1. Home
  2. 研究成果(プレスリリース)
  3. 研究成果(プレスリリース)2010

2010年6月3日

独立行政法人 理化学研究所
独立行政法人 物質・材料研究機構
高島産業株式会社

工業材料や部品、製品などの内部構造を1μmの精度で三次元観察

―市販化を目指した装置で、内部構造の三次元観察に成功―

ポイント

  • 人の手で行ってきた金属材料の三次元観察を完全自動プロセスで実施
  • 世界で2番目に硬い材料で鏡面加工、材料の三次元内部構造情報取得を実現
  • 小型3次元内部構造顕微鏡を仏・アヌシ―のEMM 2010 Conferenceで発表

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS、潮田資勝理事長)と高島産業株式会社(小口武男代表取締役社長:長野県茅野市)とともに、材料の内部構造を1μmの精度で詳細に観察する、実用レベルの小型3次元内部構造顕微鏡の開発に成功しました。同顕微鏡は、理研とNIMSが共同で開発した、ビッカース硬度※150GPa程度で現在実用に供されている材料の中ではダイヤモンドに次いで硬く、熱化学的に安定な立方晶窒化ホウ素(cBN)の切削加工技術を活用して、材料の断面を鏡面加工し、詳細な断面の観察を多断面にわたって実施する3次元内部構造顕微鏡システム※2です。同顕微鏡の心臓部となる鏡面切削加工技術は、理研社会知創成事業イノベーション推進センター生物基盤構築チームの横田秀夫チームリーダー、藤崎和弘客員研究員(北海道大学助教)とNIMSナノスケール物質萌芽ラボ超高圧グループの谷口尚グループリーダーらによる共同研究で開発しました

研究グループは、高島産業の既存の加工装置をベースに、鏡面加工と撮影、1μm以下の高精度な位置決め、三次元の画像処理までを完全な自動プロセスで行う観察装置を開発しました。これまで、金属材料の内部構造の観察は、人の手で材料断面を研磨して鏡面に加工し、顕微鏡観察を行っていました。三次元観察を実現するためには、材料の切断、研磨、写真撮影という工程を何度も繰り返す必要があり、多大な時間と労力がかかることから、二次元観察が一般的です。今回開発した装置は、精密加工機による切削で鏡面加工することで、人の作業が不要になります。また、撮影や正確な位置決めも完全な自動プロセスで行うため、短時間で高精度な三次元情報の取得が可能となります。これにより、材料内部の介在物や空隙、亀裂といった欠陥の形状や分布を明らかにすることができ、部品や製品の欠陥発生の原因を究明することに加え、効率的な長寿命製品の開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は、高島産業が経済産業省戦略的基盤技術高度化支援事業で行っている「三次元内部構造顕微鏡を用いた高精度形状測定及び内部観察技術の開発」の共同研究の中で実施しました。この装置は、2010年6月3日にフランスのアヌシー(Annecy)で開催されるEMM 2010 Conferenceと、6月8日のスイスのジュネーブで開催されるEPMT Showにおいて、世界で初めて発表します。

背景

工業材料の破壊や疲労特性は、材料の内部構造により生じる応力集中や局所ひずみに大きく依存します。衝撃や繰り返し負荷が作用するような場所では、材料内部の介在物や空隙などの欠陥部が、亀裂発生の起点となることが知られています。このような欠陥部の形状や分布(存在位置)、および亀裂の伝播形態を観察することができると、破壊現象の解明や予測に欠かせない重要な情報を得ることができます。例えば、自動車用部品などは鋳造で作られる部品が多くありますが、内部にできる鋳巣(空隙)が破壊強度を著しく低下させる場合があります。現在、鋳巣の検査確認方法は、超音波やX線マイクロCT※3などが用いられていますが、このような鋳巣の存在が製品の破壊や寿命にどれだけの影響を与えているかを完全に理解することはできていません。鋳巣の影響を評価し、鋳物製造プロセスを改善するためには、より鮮明な形や分布情報が必要となります。

近年、材料の微細な内部構造観察に、SPring-8など大型放射光施設を利用したX線マイクロCT撮影を活用するようになってきました。X線マイクロCTでは、材料内部を透過するX線の減衰量から内部構造を推定します。そのため、X線が透過しにくい金属材料では、測定可能な厚さに制限があります。このような制限のある材料の内部構造を観察する際には、人の手で試験片を切断し、切断面を鏡のように研磨して顕微鏡観察する断面観察法が用いられてきました。この観察を多断面にわたり実施することで、内部構造の三次元データを取得できます(シリアルセクショニング法、図1)。しかし、例えば1mmの厚さを1μmの精度で三次元観察するためには、1,000回もの工程が必要となるため、観察までに3カ月以上かかります。このように、各断面を研磨する作業には膨大な労力と時間を要し、多断面にわたる調査は困難でした。また、断面画像を重ねて三次元化するためには、撮影した各画像間の位置ズレ補正や、深さ方向の情報である研磨厚さの正確な把握が必要となります。このため、通常は数断面ごとに位置決めの目印や、研磨深さの指針となる目印を試験片断面につけるなどの工夫をしていました。従って、従来の方法では、μmオーダーの高精度でmm領域の三次元情報を短時間で得ることは困難でした。

研究手法と成果

理研は、これまで、精密切削と顕微鏡観察を同時に行う自動観察システム(3次元内部構造顕微鏡システム)の開発に取り組んできました。この3次元内部構造顕微鏡システムでは、精密加工技術が鍵となっています。自動制御型の精密加工機で材料を切削することにより、金属材料の顕微鏡観察に必要な鏡面加工と撮影、1μm以下の高精度な位置決め、三次元の画像処理までを完全な自動プロセスとして実施することが可能になります。特に、材料観察面を鏡面加工する切削工具の素材として、ダイヤモンドより硬度は低いものの、鉄系金属材料に対してはダイヤモンドよりも安定な立方晶窒化ホウ素(cBN)に着目し、NIMSとともに精密切削用に開発した「超微粒子バインダレスcBN工具(2009年10月6日発表)」を活用しました。この切削工具の採用により、多種多様な金属材料の内部構造を観察できるようになります。

今回、研究グループは、この3次元内部構造顕微鏡システムを基に、市販化を目指した専用観察装置の開発に取り組みました。装置は、高島産業のマルチプロ(第3回ものづくり日本大賞優秀賞受賞)の高精度仕様機をベースマシンとしました。幅50cm・奥行き60cm・高さ70cmと机に置ける小型サイズで、扱いやすいものになっています(図2)。また、空気軸受による高速回転の主軸を有し、超微粒子バインダレスcBN工具の切削加工で迅速かつ正確に、さまざまな金属材料の鏡面加工を実現します。さらに、顕微鏡撮影、次の断面観察の為の切削除去と観察位置までの移動を、正確な位置決めにより、完全な自動プロセスで行うことで、金属内部の欠陥の形状と分布を1μm以下の分解能で検出できます。本装置による完全自動化したシリアルセクショニング観察により、材料内部の三次元情報を短時間で容易に取得できるようになりました。

今後の期待

開発した観察装置は、介在物や鋳巣といった材料内部の欠陥の有無を検出するだけでなく、欠陥の形状や分布など詳細な情報を取得することができます。この観察装置を利用し、工業製品の内部構造を詳細に調査することで、材料内部の欠陥の形状や分布が、製品の品質や安全性にどれだけ影響を与えているかを明らかにすることが可能になります。さらに、取得した三次元情報を基にコンピュータシミュレーションを行うことで、材料の破壊現象の解明が大きく進展すると期待できます。

今後、部品や製品の欠陥発生の原因を究明することに加え、効率的な長寿命製品の開発に貢献することが期待されます。高島産業は、半年後の市販化を予定しています。

各社概要

○独立行政法人理化学研究所
物理学、化学、医学、生物学、工学などの広範な科学・技術分野において、基礎から応用に至る研究を実施する日本で唯一の自然科学の総合研究所として、わが国の研究基盤形成、国際的にも研究水準の向上に貢献しています。

○独立行政法人物質・材料研究機構
物質・材料研究専門の中核的機関として、「ナノテクノロジーが拓く持続可能社会形成のための物質・材料科学」を基本理念に運営しています。「ナノテクノロジーを活用した新物質・新材料の創成」及び「社会ニーズに対応した材料の高度化」を特に重点的に研究開発すべき課題として掲げ、さまざまな研究を推進しています。

○高島産業株式会社
精密加工および精密加工機械設計開発における精密制御技術を専門とする企業。特に、高精度装置の小型化における卓越した技術と実績があり、小型精密卓上加工装置の製造を手がけ多くの販売実績を持っています。1945年3月16日設立、資本金2400万円、本社は長野県茅野市。

発表者

理化学研究所
イノベーション推進センター 生物基盤構築チーム
チームリーダー 横田 秀夫(よこた ひでお)
Tel: 048-462-1293 / Fax: 048-462-1290

お問い合わせ先

イノベーション推進課
Tel: 048-462-5475 / Fax: 048-462-4718

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.ビッカース硬度
    物質の硬さを表す尺度の1つ。試料に対して対面角約136°の正四角錐のダイヤモンド圧子を押し込んだ後の、試料表面の凹みの表面積と試験荷重の比から定義される。試料の性状(単結晶、焼結体など)に依存するが、ダイヤモンドおよび炭化タングステン(WC)のビッカース硬度はそれぞれ85~100GPa、14GPa程度である。
  • 2.3次元内部構造顕微鏡システム
    基幹研究所の生体力学シミュレーション研究チームが開発した、シリアルセクショニング法による材料内部の三次元観察システム。マウス全身や大型動物の臓器などの内部構造を、三次元的に観察することが可能。内部構造の可視化だけでなく、機能情報の取得などへの展開も期待されている。現在、生体硬組織や工業材料のような硬い組織の観察にも応用できるようにするため、精密切削技術をベースにしたシステムの開発を進めている。
  • 3.X線マイクロCT撮影
    X線を利用した非破壊内部構造観察法である、X線CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)のX線照射域を絞ることで高分解能観察を可能にした技術。生体組織では骨の内部などの構造解析に使われてきたが、近年、高輝度放射光の利用などにより、X線吸収の大きな金属材料などでも、高分解能な内部構造観察が進められている。
シリアルセクショニング法の図

図1 シリアルセクショニング法

開発した装置の外観と装置の内部の様子の画像

図2 開発した装置の外観と装置の内部の様子

装置は、幅50cm、奥行き60cm、高さ70cmの小型サイズ。試料設置部は、切削、顕微鏡撮影、観察位置までの移動などを1μm以下の高精度な位置決めで行い、加工部はcBN工具の切削加工で材料の断面を鏡面加工する。観察部は鏡面加工で得た材料の断面を観察する。これらの工程は、完全な自動化プロセスとなっている。

Top