー宇宙物理研究室 客員研究員)と台湾中央研究院天文及天文物理研究所の岡部信広研究員を中心とする研究グループの成果です。

JAXAの「すざく」衛星は、従来のX線天文衛星よりも、薄く広がったX線放射に対して高い感度を持つため、銀河団の高温ガスが放射するX線を、これまでより外側まで観測することができます。研究グループは、このすざく衛星を用いて、Abell 1689 銀河団※3に付随する高温ガスを、かつてないほど外側の領域まで検出し、銀河団の外縁部で、2,000万度の高温ガスの中に6,000万度の高温領域が存在することを発見しました。さらに、米国のスローン・デジタルスカイサーベイ※4の観測データから銀河の分布を調べ、Abell 1689銀河団の高温ガス分布と比較したところ、この高温領域から外側に伸びる銀河の大規模構造を見つけました。高温領域とそこから伸びる大規模構造の発見により、大規模構造から冷たいガスが流れ込み、銀河団とぶつかるときに生じた衝撃波によってガスが加熱されたものと考えられます。

さらに研究グループは、国立天文台のすばる望遠鏡※5で観測した重力レンズ現象※6のデータと、すざく衛星のX線データを組み合わせた解析からガスの状態を調べ、大規模構造と接していない低温領域では、銀河団の巨大な質量を支えるために、ガスが流れを持っている可能性が高いことも分かりました。銀河団が、より大きなスケールの大規模構造と作用しながら動的に成長していく姿を、最新のすざく衛星によるX線観測と、すばる望遠鏡による可視光観測の密接な共同作業によって初めて明らかにすることができました。今後は、より多くの銀河団で観測を行う予定で、理論やシミュレーションと比較し、宇宙の構造がどのように進化していくのかを詳細に解明できると期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『アストロフィジカル・ジャーナル』(713号: 5月1日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(4月9日付け:日本時間4月10日)に掲載されます。

背景

銀河団は、暗黒物質※7の作る重力場の中に、高温ガスと数百から数千の銀河が閉じ込められた、宇宙最大の天体です。銀河団の質量の約85%は、暗黒物質が担っており、残りの15%のうち約12%が高温ガス、約3%が銀河です。実は宇宙において、正体不明の暗黒物質を除く物質の4割ほどは、銀河団などに付随する高温ガスとして存在しています。また、蜘蛛(クモ)の巣状に分布する銀河とガスの大規模構造の糸と糸が交わる結節点に、銀河とガスが高い密度で集中し、銀河団が形成されます(図1)。このような宇宙の大規模構造の中で、銀河団がどのように成長していくのか、これまでは明らかになっていませんでした。

研究手法

銀河団の構成要素のうち、銀河は通常の可視光望遠鏡によって、X線を放射する高温ガスはX線天文衛星によって観測することができます。暗黒物質は、その正体は不明ですが、質量は、可視光望遠鏡による重力レンズ現象の観測や、X線天文衛星による高温ガスの分布の観測などから測定することができます。JAXAの「すざく」衛星は、従来のX線天文衛星よりも、薄く広がったX線放射に対して高い感度を持つため、これまで全体積の中心1割ほどしか観測できなかった銀河団の高温ガスを、外側まで全体にわたって観測することができます。また、国立天文台のすばる望遠鏡などで得られる質の高い可視光のデータを使えば、重力レンズ現象を観測することができ、暗黒物質を含めた銀河団の質量の分布を精密に測定することが可能になります。研究グループは、これらX線・可視光・重力レンズ現象の3種類の観測手法を組み合わせることによって、従来得られなかった新しい情報を取得することに挑みました。

研究成果

すばる望遠鏡のデータなどから重力レンズ現象が観測されていたAbell 1689銀河団を、すざく衛星で観測したところ、銀河団の境界領域付近まで、高温ガスからのX線放射を検出することに成功しました。境界領域の高温ガスの温度を計測すると、約2,000万度でしたが、一部に6,000万度に達する高温領域を発見しました(図2)。さらに、米国のスローン・デジタルスカイサーベイのデータから銀河の地図を作ると、この高温領域から外側に向かって伸びる銀河の大規模構造が存在することが分かりました。このことから、大規模構造から流れ込んできた冷たいガスが、銀河団にぶつかるときの衝撃波によって、銀河団の高温ガスが加熱されたものと考えられます。

また、高温ガスの分布を、すばる望遠鏡などの質の高いデータから観測した重力レンズ現象と比較した結果、高温領域のガスは、銀河団の質量と釣り合ってその場にとどまった状態にあり、そのほかの領域では、銀河団の巨大な質量を支えるために、ガスが流れを持って動いている可能性が高いことも分かりました。

今後の期待

今後は、より多くの銀河団で、X線・可視光・重力レンズ現象の観測を組み合わせた研究を行う予定で、理論やシミュレーションと比較することで、激しく成長する宇宙の姿が、ますます明らかになっていくと期待できます。

発表者

理化学研究所
基幹研究所 元 牧島宇宙放射線研究室(2010年3月閉室)
基礎科学特別研究員 川原田 円(かわはらだ まどか)

(現)独立行政法人宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究所 ASTRO-Hプロジェクトチーム
宇宙航空プロジェクト研究員
Tel: 042-759-8510 / Fax: 042-759-8546

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理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. 大規模構造
    宇宙を俯瞰すると、銀河やガスが蜘蛛の巣のような構造をつくって存在している。これを、宇宙の大規模構造という。蜘蛛の巣の糸と糸が交差する結節点に、銀河団が形成される。
  2. 「すざく」
    2005年7月に鹿児島県の内之浦宇宙観測センターから打ち上げられた、日本で5番目のX線天文衛星。 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が主体となって開発され、運用が行われている。
  3. Abell 1689銀河団
    地球から24億光年先にある銀河団。すばる望遠鏡などで得られた質の高いデータから、重力レンズ現象(※6参照)が観測された銀河団として有名。
  4. スローン・デジタルスカイサーベイ
    米国のアパッチポイント天文台にある2.5メートル望遠鏡を使って、全天の4分の1の領域の銀河やクエーサーといった天体のカタログを作成する、大規模な観測計画。
  5. すばる望遠鏡
    ハワイ島のマウナケア山頂に日本が建設した、世界最高クラスの性能を誇る口径8メートル望遠鏡。 国立天文台が主体となって開発され、運用が行われている。
  6. 重力レンズ現象
    銀河団などの天体の重力によって、遠方の銀河が発する光の経路が曲げられる現象。
  7. 暗黒物質
    光を発しない、通常の物質とは異なる正体不明の物質で、銀河団の質量の大部分を占める。

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シミュレーションによって求めた、宇宙におけるガスの3次元分布

図1 シミュレーションによって求めた、宇宙におけるガスの3次元分布

ガスが蜘蛛(クモ)の巣のような構造(大規模構造)で分布している。糸と糸が交わる結節点(ガス密度が高い赤の部分)が銀河団である(2001年のアストロフィジカル・ジャーナル 558号に掲載された、吉川らの研究成果より)。

Abell 1689銀河団の高温ガスの温度マップ(ピンク)と周辺の大規模構造(紫)

図2 Abell 1689銀河団の高温ガスの温度マップ(ピンク)と周辺の大規模構造(紫)

紫は、銀河の密度が高い領域を示している。ピンクの白い部分ほど、よりガスの温度が高い。Abell 1689銀河団の左上方向で、銀河団と大規模構造がつながっており、その連結部分で、ガス温度が高いことが分かる。

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